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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
1章「不運な男」
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7,4度目の――。

わかってる、わかっているさ。1限の臨時休講や、ラーメン屋の臨時休業はともかく、3限のアレは別段『運』が悪かった訳ではない。彼女たちに悪意は――多分ないし、直接的な実害があった訳でもない。


大学の知り合いから、やたら連絡はきたが――。


もっと根本的なことを言えば、今日の出来事が『不運』の部類に割り振られること事態、人によっては疑問に思うかもしれない。世の中には、アレ以上の厄災に見舞われている人がごまんといる。


自身に起きた都合の悪いことが、偶然重なったからといって、自身を『悲劇の主人公』に仕立て上げるのは違う気がする。ましてや、それを他人に責任転嫁するなど――。


だからではないが、あの問題児の2人には、あれ以上のことを言及せず、次回から何かを計画する際は、必ずこっちにも情報共有することを約束させて解放した。


そして今の俺はというと、昨日に引き続き、今日も体を動かしたことで精神的にも、肉体的にも疲労困憊。この後の講義もバイトもない為、まっすぐ家へと向かっていた。


北浦には「買い物に付き合ってほしいッス!」と頼まれたが、一言「無理!」と言ったら大人しくなり、トボトボと去っていった。


全く、俺の逆鱗に触れたばかりなのに逞しい精神力だ。あの図太いところだけは、見習いたい。さぞ――いや、それは仮に思っていても考えるべきことじゃないか。


自宅へ帰宅する道のりで、そんな馬鹿げたことを考えていると、奇妙な人物が視界に入ってきた。この辺りはひとけがない工場地帯。誰かと遭遇することも珍しいのだが、それよりも更に気になることがある。


こちらから距離にして50メートル以上離れているのに、その人物が不審者だと断定できる程の身なりなのだ。


ズタボロな白い布をマントのように羽織り、ミスマッチな黒い帽子を被り、何かの動物をモチーフにした仮面をつけている。さすがに――。


「怪しい」


というか――怖い。


注目を集めたいのであれば、もっと人が多くいる場所に行けばいい。たが、ここはその真逆。つまり、あの人は注目を集めたい訳じゃないのにあの身なり。そうなると、あの人はどのような目的で――。


「・・・」


相手はキョロキョロと周囲を見渡しながら、反対側の右路地横に小走りで移動する。関わりたくない気持ちではあったが、余りにも奇妙だった為、反射的に目で追ってしまった。


相手が路地横へと消えたと同時に、赤い何かがヒラヒラと舞った。思わずその赤い何かを拾う為、歩く速度を早めた。


「ハンカチ?」


それはハンカチにしては目立つ赤が主体の配色で、枠には金色の細かい刺繍が、施されていた。素人目からでも、高価な物だとすぐ分かる。


十中八九、あの人物の物だろうが、不審な人物に関わりたくはない。しかし、自身の正義感と僅かな良心により「渡すか」という判断に至ってしまった。


俺はハンカチをすぐに拾った後、「すみません!」と相手が視界に消えた路地横に向かって叫ぶ。けれど、その声に対して返事がない。それどころか、相手の姿さえなかった。


「嘘だろ?」


ここまで10秒そこらの時間しか経過していないことと、路地横の光景に思わず声が漏れる。何故ならば、その路地は30メートル以上の間に横道はなく、突き当りにドアが1つだけ――。


先程の小走りの速度からして、あのドアに辿り着くのだろうか?そもそも、結構な頻度でこの道を利用しているが、このような路地だっただろうか?


疑問は尽きないが、このまま考えても仕方がない。俺はその路地に向かって駆け出し、突き当りのドアへと向かう。


ドアの前まで辿り着いたが、改めて見るとおかしい。ドアと言ったものの、建物に入るようなドアではなく、部屋に備え付けてある木製のドアなのである。


「ゴクリ」


急な緊張感に襲われつつ、そのドアの取っ手に手を伸ばし「ガチャ」という音とともにドアを開けた。すると、ドアから白い光に包まれ、反射的に目を閉じた。


暫くしてから、恐る恐る目を開ける。すると、そこは「商店街セール」という旗が路地先に掲げられていた。


「は?商店街?」


この付近に商店街なんてあったか?


唐突な出来事の連続で、頭は追い付かないが、このままジッとしている訳にもいかず、旗のある方向へと足を進める。


路地の先は、確かに商店街だった。しかし何か違和感がある。具体的に「何が?」とは説明できないのだが「並ぶ店」「店先の商品」「それを買う客」何か、何かがおかしい。


「“世紀末”の年末バーゲンセール!見てって、見てって!」


「せ、世紀末?」


どこからともなく聞こえてきた言葉に、驚きを隠せないまま、その言葉がした方へ走り出した。


その声の元は家電量販店。そこに陳列された商品は、昔に見た覚えがある物ばかりで、最近の代物は一切ない。その商品のタグには「世紀末セール」と記載され「どうぞ」と店主らしき人物からチラシを受け取る。


「どういう事だ?世紀末って確か2000年になる前の事だった気がするが――」


しかし、よくよく他の店をみると、同じように「世紀末」を強調するような謳い文句を掲げていた。何かの間違いだと思い、携帯をみるが――。


「圏外?街中なのに?」


慌てて周囲を確認するとコンビニを発見し、そのまま店内にある新聞紙を手に取った。


「嘘だ」


その新聞紙に記載された日付は――。


1999年12月27日(月)だった。



「いやいやいやいやいやいやいや」


コンビニを出た後、文字通り頭を抱えたまま、あてもなく商店街を歩き続けていた。


仕方がない、ファンタジーやSFの類に巻き込まれ、正常でいられる訳がない。ともかく、ともかくだ、元の場所へ戻るしかこちらの取るべき手段はない。だが、こういう場合、大抵――。


「やっぱり」


そのドアは消えていた。


余りにもお約束通りの展開に、「は、はは」と笑ってみる。だからといって状況が好転することはない。よし、一旦落ち着こう。


深呼吸を何度か繰り返し、商店街の入り口かと思われるゲートの柱にもたれかかりながら考えてみる。


所謂、タイムトラベル的な事象は、取り敢えず置いといて、さっき俺が感じた違和感。それは時間じゃなかった。もっと別な気がした。そうそれは「既視感」に近い何か――。


「今日の夕飯は何が食べたい?」


「ラーメン!」


「またラーメン?ハンバーグとかでも良くない?」


偶然耳に入った親子の会話に、背筋が凍った。その理由がこちらの思った通りのモノなのか確かめるべく、親子に視線を移す。


親子のような会話ではあったが、母親サイドの女性は制服を着ており、母親というよりかは姉という印象。一方、子どもサイドは小学生なのか黒いランドセルを背負っていた。


そして、こちらが思った通りの人物だった。


「沙良ねぇと俺?」


今一度、考えてみると幼少期に住んでいた場所に商店街があった。しかし、今は時代の流れから閉店する店が増え、商店街の形を保っていない。


つまり、あの違和感と既視感は、俺の過去の記憶。そうなってくると、これは「夢」というオチの可能性が高い。


「イッタ!」


試しに自身の頬をつねってみるが、痛みを感じる。よって、これは夢ではない訳で――。


「何故オマエがここにいる?」


「っ!」


いきなり声をかけてきたのは、あの奇妙な人物だった。相手はこちらの戸惑う素振りと、ここにきたきっかけであるドアがあった方角を見て「いや、言わなくてもいい」と言いこちらに背を向ける。


「成程、だからこの時代か。全く、罪深い」


「何を言って――」


「オマエは覚えていないのか?」


「何を?」


「この日、何があったのかを――」


その言葉が何かのスイッチかのように、脳裏に痛みがはしり、激しい動悸が起き始める。俺は胸を抑え、その場にうずくまる。


「な、何が――」


上手く言葉が言えない。視覚も段々と暗くなり、意識が――途絶える。


「何だ、覚えているじゃないか――あの“事故”のことを――」


その言葉が微かに聞こえ、以降の記憶は意識とともに暗闇へと消えていく。


「ああ、やっぱり今日はついてない」


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