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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
6章「2045から」
36/37

36,講義

Magusシステムとはクローン技術と異なり、対象に似ることはない。能力も個体差が激しいモノで、不安定な存在である。過去の言葉を使用するならば、人造人間と言われた『ゴーレム』に近い。


ただゴーレムよりも精密で頑丈。何よりも人との差は殆どないという。問題点と言えば、クローンと同じく道徳や倫理に反した行動。更にこれは――失敗する確率が非常に高い。


16体の被験体は、たったの1週間で6体までに減少。その内の半数の生存率が10%にも満たないのだか――。


「No,1 No,5 ――そしてNo,9」


今ボクが口にした番号は、成功する確率が極めて高い被験体である。マーリンの話を鵜吞みにすれば、まず間違いなく成功するのだとか――。この結果は稀なモノで、本来であれば100体のうち1体成功するかどうか――。


――運がいい。


その言葉で済まされる次元ではないようだが、この幸運に感謝しよう。ボクである理由も、これで少しは理解できた。


「だけど――」


猪狩と思われる被験体を式は見つめる。


「過去の存在が、未来で誕生した」


それはつまり、彼女がいなかった過去があった訳だ。既に過去や未来に行き来している時点で、驚きはしないが、まさかこっちが調べていた人物が、自分の分身であるなんて、真実とは不思議なものである。


だがこれで、あの人に聞く内容が少しだけ省けたことになるのかな。



「それで?負けたまま、私を数日間放置した貴女が今更私に何の用事なのかな?」


ボクに負けたことが余程ショックだったのか、それとも放置されたのがショックだったのか。どちらでも構わないが、大人の猪狩はとてもご立腹のようだった。


「こちらが勝った時の報酬をもらいに――」


式の愛想のない回答に、何か吹っ切れたのか溜息と共に猪狩は自身の椅子に座った。


「で、何を聞きたい?師匠のことか?」


「いいえ、師匠のことはある程度分かった」


「何!何故キミが!」


「黒坂の力――ではないが、偶然に」


「黒坂だと!まさかキミは」


「まさかボクが黒坂和樹の娘だって知らなかったの?」


「黒坂 玲の他に兄弟がいることは知っていた。しかし、キミは」


「ボクは母似でね、最も性格は一番似ている、らしい」


「それはすまなかった」


「謝罪は別に、それよりも貴女が生まれた後のことを聞きたい」


「何故?」


「貴女が普通の人間じゃないのを知っているから、それで納得できますか?」


「一体、いいやそれを追求する立場じゃないか。いいだろう」


猪狩は自身の生い立ちについて語りだすのだった。



猪狩からの話を聞き終えて、ボクは全てを理解した。


「点と点が繋がり、1つの線へと変貌した――か」


父さんがよく言うことを口にしてみたものの、ボクが言うとチープに聞こえるな。


「さて」


なぞるべき線。もとい成すべきことを理解したボクは、とあるモノを用意する。武器の扱いは長けているが、工作には自信がない。それでも“前の”ボクは用意したのだから、今のボクができない訳がない。


「大丈夫」と自身に言い聞かせてから数時間後、ボクは手探りでできたソレをマーリンに渡し、次の作業に取り掛かる為、彼が用意した場所へと案内される。



マーリンが用意した場所は「誰からも感知されることのない特殊な場所だ」と前置きされ、彼が魔法で生成した円をくぐる。その先に待ち受けた場所は、確かに特殊な場所だった。


くるぶしくらいの深さしかない海、永遠と続く地平線、一向に動く気配がない太陽。それだけでも十分おかしいことはボクでさえ分かった。


そんな摩訶不思議な場所に、質素な服をまとった3名の少女が立っていた。彼女たちはこちらの存在に気付いた途端、威嚇なのか鋭い目つきでこちらを睨みつける。


それも仕方がない。彼女たちにボクが誰か知られる訳にはいかない。だからボクは円をくぐる前、深いフードで頭を隠し、即席の仮面を被っていたのだ。


「これからボクは、キミたちの師だ」


念には念を、ボクはボイスチェンジャーにより男性か女性か判断がつかない声を出していた。


「師?」


そう、最初に反応を示したのは『5号』という銀色のネームプレートを首から下げた少女だった。見た目は赤髪で短髪、青い瞳をしていた。


「そうだ」


「師とは、一般的な存在から飛び抜けた存在。且つ、学ぶ弟子がいるから師と名乗る。オマエはそれだと?」


同じく『9号』のネームプレートをぶら下げた人物は、拳を強く握る。こちらは青い髪が肩まで伸び、瞳の色は赤かった。


「オマエね。意思疎通ができるまでの教育は感謝するが、少々口が悪い」


マーリンは聞こえないと強調したいのか、両手で両耳を塞ぐ素振りをする。


「ボクたちは人類を救う、その使命を課せられた特別な存在」


最後の1人。『1号』の彼女は、父さんに渡された三笠と一緒に撮られた写真と瓜二つだった。まあ、彼女がその人なのだから当たり前か――。


「特別なら許される?バカを言うな」


怒りが微かに混じった式の声により、浅い海に振動を与え、彼女の周囲に何重もの波紋を生み出した。


「「「っ!」」」


それに驚く少女たちは、震えながらも式に抗う為、各々が彼女に拳を向ける。


「特別だから許されない、それが――」


パシャ。


水音が式の足元から聞こえた瞬間、彼女は消えた。慌てて周囲を見渡す少女たちだったが、影の形さえない。


「特別になった責任だ」


突如、5号の背後から式の声が聞こえた。彼女は反射的に、左の拳を声めがけて放つ。だがその拳は空を切る。そして、そこに式はいなかった。


「バカな、足元が海なのに――」


「何故、音がしないのかって?」


次は9号の背後から声が聞こえた。彼女はその場にしゃがみ込み、下段から右脚を背後に向かって回転させた。盛大に水飛沫(みずしぶき)をたてるも、やはりそこに式はいない。


「格が違う――何て、生まれて1週間のオマエたちに言うのは恥ずかしいか」


「舐めるな!」


1号は怒号と共に、右脚を背後に向かって水面を蹴る。その反動で海水は1号の背後に飛び散った。


「つっ」


式は顔に海水がかかったのか、顔を押さえながら後ろに後ずさる。


「でかした1号!9号」


「分かっている」


好機と捉えた5号と9号は、未だ動かない式に向かって走り出す。1号も2人に続こうと、背後を振り向く。しかし――。


「えっ?」


彼女が見た光景は、首を強く掴まれもがき苦しむ2人の姿だった。


「初めに、オマエたちが学んでもらうことに決めたよ」


1号は両手が塞がった式を攻撃することができず、ただただその場で震えていた。隙はいくらでもあったのに――。


「本当の絶望を――」


その理由は、至って単純だった。


「教えてやろう」


――式の背後にいたのは、何百人もの式だった。


式の言う通り、絶望に満ちた表情を浮かべる3名の少女たちはその後、暫く身動きが取れない状態になったという――。



マーリンに無理を言って小上がりの畳を3畳程の広さで用意してもらった。そこでボクは座禅を組みながら、彼女たちを静かに待っている。


正直、やり過ぎた自負はある。あの子たちにも申し訳ない気持ちもある。それでも、ボクが限りある時間内でできる教育となると、単純で分かりやすい“恐怖”という方法しか選択する他なかった。


幸いにも、この不思議な空間のおかげで残り少ない寿命の針を、止めることができた。とはいえ、この空間で生きながらえる方法は、考えていない。あくまでも、あの子たちにボクの役割を引き継ぐまで――。


その理由は、体の痛みにあった。


病名が分かって既に1週間、何もないように振舞ってきたが、激しい腹痛や、嘔吐(えず)く時が頻繁にあった。もしかしたら、1ヶ月も持たない可能性だってある。


そんな体で無理矢理生きても仕方がない。だから、ここで世話になるのも――。


「お、お待たせしました」


1号もとい猪狩の声が聞こえ、式は閉じていた瞳をゆっくりと開ける。そこにはすっかり怯えた3名の少女たちの姿があった。


「さて、本日のテーマは“固定概念”について。まずは“常識”という観点から話そう」


式はそう切り出して、少女たちに自身特有の教育を開始するのであった。

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