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王宮ゴシップライターですが、イケメン監察官にバレたら監察補佐に指名されちゃいました

作者: 大井町 鶴

短編24作目になります。いつも読んでくださる皆さまも、今回が初めての方も、本当にありがとうございます。

今回は、王宮ゴシップライターがネタ帳を落とした……というところから始まるバタバタ劇です。どうぞ最後までお付き合いくださいませ(o´∀`o)

王宮東棟の人通りのない夜の廊下をウロウロとする侍女の姿があった。


「ないったら、ない〜!私のノートどこにいっちゃったの~!!」


先日、腰ポーチのフタが開いていてこの辺りにネタ帳を落とした。


(あれを見られたらマズすぎる!)


ツェツィーリエは焦っていた。


落としたネタ帳には、この王宮内で見聞きしたネタがぎっしりと詰まっている。あんなのが人に知られたら、侍女職をクビになるどころか罰せられる可能性大だ。


ツェツィーリエは没落気味の子爵令嬢で、苦しい実家の生活を助けるために学園を卒業するとすぐに王宮で侍女として働いていた。


彼女の成績はとても優秀だったから、男性社会でなければ新聞社でバリバリと働いてみたい!という気持ちであった。だが、女性は礼法をわきまえている方が求められている。


というわけで、侍女として働きながら密かにゴシップ誌で匿名ライターとして活動していた。これは、貴族たちの恋愛事情や流行り物を書いていて非常に気楽な読み物だ。


(王宮で侍女をしているからこそ、書ける記事でもあるわよね)


シリアスな内容ではないから、匿名ライター探しを真剣にされることもない。リスクは低くて安心なハズだった。


しかしながら、ネタ帳を落とすのはやはりマズイ。


(王宮にライターがいる、と示しているものじゃないの)


落としたと思われる場所は王宮住まいをしている者しか立ち入れない場所だ。自ずと疑わしき人物は絞られてしまう。


というわけで、大急ぎで探しに来たのである。


「そこで何をしている?」

「ひえっ!」


突然、柱から人影が現れて驚いた。


月明かりを背にしているから相手の顔は良く見えないが、背が高くスラリとしている人物だ。


「わ、私はアンゼルマ様から本を借りて来るように言われてここを通っただけでございます」

「何?アンゼルマ様の侍女か?」

「はい。ツェツィーリエと申しまして、アンペール子爵家の者です」

「ああ、あの没落気味の……いや、失礼。私はフランツ=バルビットだ」


失礼なことを言ったフランツは、軽く頭を下げる。


彼は、確かバルビット伯爵家の次男で風紀監察官をしている男だ。切れ長な目元と端正な顔立ちで、侍女たちからもキャーキャー言われている男だ。


(ヤバ……私的には会いたくない人に会っちゃったわ)


「……というわけでして、たいへん急いでおりまして。失礼いたします!」


ツェツィーリエは軽くスカートの裾をつまむと、急いでお辞儀をして立ち去ろうとする。


だが――


「ちょっと待て」


鋭い声にピタリと足が止まる。こういうのは心臓に悪い。彼女は仕方なく、ゆっくりと振り返った。


「君、“本”を持っていないな。図書室はさきほど閉まったから、今は帰り道のはず。なのに、本が見当たらないのはおかしい」


「……」


とっさに言った言い訳の矛盾を彼は見抜いていた。


「ア、アンゼルマ様の望まれた本のタイトルは秘密にしませんと。ですから、服の下に入れて運んでいたのです」


服の下に本があるようなフリを急いでする。


「服の中?……ならば、確認するわけにはいかないな」

「あ、当たり前です!」


フランツはジロジロとツェツィーリエを見た。


(何なのこの人。女性をジロジロ見るなんていやらしい。失礼だわ!)


嘘をついたのは自分だが、このフランツも曲者だと思えた。


「実は、ここでとある物を拾ってな。それには、ゴシップ誌に載りそうな内容が書かれていた。しかも、この私のことも書いてあったな」


確かにネタ帳にはフランツのことも書いてあった。彼に告白する者がどれほどいたとか、他愛ないものだ。


「私的には迷惑していてな。風紀監察官の自分がゴシップ誌などに載るわけにはいかないんだ」

「は、はあ。そのようなことをどうして私にお話になるのでしょう?」


ツェツィーリエが冷や汗をかきながらもやや強気に問うと、フランツは少し呆れたような、楽しんでいるような笑みを浮かべた。


「君は色々と言ったが、私は君の書く字をよく知っている。業務報告書のチェックは私もしているからな。だから、業務報告書とネタ帳の文字が同一人物であるとすぐに気付いた。それに、君はネタ帳を見つけた場所にいた。君は面白いことを言う」

「っ……!」


(ここは素直に認めて、大目に見てもらう方が得策?)


頭の中でグルグルと考えた。


「……認めましょう。ですが、あんな娯楽誌でも私はやりがいを感じているんです!記事分の報酬だって我が家のことを思えば嬉しいですし。だから、大目に見てもらえませんか?」

「私に黙って見逃せと?」


月明かりに反射する彼のダークグリーンの瞳がギラッと光った。


「いいだろう。ただし、条件がある」

「じ、条件ですか?私にできることでお願いします。でも、その、愛人になれとかそういうのは勘弁して……」


先ほど、ジロジロと見られたことを思い出してつい言ってしまった。


「誰が愛人にするなど言った?勝手に汚らわしいイメージを持たないでくれないか」


フランツはモテ男なのに、その辺はきっちりとしている人なんだなと緊迫しているのに思った。


「私の仕事は、王宮内の秩序を守ることだ。君は観察眼がなかなかある。だから、私の“監察補佐”として働いてみないか?報酬も支払おう」

「えぇ!? 」

「ライターを続けたいならばそちらも続けてもいい。だが、私が精査したもののみ許可する。あと、私についてはもう書くな」


(何と言う好条件!収入もアップするし、私も認められているということよね。これは素直に嬉しい!)


王宮侍女の仕事に新たな意義が加わってワクワクした。フランツの提案はツェツィーリエの好奇心を刺激しまくった。


「嬉しそうだな。やる、ということでいいな?」

「はい!ぜひとも!私はあなたのお役に立ちます!」


フランツが笑う。


「君は侍女にしておくのはもったいない人だな。とはいえ、侍女という立場だからこそ、私の役にも立つのだが。というわけで、さっそく仕事をしてもらうぞ」

「え、もうお仕事ですか?」


展開の早さに戸惑った。


「君のネタ帳に“女王陛下の侍医が美女と密会”とあったな?その美女は王弟の親類だ。きな臭いだろ?君のゴシップネタは深刻な事件になるかもしれないぞ」

「え、まさか……」


ツェツィーリエは予想しない話に焦る。フランツはニヤリとした。


「これから確認することがたくさんある。君も忙しくなるな」


これはもはや、ゴシップの範疇外なのではと思いつつ、フランツに言われるまま新たな仕事をすることになったのだった。


……最近、侍女たちの集う休憩所ではこんな話がささやかれていた。


「フランツ様とツェツィーリエさん、よく一緒にいるのに、なぜ記事にならないのかしらね?」

「さすがに匿名ライターも風紀監察官のことをネタにするのはマズイと思っているのではないかしらね?」


そんな侍女たちの噂を背に、ツェツィーリエは今日も書類を抱えて東棟へ向かう。フランツに提出する定期報告だ。


いつものようにノックをしてフランツの執務室に入る。彼はペンを走らせていたが、ツェツィーリエの気配に気付いて顔を上げた。


「おお、来たか。例の件の続報、気になっていたんだ」


今は、最近、派手に高位令息たちに近づいている美女について調査中である。ちなみに、王弟案件の方は、ただのゴシップで平和に終わった。


「はい。あの美女、どうやら様々な令息を骨抜きにしているみたいで、庭でよく密会をしています。さすがのフランツ様も狙われたら落ちちゃうかもしれませんね」

「そんなわけない」

「なぜです?」


フランツが席を立つと、ツェツィーリエに近づいてくる。


「私は、美しさだけでなく、観察眼と文才のある女性の方が断然、惹かれるな」

「そ、それはどういう……」


目の前でダークグリーンの瞳が妖しく揺れた。


「君は、案外、自分のことには鈍いのだな。こうしたら分かるか?」


フランツはツェツィーリエの髪をすくうとキスする。


途端に顔に火が付いたように赤くなったツェツィーリエだ。



「分かったか?」

「は、はぃぃ……勘弁してください」


どうやら自分はお金とやりがいだけでなく、愛も手に入れたのかもしれないとツェツィーリエは感じたのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました(♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

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