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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
1章「不運な男」
4/37

4,1限

あの日、幼いボクは不思議な場所で目を覚ます。誰もいない、何もない。青い空と白い雲、そして蒼い海が水平線まで広がっている不思議な場所。


いつから?どうやって?


疑問と不安が心を蝕む中、晴れている青空から『ポツリ、ポツリ』と雨が降る。空を見上げ、呆然とするボク。


本来ならば「こんな時についてない」そう呟いてもいい状況。だけどボクの心は不思議と落ち着いていく。


何故あの時、ボクは落ち着いたのだろう?雨が暖かかったから?小波の音に癒されたから?


理由は分からないまま、周囲を見渡してボクは目的もなく歩き始める。足元の海水はくるぶしまでしかなく、どんなに移動しても深さは変わらない。


なぜ海水だと判断したのかは、海水特有の独特なあの“におい”だったから。そうでなければ、恐らく別の何かだと勘違いしたかもしれない。


ボクは暫く歩き続けるのだが、景色は一向に水平線のまま、足取りは疲労と共に徐々に重くなる。


それは足だけではない。ゴールの見えないこの状況下により、心も段々と重く沈んでいく。そして、とうとうボクはその場にしゃがみ込む。


何がどうしてこうなったの?


限界を迎えた心と体。ボクの目頭が熱くなっていく。そして、涙がこぼれかけた。


その時だった。


「えっ?」


微かに黒い影が水面に映る。反射的に視線を移動させる先には、ボロボロの服と黒い帽子を被った人が背中をこちらに向け立っている。


確かにさっきまで周囲には何もなかった筈なのに、いつから?どうやって?いや、そんなこと、今はどうでもいい。


ボクは自身のズボンが濡れることを省みず、その人物に向かって駆け出した。「これでここから出られる」その気持ちでいっぱいだった。


自然と足に力が入り、水音は激しく音が響く。その音で相手はこちらに気付き、こちらを振り向いた。その人は白い仮面で顔を隠しており、男性か女性か分からない。


それでもボクがここにいることが、相手にとって異常だったのだろう。仮面越しから覗く黒い瞳は、驚いた様子だった。


ここまで蓄積された疲労と海水の強い抵抗の中、無理に走った結果、ボクの息は乱れるも、どうにかその人の目の前に辿り着き、相手を見上げて助けを請う。


「た、助けて下さい」


相手は何かを悟ったかのように「そうか、そうだったか」と呟いた。その声は機械的な声で、見た目と同じく性別は判断ができない。


その無機質な声で、ボクは一気に不安が募っていく。外見のみならず声までも隠す相手、無力な子どもを果たしてこの人は助けてくれる程、良心があるのだろうか?


だけど、相手がボクの目線に合わせ、優しく頭を撫でてくれたことで、その感情は消えていく。


「希望は残っていた」


「それって、どういう意味?」


相手の言葉に返答する間もなく、地面が大きく揺れる。その地響きと共に、背後から光を帯びた何かが海から生えてきた。


「木?」


その形状は木に似ていた。真ん中に太い幹のようなモノが存在し、途中からいくつもの枝に分かれていく。少し、ボクの知っている木と違うのは、その木は金色に輝いていた事と、それぞれの枝から声のような音が聞こえてくる。


「よく覚えておくといい。これがキミの――」


――能力だ。



携帯のアラームが、ピピピピピっと鳴る。目を擦りながらアラームを止め、のそのそと立ち上がり照明をつける紐を探す。


今時スイッチのない古いアパート。だがその分家賃が安いので、文句は言えない。手に糸のようなモノが触れ、それを無意識に掴み引っ張り灯りがついた。それが俺の朝の始まりだ。


次にやることは風呂場に行って湯船にお湯をはる為、赤い蛇口を捻り、湯が張るまで少し時間がかかるので別のことを進める。


「今日はバイトがないから――」


これから着る服を洗面台に置き、次に冷蔵庫へ向かって卵を1つと、冷飯の入ったお茶碗をテーブルに置き、テレビをつける。


「本日は10月4日月曜日、時刻は8時です。今日は、語呂から天使の日とも言われ――」


「ハハ、そういうの日本人、ホント好きだよな」と自身も生粋の日本人のクセにテレビの流れる内容に反応しつつ、冷飯の上に割った卵と醤油をかけて口へと頬張った。


時間は8時10分を過ぎた頃、風呂場に向かって服を脱ぎ、シャワーを軽く浴びてから湯船に浸かる。「朝から風呂に入るのか」と周囲には言われるが、目を覚ますのならこれが1番だ。


いつもの癖で最後に湯船に頭まで浸かってから風呂場から出て、先程用意した服を着て、玄関のドアを明け、自身が通う大学へと向かう。



今住んでいる場所だけのことではないが、マンホールの絵柄が好きで、一々眺めて踏むのが日課。だから本来徒歩5分の道のりも2倍かかる。


だからいつも気持ち早く家を出る。とはいえ、1限を取っているのは月曜だけだったりする。


8時50分には大学のエレベーターに乗り、1限が行われる5階のボタンを押す。エレベーターを降りて、右の突き当たりにある「503号室」のドアのぶに手をかける。しかし、ドアは開かない。


「いつもなら、開く筈なのに――」


その時「もしかして」と嫌な予感が脳裏をよぎる。その予感を確かめる為、大学の中庭へと移動する。



「やっぱり」


そこには講義について知らせる掲示板があるのだが、自身の予感が当たってしまい、思わずため息をつく。「休講案内」の欄に書かれていたのは「1限 語学Aの中国語は、本日緊急休講」。


「夏休み明けの初日に休講かよ」と文句を言いたくなるものの「それも仕方がないのかも」と諦めがつく自分もいた。


それは決して自身がポジティブな思考だからではない。ましてや「夏休み明けで欠席者が多いだろうから」と休講にした先生の思考を予測し、共感した訳でもない。


ただ単純に、自分自身が異常についてないことを自覚していたからだ。因みに、今日受ける講義は1限、昼を挟んだ後の3限のみ。


「3限までどうするか――。あ、久しぶりにあのラーメン屋に行くか」


普段からいつも行列で、なかなか食べられない有名なラーメン屋。少々遠い場所にあるのだが、開店と同時ならば次の3限が始まる13時までには余裕で間に合う。


「よし、行くか」



時刻は、12時45分。

3限目が行われる「302号室」の片隅で、俺は落ち込んでいた。その原因は、ラーメン屋。先程の1限目の休講と同様についてなく、店の前に貼られたのは「本日 臨時休業」という文字。


己自身がついてないと自覚はあるが、ここまで不運が続くのは久方振りで、流石に心が折れかけ、机に右頬をくっつけうつ伏せになる。


「先輩、大丈夫ッスか?」


ヤンキーみたいな口調で絡んでくる女性の声が背後から聞こえてきた。言葉事態は心配しているのに、何故だろうか心がこもっていない。


「災難でしたねw」


何故だろうか、文字ではないのに言葉の最後に草の文字が付いている気がする。


「五月蠅い、あっちへ行け」


「あーあ、拗ねちゃっているよ」


こちらの言葉を無視し、彼女は躊躇なく隣の席に座る。言葉がヤンキーみたいだからと言って、見た目も派手かというとそんな訳でもない。


肩までの長さの髪は茶髪で、右目の下には涙黒子。服装も落ち着いたグレー色でコーディネートされ、一言で言えば「美人」の類だと思われる。


「北浦は――」


「もうそろそろ『チカ』って呼んで下さいよ~先輩」


だが、口を開くと急に精神年齢が一気に下がる残念な子になる。


「2年だよな?」


「さっきの腹いせッスか?――まあそうッスけど」


「その割にあまり学校で見かけないな、何学部だっけ?」


「教育ッスけど」


予想とは違う回答に思わず「――教育」と言葉が濁る。


「何か問題でも?」


こちらの言葉に琴線が触れたのか、はたまた自覚があるのか、引きつった表情でこちらを睨む。


「いや、通りで法学部の俺と一緒にならない筈だと、決して『似合わなねぇ~』と思った訳ではない」


「いやいやそう思っているでしょ?というかいい加減、起きたらどうッスか?せんこう、もう来ていますよ?」


北浦の言葉ですかさず体を起こし、ピンと背筋を伸ばす。彼女が言った通り、この講義を担当する“猪狩 沙良”が教壇に立っていた。時刻は丁度13時になり、3限目の『雑学』が始まる。

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