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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
2章「現在と未来1」
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9,違和感と〇

「2年でサークル長とは、さすがは次期社長だな」


「社長?――まさか黒坂って」


「ああ、日本有数の大企業「黒坂コーポレーション」社長、黒坂 董吉氏の1人息子だ」


だから、彼女は知っていた訳か。いや、待てよ。いくら有名な企業だからって、関係者でもないのに、知っているモノなのか?いや、彼女なら否定できないか。


「自分の話はこれくらいにして、本日のご用件とは?」


そう言われ、猪狩講師に話した内容を2人にも伝える。第三者、しかも初対面の相手に、このような不可解な話、逆の立場なら、聞くに耐えないものの筈だ。けれど、2人の反応はこちらの予想に反し、真剣そのものだった。


「時間軸を操作する能力か、興味深い」


「それだけじゃないわ。今の話から他人にもその能力を付与させる可能性があるかも」


「若しくは、ドアのような物体に能力を付与する能力か――」


寧ろ、当人たちを放置したまま、白い仮面についての考察を、2人だけで始めてしまう程だった。


「そう言えば、その過去に繋がったドアは?」


「ああ、今朝確認したら――」


――そもそも、そんな路地“なかった”。


記憶を辿り、何度も何度も確認した。しかし、その路地は、存在しなかった。なんなら、白い仮面が現れた路地さえも、確認することができなかった。


「つまり、三笠先輩がハンカチを拾い、路地を確認した時には、能力の影響を受けたとみるべきか、それともまた別の何かが――」


結構恐ろしい発言をしたのだが、黒坂は冷静のままだった。本来なら「なら夢では?」と言われてもおかしくない状況なのに――。


そういった点では、彼女がこのサークルに相談したことの判断に、間違いはなかった。ただ、余りにも、受け入れ態勢がいいというか、慣れている印象が気になる。


「三笠さんの話だと、相手はアナタのことを知っていたという話でしたが」


『何故オマエがここにいる?』


「そう思わせる口振りだった。だけど、心当たりはまったく」


悲しい話、俺の交友関係は、決して広くはない。更に、“あの事”を知っている人物になると、本当に存在しているのかさえ、疑わしい。


「もしかしたら、過去や現在ではなく、未来で知り合った人物なのかも」


「未来?」


いきなりSFみたいなことを、真田が言いただす。


「それが1年後なのか、10年後なのか。どれに該当するかは分かりませんが、相手の能力が能力だけに、可能性は否定できない」


「確かに――」


流れで同意してしまったが、俺には1つ疑問が浮かぶ。仮にそうだとして、何故相手は“あの事”について、わざわざ言及したのだろうか?


他に、投げかける言葉はあった筈、それしか俺の情報を持ち合わせていなかったのか。若しくは、俺のことが、余程嫌いだったのか。


「それを解決するには、相手が口にした『事件』について話してもらう必要かありますかね」


黒坂がまた、こちらの言葉を読んだ発言をした為、体がビクッと反応してしまう。いや、話の流れで言ったのかも――。


「また、心を読んでしまい申し訳ない。ただ、今の発言は避けられない事柄かと」


怖い、怖すぎる。この男も異能者なのか?


そう疑いたくなるが、今は置いておこう。それよりも、あの話をするか、しないかが問題だ。相談をこちらからしている以上、「するべき」。分かってる、分かってはいるが――。


「すまないが――」


迷っている俺を見兼ね、猪狩講師が代わりに断ってくれた。「でも」と真田が言葉を発するが、黒坂は彼女の前に手を出し、黙ったまま首を横に振る。


「勿論、無理に話す必要はありません。折行った話だと分かれば、それで十分です。ああ、そうだ。話にでた赤いハンカチとチラシを見せていただいても?」


俺は胸を撫で下ろし、自身の鞄から2つの品を探し出す。


黒坂という人物は、よく分からない。土足で人の心を読んだかと思えば、こちらの意図を汲んで、話を逸らしてくれた。


これは個人の偏見だが、探求心の強い人物は、他者への配慮が欠けがちで、自己中心的な思考の持ち主が多い。それは黒坂も例外ではないだろう。現に、真田に2度も叩かれている。


ただ1つだけ、初対面の俺でも確信したことがある。真田のやり取りと、心を読まれることを除く、こちらへの対応。それと言葉では、言い表せない雰囲気。それを自身が総括した結果、この人物は――“悪いヤツではない”そう思えた。


「ああ、あった」


見付けた2つの品を鞄から取り出し、机に置く。すると次の瞬間――。


「っ!」


これまでの不可解な内容の数々、その全てを受け入れていた筈の黒坂が、はじめてその表情を曇らせる。


「そのハンカチ――いや、まさか」


「ハンカチがどうかしたのか?」


猪狩講師の質問に「い、いいえ――」と返答するがこの場にいる誰しもが、黒坂の様子がおかしいことは、明白だった。


「よろしければ、その2つの品について、調べさせていただいてもいいですか?」


暫く熟考した後、彼のでた言葉がそれだった。


「調べる?」


「黒坂コーポレーションでは、技術開発の一環で、物の劣化年数や、僅かに付着したDNAで年齢や性別程度まで分析する機器がございまして――」


さすが、大企業は違う。


「つまり、チラシが本当に1999年の物なのかと、ハンカチの持ち主の情報が分かると?」


彼はこちらの質問に「その通り」と言いつつ、未だに彼の視線は、赤いハンカチに注がれている。どうするべきか、考えていると猪狩講師から「いいのではないか、すぐに会えるような人物でもないし」と耳打ちで、囁かれる。


彼女の言った通り、今の段階で、あの人物に会う手段はない。ないが、今の彼の反応に、些か不安ではある。


でも、今までの対応と、純粋に白い仮面が何者か、僅かな情報でも知りたい気持ちは、否定できない。であるなら、返答は1つしかなかった。


「お願いします」



2つの品を黒坂に預け、バイトを終えた後、もう一度、あの路地があった場所を確認してみる。


「やっぱりないか」


結果は、朝と変わらず――。当たり前か。時間が経過したところで変わるようなことじゃない。


俺は周囲の工場を見渡しながら、目的もなく歩きだす。


しかし今更だが、あの人物は、どのような目的で、ここを通ったのだろうか?海に程近い、ただの工業地帯。街から外れた道。利点と言えば、ひとけが少ない分、目撃されにくいことぐらい。


目撃が少ない場所で都合がいいこと――。誰かと「密会」していたとか、発見されたら都合の悪い「悪事」を行っていたとか?だとするなら、「誰に?」「何を?」という疑問が、それぞれついてくる。


それに猪狩講師が、迷うことなくあのサークルに、相談したことも気になる。結果的には協力的。いや、どちらかと言えば望んでいた節がある。あのサークルが、どのような存在で、何を目的にしているのか、こちらも明確ではない。


そして、あの黒坂が反応した“赤いハンカチ”。高級そうな品で、白い仮面の所有物だとは思えない。更にあの黒坂の反応。間違いなく、身に覚えがあるのだろう。だとすれば、あの時点で持ち主が誰か分かったのかも――。


「あれ?」


急に発せられた言葉は、左足の違和感にあった。ある筈の地面が――“なかった”。


体のバランスを崩し、必死に右足で全体重を支えようとする。だが、突発的なこともあり、努力は報われず、そのまま“マンホール”の穴へと、落ちてしまった。

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