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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
6章「2045から」
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32,彼女の正体

時間移動が開始された直後、ただの錯覚なのかもしれないが、いきなり足元の床がなくなったような――そんな感覚に襲われた。視界も暗く、何も見えない。不安と恐怖が増していく。


とてもじゃないが正常ではいられないこの状況、暴れたい気持ちが込み上がってくる。けれど、未知数であるこの場で、意のままに行動することは、自身の体力を削る自殺行為。今優先すべきは、心を落ち着かせること――。


「すぅ――」


瞳を閉じて、小さく息を吸って――。


「はぁ――」


息を吐く。


情報を遮断することで雑念を消し、耐え忍ぶ。耐えることは、ボクの数少ない得意分野だ。


暫くすると、僅かな光が閉じた瞳から薄らと感じる――。


ゆっくりと瞳を開けてみる。するとそこには、身に覚えのある家がボクの視界に入る。


「かなかなかなかなかなかな」


視覚の次は聴覚の情報が回復してきたようだ。時間移動をする前の季節は、秋。なのに、夏に聞き慣れた日暮の鳴き声が、聞こえた。


「暑い」


瞳、耳に続き、今度は全身に伝わる熱気により、ボクの額から汗が噴き出てきたのを感じる。


「確か、ここを押せば――」


事前に研究者から説明を受けたことを実行する。予め登録された服を、このボタンを押すと瞬時に入れ替わるという――。


実際に白いスーツは、マニッシュスタイルの服へと変わった。まるで手品師になったみたいだ。


深呼吸をしてから、周囲を改めて確認する。建物は先程感じた通り、紛れもなくボクの――黒坂の家。でも、家の庭や周囲の建物に違和感がある。庭の雰囲気が、いつも庭師さんと違う。


確かあの人は10年前、家にきた。執事兼、庭師を長年勤めていた前任者が亡くなった為、その代わりだった筈――。ならやはり、ここは少なくとも、10年より前なのだろう。


少し庭を散策している間に、家の前に黒い外車が止まった。すぐにボクは物陰に隠れる。運転席からは背の高い白髪の老人が出てきて、左の後部座席へと駆け寄って行く。


その間に、右の後部座席からは見慣れた黒いスーツの男性。そう、ボクの父親、黒坂和樹だ。でもその見た目は、15年後の父親と見た目が一切変わっていない。


老けない理由を『そういう家系だ』と本人は言っていたが、仮にそれが事実だとしても、私の年齢である15の時からあの顔のままなのは、異能者だと誤解されても、おかしくないレベルだ。


「着きました奥様」


背の高い老人がドアを開け、そう言った。


「ありがとう」


女性の声と共に、車から1人の女性が白い布か何かを抱えて降りてきた。


「まさか――母さん」


「っ?」


超人的な聴覚なのか、ボクの気配が漏れたのか、女性は真っ直ぐにこちらへ視線を向けてきた。


「どうかした?」


すぐさま頭を屈め、その場に座り込んだ後、父親の声。


「――ううん、気のせいだったみたい」


安堵の溜が漏れた。また失敗しないように、慎重にゆっくりと横目で女性の顔を見る。


長い黒髪に、目の左下にある涙ボクロ。間違いない、彼女はボクの母親。そして、大事そうに持っている白いアレは――。


「ボクか」


3人が家に入るのを見届け、その場に座り込み、空を見上げた。


「参ったな。踏ん切りは、とっくにつけた筈なのに――」


左の頬から何かが伝うのを感じた。


「悲しきかな、未だ母への想い、捨てきれず――」


「黒坂の娘は、歌人か何か?」


「っ!」


空から声の方へ振り向くと、そこには紫髪の男が、こっちの視線に合わせてしゃがんでいた。


ボクが人の気配に気付けなかった?


「魔術の類は、キミの超人的な身体能力を上回ることがある。たとえば、キミの気が緩んだ時とか」


こちらの心でも読んだかのような口振りに苛立ちを覚えつつ、腰裏に隠し持っていた短刀に手をかけた。


「その子に手を出したら、殺すぞ魔術師」


「嘘」


物騒な発言をしたのは、ボクの母。でもついさっきまで、穏やかな雰囲気だったのに――。


「おやおや、出産後だというのに随分と元気なことだ」


魔術師と呼ばれた男の視線には、鋭い目つきの女性が拳を構えて立っていた。


「ハッ!アタシがこの程度で弱くなる訳がないだろ?」


「いやいや、流石はドレイク海賊団の頭目だ」


「黙れ。世間話をしたいのなら和樹にしろ、アタシはオマエが嫌いだ」


「鹿島 薫も?」


鹿島?その名前、どこかで――。


「ハッ?オマエは“今”はマーリンだろ?」


35年前に見つかった姉さんのハンカチ、それに検出された指紋の人物の1人。


「さぁ、それはどうかな?」


男の不敵な笑みは、少なくとも味方に向けるような表情ではなかった。



驚いたことに、ボクがこの時間に訪れることは、予定に組まれていたらしい。2人の仲裁に入った父さんの話によれば――。


「20年前。いや、式の時代だと35年前か。その時、マーリン、三笠先輩、自分の3人が計画した内容の1つに、未来の担い手たちを過去へと送り計画の全貌を伝えるというものが含まれていてね」


「それが今回のボクだったと?」


「賢いな、流石はアタシたちの子だ」


母はよっぽど嬉しかったのか、満面の笑みでボクの頭を強く撫でまわす。そして恐らくは、ボクの表情も緩んでいるのだろう――。


「で、でもそれって、20年前に計画できたことなの?確か、ボクが父さんに会ったのは、月で計画をたてた後のことだよね?それにこのスールが完成することも――」


「その答えはこの魔術師が全て知っていたからだ」


不服そうな顔でマーリンを指差す母、一方で、自分には関係ないと、澄ました顔で紅茶をすする。


「全て?」


「今回の三笠さんが関わった騒動は、神がこちら側に接触した結果であること。この騒動を収めないと自分たちの未来は、とある神に操作されてしまうこと。その担い手と渡り合えるのは、三笠さんの能力のみだということ」


「何故、それをアナタが?」


先程までペラペラと喋っていたのに、急に沈黙を貫くとは――。


「よって、マーリンの未来の知識元に、自分がより良い未来にする為、計画を立案した訳だ」


「それは分かったけど――。わざわざ過去へ行く必要があるの?」


「ある」


「それって何?」


「アタシたちの中に裏切り者がいる」


「裏切りって――家族の中に?」


「それは分からない。ただ魔術師の話だと、身内のみの秘密が露見し、死んだとか。それが三笠って人が、マンホールに落ちた時の未来と酷似していたとか」


「自分も家族に裏切り者がいるとは思っていないが、探る必要はある」


「分かった。それで?ここでは何を教えてくれるの?」


「教えるというか、未来で解決しているかを知りたい」


「何を?」


「猪狩 沙良が何者かということを――」


「それって確か、三笠さんの恩師だよね?その人って大学の講師で、三笠さんが幼い頃、隣に住んでいたとか――それ以外に何が――」


「彼女は十中八九、敵側の人間だ」


「え?何で?」


「北浦、犬伏という名前は?」


「20年前に敵だと判明した2人のことだよね?」


「その2人は、もう1つの未来で遭遇した敵側の人物と同一であると、三笠さんが言っていた。だが、その敵は3名だったとか――。残り1人は誰なのか?」


「それが猪狩さん?」


「流石に三笠さんの前では言えなかったが、彼女がそうである理由は、2人との共通点」


「それって?」


「まず20年前、三笠さんの周囲にいた人物であること。次に、異能と深く関わっていたこと。そして、3名は知人であること――」


そう言ってボクに渡した一枚の写真には、北浦、犬伏、猪狩の3名がどこかのレストランで食事をしているモノだった。


「敵かもしれないことは理解したけど――。だったら、別に何物かなんて――」


「2人には人間の過去があった。だが彼女には人間の――いや“子どもの時”の記録がない」


「どういうこと?」


「偽りの記録はあった。しかしその記録は別の人間を模倣したモノで、彼女のモノではなかった。だから記録上、彼女はいきなり現れたことになる。つまり、猪狩 沙良は――」


昔、父さんが言っていた。過去がない人間などいない。ただ唯一例外があるとすれば、それは――。


「神かもしれない?」

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