scene2 観察者モード発動
弟子が持ち込んだ噂を聞き終えるやいなや、
シアンは音もなく机に向き直った。
手元の引き出しを開き、
すでに用途別に分類されたノートを、迷いなく数冊取り出す。
ぱん、と机に並ぶ黒革のノート。
表紙には、端正な文字でこう書かれていた。
『噂① 勇者勝利説』
『噂② 魔王勝利説』
『噂③ 共倒れ説』
『噂④ 勇者洗脳説』
『噂⑤ 魔王行方不明説』
弟子
「せ、先生……!? もうノートが用意されていたんですか!?」
シアン
「噂は突然生まれるものだ。
ゆえに“空白のノート”は研究者の必須装備だよ。」
淡々と語りながら、
シアンは各ノートをパラパラとめくり、
噂ごとに得られた情報を細かく書き分けていく。
その目は、まるで未知の魔物を初めて解剖するときのように輝いていた。
シアン
「……最高だ。実に面白い。」
弟子
「ど、どこがですか!? 全部違ってて混乱するだけじゃ……!」
シアン
「違うからこそ、いいんだよ。
矛盾があるということは“観る価値がある”ということだ。」
ノートを閉じると、
シアンはローブを翻して立ち上がる。
弟子
「せ、先生!? どこへ行くんです!?」
シアン
「真相を観察しに行く。
一次情報は、常に現地にあるんだよ。」
弟子
「げ、現地って……まさか魔王城!?!?」
シアン
「そうだ。観察対象がそこにあるのなら、行くしかない。」
淡々とした声なのに、
背中からは抑えきれないワクワクが滲み出ていた。
こうして、“好奇心の化身”シアンの出発準備が静かに整い始めた。




