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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
6章「2045から」
37/37

37,希望

あれから、外の世界はどのくらい時が進んだのだろうか?


この空間は、ボクの――いや、ここに存在する全ての時を止めるが、外の時間は当たり前だが止まらない。


また、今のボクと交流を持っているのは、既にあの子たちのみ、マーリンは何かのトラブルに遭ったのか、暫くの間会っていない。


唯一の面会者であるあの子たちも、心身ともにズタボロにして毎度帰しているから、いつ見限られてもおかしくない。問題は見限られたと判断するタイミングだ。


何故そんなことを気にするのかというと、この空間では無機質なモノは、どのような動力だとしても、その運動が停止する。だから、携帯はおろか腕時計さえ、この空間では1秒ですら時を刻まない。


よって、ボクはあの子たちに尋ねないと外が今、何年何月なのか分からない。だけど、ボクは自身の目的の為、あの子たちにはそのことには一切触れず、今日まで過ごしてきた。


――自身の目的?


式は「は?」と自分自身のことを嘲笑(あざわら)う。


観客なんて誰もいないのに、どうしてかカッコつけてみたものの、そんなの嘘の嘘。観客が仮にいても、1ミリも響かない。


本当は外の状況を知るのが、怖くてただ聞けない臆病者なだけ――。


アレを作成した時と一緒に、家族へ別れの手紙をマーリンに渡してあった。つまり、一方的な別れを家族にした訳だ。


それがボクにとって一番適切な別れ方だと、今でも思ってはいるが、適切というのは理想とは全然違う。


「忘れてくれ」と手紙には書いたが、家族の皆はどう思っただろうか?考えても仕方がないことだが、本当に忘れられていたらと思うと――考えたくない。


「キュッ」と胸が締め付けられる感覚は、蝕ままれた体の痛みよりも痛く感じた。でも、あの方法以外、ボクには方法が思いつかなかった。


姉弟(きょうだい)が泣きじゃくるのは目に見えているし、それにつられてボクも、多分――泣くだろう。それが嫌だった、だから、だから――。


式は自身の目頭が熱くなってきたのを感じ、左腕で両目を強くこする。しかし、一度決壊した涙は、次々と彼女の瞳から流れ落ちていく。


「今になって死ぬのが怖くなった訳?情けない」


自分自身に問いかけ、止まった空を仰ぎ見る。すると、雲一つない空から「ぽつ、ぽつ」と雨が降ってきた。


「ここでも、雨は降るのね」


――ちょうどいい。


もし、誰か来ても雨のせいにできる。唯一の心配は雨に濡れた服を着たままで、ボクが風邪をひかないかだけ――。


「いや、関係ないか。だって、ボクは――。


こちらの心情を汲み取ってくれたのか、雨は急激に激しくなっていく。


突如、現れた謎の人物。


強い事以外、何も分からないアイツに倫理やら、道徳を叩き込まれつつ、ボロボロになるまで何度扱われたことか――。


「次こそはアイツを見返す!」


そう意気込むも、5号と9号がもたもたしていることに我慢できず、アイツのいる空間へと1人で向かうのだった。


あの空間に侵入すると、珍しく雨が降っていた。最初は小雨程度だったのが、アイツがいる場所に到着するまでには土砂降りとなっていた。


「ついてない」そう囁くと――。


「――消えるしな」


見知らぬ女性が、畳の上に座っていた。


あそこに座るのはアイツだけ、でも今は見知らぬ人間が空を仰ぎながら泣いている。こちらの立ち位置から、相手の顔は正確に見れないが、左腕で顔を拭う仕草から間違いない。


どういうことだ?アイツは――。


「まあ、何だ」


「っ!」


1号の背後には、彼女が聞き慣れたアイツの声がした。その途端、意気込んでいた筈の1号の心は既に挫かれ、その場に座り込んでしまう。


「忘れろとは言わない。ただ覚悟しろ」


怒りではない何か別の強い感情が、アイツの声から伝わってくる。


「な、何をでしょうか?」


本当は恐怖で声がでない状況だったが、必死に声を絞り出す。すると、アイツは空を見上げ、大きく深呼吸をしてこう言った。


「特別な、使命さ」


ガスマスクのように表情が全く読み取れない黒いマスクだが、1号には分かっていた。アイツが笑みを浮かべていることを――。



あの日から、ボクはアイツを師匠と呼び尊敬するよう心を入れ替えた。未だあの時の言葉が、脳裏に焼き付いているからではなく――いや、少しはある――。


1号はあの後のことを思い出し、体を震わせる。


と、ともかくだ、あのバケモノでさえ、人の子の面があるのだと認識してから、あの人の教えである一方的な見解。“固定概念”というべきか、その考えが己自身の視野を狭め、気付かない内に弱くなることに気付くことができた。


師匠曰く「知らないは罪であり、気付こうとしないのは大罪である。それ故に日頃から何事にも疑問や理由など考えることを大切するべき」だと――。


「そうでないと、いざという時。正しい選択ができない」


人間の成長はとても緩やかであり、成熟するには時がかかる。されど、その時は既に死期が近い哀れな生き物だと、ここへ案内してくれた人が言っていた。


だが、師匠はまだ15、16程度しか生きていないらしい。それを踏まえると、やはり師匠はバケモノであるのに変わりはないようだ。


最近では、ボクよりも先に懐柔されていた5号と9号と共に、師匠のところへ行くのが楽しいと感じていたりする。しかし――。


――その日々は唐突に終わりを告げた。


きっかけは、久し振りに現れたあの人。


最初の頃は、師匠の様子を何度も聞いていたが最近では姿さえ見ていなかった。それが急に現れたかと思うと、師匠に何かを伝える。


それを聞いた師匠は「そうか」と返答すると、ボクたち3名に視線を注ぐ。


「今日で講義は終わりだ」


師匠は懐から手紙のようなモノを2人に渡し、「5号と9号はついてこい」と言って歩き出す。


「あ、あの――ボクは?」


その問いに師匠は、一瞬足を止め――。


「オマエはここで待っていろ、後で必ず迎えに来る」


そう言い残し、ボクだけを置いて皆が外へと出て行った。


今思えば、なぜボクだけ違うのかはっきりと聞くべきだったと後悔する。


普段であれば、3人の内の1人がこの空間へと繋がるゲートキーを持っているのだが、今日はあの人の力でここに来た為、自力で戻ることもできない。


途方に暮れつつも、師匠がいつも座禅を組んでいる場所に座って待つことにした。



あれから、外の世界はどのくらい時が進んだのだろうか?


感覚では既に1ヶ月は過ぎているのだが、一向に戻ってくる気配がない。ボクは我慢できず、どうにか戻る方法はないかと、果てしない地平線の海へと歩き出すのだった。



あれから、外の世界はどのくらい時が進んだのだろうか?


最早、元の場所がどこかも分からない。同じ光景が永遠に続く。こんなところに師匠はずっと居たのか。何故、そんなことができたんだ。


『――消えるしな』


そう言えばあの言葉、それと関係しているのか?


何かを考えていないと、自分自身が保てなくなっていたので、暫くそれで精神を保とうと思う。



誰もいない、何もない。青い空と白い雲、そして蒼い海が水平線まで広がっている不思議な場所。


いつから?どうやって?


疑問と不安が心を蝕む中、晴れている青空から『ポツリ、ポツリ』と雨が降る。空を見上げ、呆然とするボク。


本来ならば「こんな時についてない」そう呟いてもいい状況。だけどボクの心は不思議と落ち着いていく。


何故あの時、ボクは落ち着いたのだろう?雨が暖かかったから?小波の音に癒されたから?


「――いや、違う」


微かな記憶の先に、1人の人物が浮かびあがる。


「アナタは誰?」


思い出せない苦悩から、目から涙がこぼれかけた。


――その時だった。


「えっ?」


微かに黒い影が水面に映る。反射的に視線を移動させた先には、ボロボロの服と黒い帽子を被った人が背中をこちらに向け立っている。


確かにさっきまで周囲には何もなかった筈なのに、いつから?どうやって?いや、そんなこと、今はどうでもいい。


ボクは自身のズボンが濡れることを省みず、その人物に向かって駆け出した。「これでここから出られる」その気持ちでいっぱいだった。


自然と足に力が入り、水音は激しく音が響く。その音で相手はこちらに気付き、こちらを振り向いた。その人は白い仮面で顔を隠しており、男性か女性か分からない。


それでもボクがここにいることが、相手にとって異常だったのだろう。仮面越しから覗く黒い瞳は、驚いた様子だった。


ここまで蓄積された疲労と海水の強い抵抗の中、無理に走った結果、ボクの息は乱れるも、どうにかその人の目の前に辿り着き、相手を見上げて助けを請う。


「た、助けて下さい」


相手は何かを悟ったかのように「そうか、そうだったか」と呟いた。その声は機械的な声で、見た目と同じく性別は判断ができない。


その無機質な声で、ボクは一気に不安が募っていく。外見のみならず声までも隠す相手、無力な子どもを果たしてこの人は助けてくれる程、良心があるのだろうか?


だけど、相手がボクの目線に合わせ、優しく頭を撫でてくれたことで、その感情は消えていく。そして、相手はこう言った。


「――希望は残っていた」

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