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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
6章「2045から」
31/37

31,悲しきかな

ボクの家は普通とは、遠くかけ離れている。家が金持ちであること、姉弟きょうだい全員が異能者であることなど――。中でも父方の祖母から始まる神との関係。


神と言っても偶像崇拝ではなく、ボクたち人類を創造したと自称する存在を指すのだが、悲しきかな神と自称するだけあり、人間とは勝手が違う。不老長寿は勿論、複数の異能を取得し、死んだかと思えば忘れた頃に現れるという。


かつて父たちが倒したという神は、体が1つだけでなく、別の入物が存在し、20年という歳月を経て現れたとか――。


これだけの情報を聞くと関係者でない人間は、夢物語だと笑うかもしれない。だけど、今から丁度100年前、私たち異能者が存在したことが世界に広まり、75年前には月に人が到達した。


『頭から出来ないと否定する時代はもう古い。結果ではなく、過程が重要だ』


父の口癖――、と言うよりかはボクたち姉弟に言い聞かせていた節がある。だからなのか、ボクたちは一般的な考えとは違った。


だからこそ、三笠 トオルという人物が体験した内容も受け入れた訳で――。


「『S』のイニシャルを式が?」


玲の言葉とともに、式に注目が集まる。それは彼女の姉弟だけでなく、部外者である岸野と真田も含まれていた。


ボクは姉の玲の言われた通り、13時に会議室へ向かい、父親の話を聞いていた。だけど、まさか、話しの最後に自身の名前が出るとはね。


「それで?ボクは他に何を言ったの?」


彼女は無表情のまま、自身の父親に尋ねる。


『これで父さんの役割は終わり――“今”はだけど――』


「式はそう言って、自分を元の時間に戻し、消えた訳だ。以降、三笠先輩は自分自身が見た未来通り、2011年3月から行方不明になっている」


「未来と言っても、今とは違う訳ですよね?」


岸野の質問に、和樹は無言で頷く。


「信憑性が薄いと?」


「そうじゃなくて、今までの話をどこかで聞いたような――」


「そりゃ、オマエさんが未来から来たからだろ?ここでは第一級の秘匿事項だとしても、数百年だが数千年だかの未来であれば、ただの字面でしかない」


赤髪の男は、退屈そうに外を眺めながら答えた。


「だとするなら、それは三笠先輩の伝記か、それともここではない“別の未来”か」


和樹の言葉で一同は、困惑の表情を浮かべる。1人を除いて――。


未来とか、並行世界とかはボクの頭じゃ分からない。だけどそれって――。


「どちらにしてもその一連の話を、今の今まで引っ張り、今日話したのには訳があるの?」


「三代目が二代目に『話せ』と脅したからじゃなくてか?」


「父は誰の脅しも聞きません。たとえ身内でも――。話すきっかけは恐らく――」


玲は背広の内ポケットから、小型リモコンを取り出しボタンを押す。すると、一同が集まる中央から3Dモニターより、白いスーツが現れた。


(みなもと)君が先日完成させた時間移動できるスーツよ」


「スーツ?タイムマシーンじゃなく?」


「移動と言ったら乗り物だと思うのは、少々古い考えかと――」


「老害とでも言いたい訳か?」


「まさか、先に結論づけるのは早計と思っただけ」


赤髪の男と玲が、互いに詰め寄る。周囲は2人を遠ざけようと、慌ただしく動いている中、澄ました顔のまま式は、ジッと白いスーツを見つめている。


「オマエはブレないな」


彼女の父親がそう呼びかけると、式は不思議な表情を浮かべ首を傾げる。


「まだ何をするのか言ってもいないのに、もう今後のことを考えている」


「ボクは父さんや玲姉のように、賢くない。だから、賢くない分、考える時間を増やすしかない」


「説明を聞く前だぞ」


「勿論、何も聞いてないなら流石に考えないけど、三笠さんの話とこのスーツ。やるべきことは想像がつく」


「そうか、すまないな」


「何故、父さんが謝るの?」


「普通の一般家庭なら、自分のやりたいことをやれるのに、こんな世界を左右することを――」


「ううん、それは違う。父さんはボクたちに、選択する機会をくれた。逃げる道も用意してくれた」


「――」


「それでもボクも、みんなも自分自身の意志でここにいる。だから、父さんが謝るのは違う。バカなボクでも、それは分かる」


「そうか」


「そう」


2人は互いの顔を見合わせながら、クスクスと笑い合う。その一部始終を見ていた一同は、苦笑した。


「優秀な妹を持ったな、三代目」


「勘違いしないでくれる?うちは姉弟全員優秀なの」


「ああそうかよ」


赤髪の男は視線を白いスーツに移すと、開発者の名前か2人の名前が綴られていた。


源 玄道 


久我 在子



黒坂たちが動き出してから、既に35年が経過した。経過したとはいえ、連中がこちらの存在に気付くことはない。その理由には、いくつかのカラクリがある。


その1つが相手に干渉しないということ――。


たとえ同胞が窮地に陥っても、たとえ同胞が殺られても、こちら側から動くことは決してない。たとえ卑怯者と罵られても、こちらが気付くことはない。何故ならば、こちらの目的は、生き残り続けることが目的。


その目的を遂行するのに、最も効果的な方法は動かないこと、動かなければ得るものもないが、失うこともない。他の同胞は、己の欲望を抑えられず、感情的に動いている。それが自然なことだと言った者もいた。


しかし、それを豪語したメルクリウスは、死んだ。結局、自己中心的に、私利私欲を全面に、本能のままに生きた者の末路は哀れだった。


「今後、我々はどのように動けばよろしいでしょうか?」


部下の3人は、跪きながらこちらの指示を待つ。だが――。


「動くのは今ではない、待て」


彼女たちは、無言のまま一礼した後、その場から消えた。


「そうさ、連中は人間。寿命を迎えれば、勝手に消滅する。わざわざこちらから波風を立てる必要はない」


――それ故に連中の勝利は、絶対にない。


「動いた結果は――ろくでもない」


黒坂 玲が孤立した未来も、岸野 戒が孤立した未来も、真田 昌幸と偽名を名乗る裏切り者が死んだ未来も、どれもが必要な未来――。


いつでも切り離せる未来は、こちらにとって都合がいい。そうさ、見栄を張って、強がるくらいなら、虚言を吐き続け、意地汚く生き残る。それが本当のあの方の望み――。


「マスター、ボクは――」


――間違っていないですよね?



姉さんから移動の原理を教わったが、予想通り何を言っているのか分からなかった。その代わり、父さんが過去に出会った人物がボクである理由は理解できる。


姉弟の中でも姉さんの次に強く、異能が表に現れにくい能力は、過去や未来に行くのに都合がいい。馴染みのある刀が使えないのは痛いが、代用品を姉さんの同級生。いや部下だっけ?どちらでもいいが、その人が用意してくれた。


「見た目は警棒にしか見えないけど――」


()(かしら)部分を押すように指示され、実際に押してみると、どのように収納されていたのか刀身が現れた。


「凄い」


「無表情で言われても――」


その人は頬をかきながら、複雑そうな機械を同時に操作を行い始めた。


「さっき話した通り、まずは時間移動に慣れてもらうテストを兼ねて――取り合えずキミが生まれた2030年に送るから――」


ボクの反応が薄いのも大概だが、この人はさらっと怖い発言をしている自覚はあるのだろうか?15年も前に時間移動することを『取り合ずコンビニまで――』みたいな感覚で言わないでほしい。


「それじゃあ、5分後に――」


既に白いスーツをボクが装着しているから、こちらの同意を聞きもせず、彼は複雑そうな機械を動かした。


「悲しきかな」


式はポツリと呟くと同時に、白いスーツは式の頭部を覆う。その覆うモノは35年前に現れた“白仮面”と同様のモノだった。

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