24,死人と監視と――
神と聞かされ、ふと1人の人物が頭に浮かび、三笠先輩に視線を向ける。
「さっきの昔話に出た“神の使者”って、ヤツ等のことか?」
「そういう事。但し、イザベルのように見た目で判断がつかないことが問題だ」
それは我々の知り合いが、敵だということを指していた。そして、自分はその1人を知っているかもしれない。
「誰も信じるな――そう言いたい訳か」
「ああ、その証拠に三笠 トオル。キミを監視している人物がいる」
「監視?」
マーリンと思われる人物は、こちらを見つめながら微笑んだ。自分が調べたあのデータだけは、母には伝えていない。どのようにして、あれの事を知ったのか?魔術か?それとも事前に認知していたのか?
いや、今それを追求したところで意味はない。逆を言えば、半信半疑だったことが間違いでないことを裏付ける証明とも言えるだろう。なら――。
「三笠さん」
「何だ?」
「前回、エレベーターから消える直前、自分がアナタと『話をしたい』と言ったことを覚えていますか?」
「ああ、そう言えば、北浦のことで――おいおいまさか――」
「そのまさかです――。きっかけは真田さんから相談を受けたことから始まりました」
『――同じ学部の筈なのに、彼女を見たことがない?』
『ええ、間違いないわ』
「初めは偶然かと思いましたが、念のため彼女のことを調べた結果――」
「結果――」
「うちの学生でした」
「何だよ、じゃあやっぱり――」
「ただし1つの講義以外、一切出席をしていませんでしたが――」
「はっ?そんなことって――」
「はい、普通ならそんなことはない。なので、彼女の大学より以前のことについて調べてみたのですが、彼女の過去は――ありませんでした」
「いや、いやいやいや、無い事はないだろ?」
「事実です。彼女、北浦 融実という存在は、どの高校も、中学も卒業した形跡どころか、戸籍すら確認することができなかった。“死者”を除いては――」
◆
意味深な言葉を口にした黒坂は、内ポケットから1枚の写真を取り出し、それを俺に差し出した。その写真は随分と古く、オレンジ色のかすれた数字で1980/3/20と記されていた。
その写真の内容は、当時の卒業式と思われ、6人の女性が黒い筒を持ちながら笑顔を浮かべていた。その内の1人に、身に覚えがあった。
「北浦?」
そう、その人物は紛れもなく北浦だった。他人の空似、そう思いたかったが、写真の裏には写っている人物順なのか、名前が載っていた。その内の1人に“北浦 融実”と記載されていたのだ。
「そう言えばさっき、死者って――」
「その写真の北浦という人物は、山形にある高校の卒業式を終えた翌日、東京の大学へ通う為、上京を控えていました。しかし当日、彼女が乗ったバスを最後に、彼女の行方は分からず。結果、彼女は7年後の1987年の4月に死亡扱いとりました」
背筋が凍るような感覚に見舞われた。本当に北浦と、この人物が同一人物なのか?しかも、状況は違えども、どこかで最近聞いたような話で、他人事ではない。
「1980年には既に異能調査があった為、彼女のデータは残っていて、名前を検索したところ彼女がヒット。しかも偶然か否か、彼女の口癖は語尾に『ッス』と言うのが癖とか?」
「それが?」
「山形弁の敬語も同じだとか――」
「そんなの偶然――」
なのか?本当に?だとしたら、何故――。
「何故彼女が今になって?しかもあの講義だけ」
疑問を口にしたものの、その答えは明白だった。その目的は、間違いなく――俺だ。他のことは省みず、俺と知り合いになった。それはつまり――。
――俺の監視だ。
「実は奇妙なことは、それだけじゃない」
「何だって?」
「彼女の左隣にいる人物」
「隣?」
黒坂が言った人物を確認すると、眼鏡をかけた女性が写っており、順番通りであるのであれば、その人物の名前は“犬伏 地課”とあった。
あれ?この人、どこかで――。
「この人物が何?」
「今現在、自分の秘書というか、おもり役みたいな人物でして――」
学生の身で秘書――。いや、次代の社長ならいてもおかしくはないか。そんなことよりもだ。
「その人って何歳?」
「少なくとも、48歳ではないですね」
「つまり何か?この2人は生前って言うのは、あってないか――。とにかく知り合いの上、最近あったばかりの俺たちを監視していたってことなのか?」
「絶対とは言い切れないですが、偶然にしては出来過ぎている――とは思います」
それにしても、この犬伏という女性。どこかで見覚えが――。一体どこだ。口の左下にホクロ。
『あら?』
あ!
『鬼神こと、岸野 戒は、1人だったと聞いていたけど、まさか鎧は自動操作?』
思い出した。というか、何故今まで忘れていたのだろうか。
「終焉の未来にいた」
「誰がですか?」
「彼女だよ!彼女!」写真の犬伏を指差した。
「本当ですか?」
「間違いない」
あれ?そう言えば――。
『ホント、信じられないッス』
あの時の声が、脳内から再生される。これはもう、偶然では片づけられない。大学の後輩が、既に亡くなっているかと思えば、未来の果てに存在していた。その過去と、現在と、未来。その時その時で立場や状況は違えども、知り合いの秘書が近くにいる。
「なあ、マーリン」
「何かな?」
「俺は――いや、俺たちはどうすればいい?」
その言葉を待っていたかのように「ククク」っとマーリンは笑う。
「教えよう、キミが何をすべきかを――」
両手を広げて笑う姿は、どこぞの教祖に見えた。
「勿論、キミもだ」と黒坂を見つめるマーリンだったが、当の本人は腕を組み疑っているような目をしていた。
「自分はアナタが味方だとは思えない」
「何故?」
「アナタがこちらの味方になる理由や目的――メリットが分からない。アナタが本当にマーリンで、先程の話が昔話が本当であれば、自身の信者だけでことを成せばいい。わざわざ、ただの学生2人に時間を割く必要なんて――」
「あるさ」
「百歩譲って、三笠さんは分かる。時間を移動できるのだから。だが、自分は?無能者なのに――」
「いや、能力があるかどうかは関係ない。こちらがキミに、いやキミたちに求めているのは、“意見”だ」
先程まで笑っていたのが嘘のように、マーリンは黒坂の目の前に立った。
「駒はいくらでも用意できるし、これまで培った知識はどこの誰にも負けることは、決してないだろう。だが、それでは神には勝てない。ボクの知識を参考に、自らの意見を言って行動してくれる――そうボクと同等の人物が必要だ。
それがたとえ、こちらの意見を無下にされたとしても、目的が同じであるのであれば、甘んじてそれを受け入れよう。と、難しい言葉を並べたけど、要はボクのような厄介な存在が、もっと欲しい。それだけだ。
そういう観点から言えば、キミ以上の存在はいない」
「随分と自分の評価が高いようですね?」
「それはもう――」
黒坂は、頭をかきながら苦笑する。
「そして、そのことを言伝とは言え、知っている人物が1人」
そう言ってこちらに視線を移したマーリンは、唐突に指を鳴らす。すると、移動する前にあった筈の苗が、相手の手元に現れた。
「今からボクたちが、やろうとすることは普通じゃない。他人から見れば、意味も分からないだろう。でも、それぐらいのことをしないと、神に勝つことなんてできやしない。
まずは、三笠 トオル。キミはこれから大学を卒業する前に、キミの能力を使いこなす必要がる」
「それは俺が聞かされた未来のように消える為?」
「半分は正解」
「じゃあ、もう半分は?」
「そりゃもちろん――」
その時、マーリンの言葉を聞いた瞬間、俺は黒坂と目を見合わせる。その反応を見て、再び『ククク』と笑うマーリン。本気か冗談か、その言葉の真相は――未だ分からない。
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