第一話 遅すぎる魔王城の朝 scene1魔王城のゆるすぎる目覚め
魔王城の天井には、時間帯に合わせて色味が変わる魔力光が張り巡らされている。
夜明けを告げる柔らかな白金色が広間を満たすと、
小鳥の代わりに、魔力でできた光の球がふわふわと漂い始めた。
王城に朝を知らせるための華やかな演出——
のはずなのだが、肝心の主はまるで反応しない。
巨大な天蓋付きの寝台。
その中央で、魔王アザルはふかふかの布団に半分以上埋まり、
ほんの少しだけ顔だけを外へ出していた。
目は細く、かろうじて開いている。
が、意識は布団の温もりが握って離さない。
(……外が明るくなったからって、起きる理由にはならない……)
光球が一つ、彼の鼻先をくすぐるようにふわりと通り過ぎた。
だがアザルは瞬きすらしない。
むしろ、わずかに眉尻を下げて、
“もう少し寝かせてほしい”という意志を無言で表現する。
魔王城の朝は今日も遅い——。
いや、遅いどころか、“始まらない”と言った方が正確かもしれない。
それでも誰も咎めない。
この城では、魔王が起きないことこそが平和の印であり、
一日のスムーズな進行に不可欠の条件なのだから。
布団の角に込められた魔力が、
心地よい温度でアザルの肩口を包み込む。
(……もう少し……もう少しだけ……)
光の朝を告げる魔力球たちが静かに漂う中、
魔王は優雅で怠惰な“戦わない一日の始まり”を、
まだ夢の中で味わっていた。




