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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
5章「7と4」
28/37

28,猪狩

今回の時間移動に伴い過去の改変、所謂“タイムパラドックス”

を発生させる可能性が高い為、黒坂から今回の出来事を予測してもらった。彼曰く――。


『過去の自分が未来の自分に遭遇しても、自身や自身の未来に、その影響は反映しない』


何故ならば、過去の自分は現在の自分に会っても、現在の自分は未来の自分に会っていない。結果、過去の自分は、現在の自分と会った別の未来へと分岐する。


『つまり、新しい未来が発生することがあっても、過去が変わることはない』


その筈だった。しかし現実は違った。ついさっきまで、並行世界を行き来した人物とは思えない発言だろうが――。


――並行世界は、本当に存在するのか?


そう思ってしまう程、衝撃的な結果である。それもその筈だ。一瞬で新たな記憶が追加されてしまったのだ。これが何を意味するか。それは今までの記憶が、誰かによって書き換えられた可能性があるという事。


あたかもそれが、初めからそうだったかのように――。だがそう考えてみると、それも納得する節がある。


『あれ?これって前からだっけ?』


ふとそのような疑問が浮かぶ時がある。今まであれは、ただの勘違いだと思っていたが、もしかしたらそれも――。


「いや、だったらあれはどう説明する?」


俺はさっきまで試していたことを思い出す。


あの時、間違いなく表札の数字は変わっていた。それも1度や2度だけじゃない。失敗した数も合わせれば、30回は優に超えている。あれが全て、誰かの小細工だとは到底思えない。


それとも何か?並行世界が新たに発生するには、何か条件でもあるというのだろうか?例えば、個人だけの範疇であれば、一部のみを都合良く上書きし、多くの人間に影響を及ぼす場合は新たな未来分岐が創られるとか――。


「いやいやまさか、それじゃあまるで――」


――誰かが作った“ゲーム”じゃないか。



時刻が9時を過ぎた頃、私は異変に気づく。その異変とは観測対象が、2つ存在していること。本来、同じ存在が同じ空間に存在することはない。少なくとも、今は――。


私は内ポケットに忍ばせていた小型の無線機を口元へと近づけた。しかし、言葉を発するのに、私は躊躇った。何故ならば、もしこれが私の勘違いでなければ、私は私ではなくなり、この時間も終わりを迎えてしまう。


「まずは確かめてから――」


結局、無線機は内ポケットにしまい、私は観測対象がいる中庭へと向かった。


目的地に到着すると、異変は勘違いではないことが証明されてしまった。微かに見える観測対象の背中と、中庭の中央で1人悩み耽けていた。


「間違いじゃなかった」


過去の私が待ち望んだ結果。

現在の私が絶望した結果。

未来の私は――何を思うだろうか?


どちらにしても、私のやるべきことは、変わらない。追加された観測対象が、どのようにして“ここ”にたどり着いたのかを確認しないといけない。


私は観測対象に気付かれないように、窓越しから相手を見つめる。まずはどちらが追加された者なのか。それを知るべきだが、それは恐らく必要がない。その理由は相手の立ち振る舞いから、すぐに判断できた。


中庭にいる対象の表情からは、困惑と不安に満ちた表情を浮かべており、今まで観測した中でも極めて珍しく、何かしら心境の変化がうかがえた。恐らくあれが、新たに追加された観測対象。そう確信した時――。


「――ゲームじゃないか」


微かに聞こえた対象の発言に、私は首を傾げる。


ゲーム?一体、何を言っているのだろうか?憶測の域から脱することはできないが、恐らく対象は本来の対象と接触したと思われる。逆にそれ以外、ここに訪れる理由が見当たらない。


だとするなら、それとゲームが何か関係するのだろうが、情報が少なすぎてこれ以上考えることは、不毛な気がした。


「――」


対象は頭を抱えながらも、移動を開始する。私は距離を保ちつつ、対象がどこへ向かうのかを追跡する。方向から察するに――。


「サークル棟」


対象は大学内のサークルに所属している記憶はない。なら、何をするために?


対象は一番奥のサークル棟に入って行った。そのサークル棟はマイナーなサークルが集う場所だったはず――。


室内だとこちらに気付かれる可能性が高い為、建物の前で暫く待つ。この距離であれば、対象が何階のどの部屋へ向かったのか感知することができる。だとしても――。


「どこまで行く気だ?」


対象はサークル棟の奥の奥、共同の物置と化した場所に向かっていた。


誰にも気づかれない場所で、特殊な何を隠しているのか?


不安が募る中、対象はようやく足を止めた。


「ようやくか」


部屋に入ったことを確認し、私もサークル棟の中へと入っていく。対象と同様に、建物内の奥の奥へと足を進め、対象が入室した部屋の前までたどり着く。


「オカルト研究部?」


そのようなサークルなど、あっただろうか?


「ん?」


意外過ぎる場所に気を取られ、肝心な対象が感知できていないことにようやく気付いた。


「まさか」


そのサークルの部屋へ侵入するが、そこには誰もいなかった。部屋の奥に窓はあったが、窓には内側から鍵がかかったまま、ここから外へと逃げた訳ではない。


「ならどうやって――」


どこかに隠し扉が――。


「いやそれはないか」


先程の対象と同じく、頭を抱えてしまいそうなこの状況に、安堵している私もいた。


「――もしもし?」


内ポケットからノイズと一緒に聞こえてきた女の声に溜息をつきつつ、無線機を取り出した。


「何だ?」


「あの方からの伝言ッス――」


その声はもう何度も聞いた声、恐らく今日も直接聞くことになるだろう。


「『時がきた、計画を開始しろ』だそうッス」


「そうか」


「あれ?嬉しくない?」


「どちらでもないさ」


「ふ~ん。まあどっちでもいいけど、邪魔だけはしないで下さいよ」


「邪魔なんて――」


「いーや、あの日のことを考えれば、否定できないはずッスよ」


「それは――」


私は言い返すことができず、無線機を強く握った。


「あの日、アナタが苗を盗んでさえいれば、こんな茶番をしなくて済んだはずなのに」


「いずれその償いはするわ」


「どうだが――」


その言葉を最後に、無線機からはノイズしか聞こえなかった。


「聖杯と呼称された苗。本当は人類を滅ぼす約裁の苗」


無線機をしまい、部屋から出る。


「でも本当は――」


脳裏に浮かぶその真実に、自然と口が閉じてしまう。それ程までに声にすることも憚れてしまうことだった。


もしそれが嘘だろうと本当だろうと、私には関係ない。私は“ここ”しか知らないし、これ以上知りたくない。知ってしまったが故に、苦しむくらいなら、知らないまま――。


サークル棟を出たところで、白衣の女性とすれ違う。彼女からはコーヒー特有の臭いが香った。


「あれが猪狩 沙良か」


彼女が視界から消えた頃、ポツリと私は呟いた。

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