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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
5章「7と4」
30/37

30,4番目の

父は変わり者だった。


様々な拳法を学び独自の流派を創り、後継者の弟子ができたら次の居場所へ、母が人格者でなかったら父は野垂れ死にしていたに違いない。蘇我に住むようになったのは、6回目。いや、7回目の引っ越し先だった。


引っ越しは俺にとって既に慣れっこ。それでも、あの人に出会ってから、俺は初めて我儘を両親に言った。その人の名前は『猪狩 沙良』。


「久し振りだな」


あ、ついこの前きたばかりだから、久し振りではないか。


「白仮面に白旗。白いモノに好かれていますね」


黒坂は商店街の名前を言いながら、周囲を見渡す。


「偶然だろ?」


「だったらいいのですが――」


一々意味深な言葉を言うヤツだ。


2人は以前三笠が現れた路地裏へと足を進めた。


「今更ですが、ドアを出す能力は――」


「そう言えば最初の時だけ、特殊だったな」


初めて白仮面に会った時、過去だったこともあり、行き方のことをすっかり忘れていた。過去へ行ってからたった数分で消えたドア。仮に白仮面が俺であった場合、ドアを生成する力もある筈――。


そう考えると、元の場所から別の場所へ移動することも、今の俺にはできない。だからこそ、黒坂には『次回からは移動してから』と苦言を言われてしまった始末だ。


この一連の能力は、俺の上位互換である。仮に白仮面が俺であったとしても、今の俺ではない。訓練を続ければできるのかも分からない。これで1つでもその謎が解けるといいのだが――。


「あれは――」


黒坂の視線の先には、鏡でよくみた人物。つまりは俺だ。


「どうしますか?」


「とりあえずは様子見――、いや白仮面が周囲にいないか確認してきてくれないか?」


「分かりました」


過去の俺がコンビニへと走り、黒坂が商店街の外へと向かう中、俺はドアに向かって歩き出す。ドアはまだあるが、何か別の気配が――。



以前、三笠先輩の話していた情報を頼りに探してみたものの、白仮面は見当たらない。


「やっぱり」


ドアのある場所へ戻ってみたものの、そこには既にドアが消えていたことに絶望していた過去の三笠先輩がいた。


「マズい」


急いで来た道を戻り、彼から視界に入らない場所へと脇道に身を潜めた。


あの反応から察するに、2人の三笠先輩は遭遇していないのか?まあ元々、遭遇した話は聞いていない。だとしたら、自分と一緒に来た三笠先輩はどこに消えた?彼と別れた直後、一度振り返った時は、あのドアへと歩いていた筈――。


俺のように脇道に隠れたのか?でもあのドア付近にいくには――。


「今日の夕飯は何が食べたい?」


「ラーメン!」


「またラーメン?ハンバーグとかでも良くない?」


男の子と聞き覚えのある女性の声に、視線を移す。そこには幼い三笠先輩と猪狩講師の姿があった。というか今更だが、この場所に三笠先輩が同時に3人もいる訳か――。とても奇妙な話だ。


「何故オマエがここにいる?」


苦笑するのも束の間、男性とも女性とも断言できない不思議な声に視線を移す。するとそこには、過去の三笠先輩と顔を白い仮面で覆った人物がいた。2人は幾度か会話を交わした後――。


「何だ、覚えているじゃないか――あの“事故”のことを――」


その言葉とともに過去の三笠先輩は、その場で倒れ込んだ。おかしなことに周囲は、誰もその状況に反応せずに通り過ぎるだけ、まるで2人が見えていないかのように――。


「おい黒坂!」


急に呼びかけられたと思えば、白い仮面はこちらを見ていた。少しだけ笑みを浮かべているその仮面は、イベントごとではない限り、注目を集めてもおかしくはない。だがしかし、誰も何も反応しない。


この異常な状況で、久し振りに恐怖を感じた。頼みの三笠先輩は消えたことで、この場から離脱することも出来ないし、彼のように戦闘技術もある訳じゃない。敵か味方かも判断できない。


もしかしたら、この時間の異物だと排除されてもおかしくはない。


思わず唾を飲み頬から冷や汗が滴る中、呼吸を整えてその人物の前に姿を現した。緊張で鼓動が早まり、脳内で様々な思考が巡る。


『やはり白仮面はいた。』


『何故、自分にここにいることを――?』


『もう一人の三笠先輩は――?』


『自分を呼んで何を――?』


緊張と集中力が増したからなのか、白仮面に近付くに連れ、周囲の生活音が聞こえなくなっていく。


自分が白仮面の目の前に辿りつくなり、過去の三笠先輩を指指して「――くれ」とだけ聞こえた。


「え?」


急なことと、仮面のせいで口元が見えなかった為、言葉を認識ができず間の抜けた返事をしてしまった。


「コレ運ぶの、手伝ってくれ」


次は聞こえた。成程手伝って――。


「え?」


また同じように間の抜けた返事に、仮面越しとはいえ、相手の機嫌が悪くなったのは分かった。



黒いスーツを着ている自分が過去の三笠先輩の足を持ち、上半身部分を白仮面が運ぶ。傍から見たら、何ともシュールな光景だろう。


「よし、一旦ここでいい」


白仮面がそう言うと、ドアのあった裏路地に彼をそっと下してから、急に指を鳴らした。すると、円を描くようにドアが右回転しながら現れ、そのままドアが勝手に開く。その先には小さなテレビと小さなテーブルに1人用のベッド。恐らく誰かの1人暮らしであろう部屋がそこにあった。


「コイツをあのベッドへ」


相手の言われるまま、過去の三笠先輩をベッドに寝かせる。


「助かった」


自分が部屋から出てから、白仮面は再び指を鳴らすと、ドアは先程とは逆である左に回転をしながら、消えていった。


「さて、何から話そうか」


目的を果たしても攻撃せず、会話を行う意思が確認できた為、自分は胸をなでおろす。


「なら三笠さんはどこに?」


「それはさっきのアイツではなく?」


「勿論」


「だったら、分からない」


「そんな訳――」


「ここに来るのは2010年の三笠と黒坂としか聞いてない」


「聞いた?誰に?」


「それは今のオマエには言えない」


「何故?」


「そう言われたら『計画が壊れる』と言われた」


ある意味、それは答えのようなモノだ。マーリンか、それとも別の三笠先輩か――。


「では、どのような事なら答えられますか?」


「難しいことを――流石は黒坂の二代目」


白い仮面は少し考えながら、懐から何かを取り出した。


「ハンカチ?」


そうそれは赤いハンカチ。しかも母の家系から伝わる風習の模様が施されたモノ――。でも何故、それをこの人が?確か、彼がこの人物に会った日、玲のハンカチを拾ってからここへ――。


思考が途切れたのは、ハンカチのイニシャルが、玲のRでも和樹のKでもなく――“S”だったから――。


「まさか――」


――ああ、白仮面である俺たちは1人じゃない。そして、“父さん”のこどもも1人じゃない。



2045年10月4日(水)午前8:00。


今朝、今更ながらあの時のことを夢で見た。

最後に会った三笠先輩、最初に会った白仮面。

そして――。


「父さん時間よ」


「ああ」


自身の身支度を整え終える頃、玲に呼ばれて自室を出た。いつもの廊下を歩き、いつもの食堂へ入る。そこには玲を含め、6人の子が自分が席に座るのを待っていた。


「さあいただこう」


その言葉を合図に、各々が朝食を開始する。


「そう言えば父さん、そろそろ話してくれない。『未来の使者』について――」


「確かに頃合いだ。では、岸野と真田の2人にも伝える必要があるから、連絡をとってくれ」


「わかったわ」


「ご馳走様」


「もう食べたの?」


玲が呼びかけた人物は、白い学制服を身に纏い短い髪をなびかせつつ、玲のいる方に振り向いた。


「食事は早いことに越したことはないから――。家の道場で稽古してくる」


「今日は大事な話があるから13時に会議室に集合よ、分かった――“式”(しき)」


「うん」と返事したその人物は、スカートにもかかわらず、駆けだしでいくのだった。

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