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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
4章「過去と未来2」
23/37

23,観測者

見覚えのある光景が、そこにあった。限りない地平線と浅い海。あれはいつだったか――。ただ以前とは異なり、空は夕日の茜色。それと白いフードを被った人物が1人、目を閉じたまま立っていた。


「おや?珍しい、ここに客が来るとは――」


瞳を閉じたままなのに、その人物はこちらに気づく。右手で持っていたボロボロな木の杖を左に持ち替え、こちらの視線まで腰をおろし、頭に手をおかれた。


「なるほど、あの苗に触れた訳か」


「何故それを?」


「ボクは魔術師だからね。手で触れたモノの経緯がわかるのさ」


「なら、アナタはここがどこなのか知っている?」


こちらの質問に閉じていた右目を開け、こちらを見つめる。その目は赤く、何もかも見通されているような錯覚に陥った。


「ここは時間から逸脱した唯一の場所さ」


「逸脱?」


「過去、現在、未来は理解できるかい?」


黙って頷くと、相手は杖を海に向かって、横一線に動かした。すると、白い一本の線が浮かび上がる。


「現在は中央に位置し、過去は左。そして未来は右」


相手がそれぞれの場所を杖で突く。すると、現在は黒、過去は赤、未来は青の点が光りだす。


「時間が経過すれば過去、今この時が現在、これからのことが未来。これらの共通点は?」


「――時間?」


「その通り。ではそこから時間を除いたら?」


白い線の上に、再び横に線をひいた。


腕を組み、少し考えたが「分からない」と返答する。すると、相手は「それがここ――」と言い杖を足した白い線の中央を突く。すると突いた箇所から徐々に緑色へと光りだす。


「生死の狭間」


「そんな場所、聞いたことがない」


「そりゃ秘密の場所だからね」


「何故秘密なの?」


「ハハ、好奇心があることは、良いことだ。だけどキミは今、それどころじゃない筈だ」


その言葉で、あの出来事を思い出す。取り返しのつかないことを、大切な人にしてしまった。心がざわつき、胸が苦しくなっていく。


「何故あの事を忘れて――」


「それはキミがここに来て、相当な時間が経過しているからさ」


「え?」


「ざっと計算して10年くらいは経過している、だから忘れても仕方がない」


「そんな筈、だってここに来たのは――」


「感覚はついさっきかもしれないが、先程言った通りここは時間の概念はない」


「だったら――」


「時間の概念がないのは、物理的な経年劣化がないということ。だから、成長も老いも存在しないが、ここで過ごした時間は存在する。よって、キミが伏せっていた時間はキミ自身が気づかないうちに10年経過した」


「そんな――」とその場から崩れ落ち膝をつく。


「それ程までに、キミはその出来事がショックだったのさ」


その人物は肩をトントンと叩くと、杖をクルクルと回して円を描く。その円は光りを帯び、水平線の海ではない別の場所を創り出した。


「まあ、この先を進めば元の場所へと戻れる。ラッキーだったね」


その人物に導かれるまま、その円に足を運ぶ。円の中は暗闇で、本当に戻れるのかと思ったが、わざわざここまでして嘘だとも思えず、ゆっくりと円の中に足を踏み入れる。


「少年、これだけは覚えておくといい。“過去、現在、未来の使者が苗に集まりし時、偽りが混じる。その者はボクの過去を語る”」


「なら、アナタの名前を教えて下さい。俺がソイツを暴いてやる」


「頼もしいな」と笑いながら再び、円を描くように、杖を回す。。


「ボクの名前はマーリン。どうか、今のキミで在り続けることを祈る」


地平線の海とマーリンと名乗る人物は、視界から徐々に消えていき、最後は暗闇だけが残された。



片隅に眠っていた記憶、それが今になって思い出した。いつの時かは曖昧で、それを脳内で掘り下げようとすると頭痛がする。それでも、この人物の口調で、同一人物だと断言できた。


「“過去、現在、未来の使者が苗に集まりし時、偽りが混じる。その者はボクの過去を語る”アンタが俺に言った言葉だ」


「――」


「よく覚えていたね」


何かを言いたげな黒坂だったが、マーリンは右手の人差し指をクルクルと回す。すると、あの時と同じように、円状に光を帯びたゲートが徐々に広がっていく。


「さぁ、ボクの正体が分かったところで、ホントの目的地に行こうか」


こちらの返答を聞かず、マーリンは自身が創作したゲートへと足を進める。俺と黒坂は、互いの顔を見合わせる。黒坂は何かを諦めた表情を浮かべつつ「お先にどうぞ」と言わんばかりに、右手をゲートに向けた。


過去の記憶と変わらず、ゲートの先は暗闇だったが、あの時とは違い、躊躇なく中へと足を運ぶ。黒坂も暗闇の先に入ったところで、ゲートは消え、徐々に周囲の光景が見えていく。


「ここって――」


その場所は前回の未来、人類の終焉だと言われていた場所によく似ていた。生活感があるのに、誰もいない。ただ、その場所とは異なっていたのは、ここには窓があり、外が見えたこと。


外は夜空なのに何故か明るく、周囲には何もない。灰色の地面は、ところどごろが、ボコボコに抉れていた。我慢できずに俺は「ここはどこだよ?」とマーリンに質問する。


「ここは――月だよ」


「は?」と声が漏れ、もう一度外を確認する。すると、頭上に近い空に、青い球体が見えるのだった。



マーリンと位置付けられた人物の下、言われるがまま案内された場所は、月だという。未来や過去のとんでもない話を散々と、聞かされた自分にとって、月では最早反応する対象ではない。


ただ何故ここに我々を導いたのかが気になる。結局、あの場所に行った意味も、この状況が母やイザベルさんたち組織が認可したことなのかも不明のままである。


最悪、自分と三笠先輩は誘拐されている状況である可能性もある。それにしても、三笠先輩は何故この人物のことを“マーリン”だと言ったのだろうか?彼の自信溢れる言葉に、出した銃も引っ込めてしまった。


但し、手品のような仕草だけで、宇宙の月に到達する力があると判明した時点で、2人が抵抗しようにも勝てる見込みはないだろう。もしかしたら、三笠先輩は命の恩人であるかもしれない。


「さぁ着いたよ」


誘拐犯が立ち止まった場所は、何かを観測しているのか、とてつもないモニターが並べられていた。その1つのモニターに、とある人物が映し出されていた。


「イザベルさん?」


恐らく本人かと思われる人物が、先程フェイントで挙げたワルサーさんと何かを喋っていた。


「あれってアメリカの大統領?」


三笠先輩の視線の先には彼が言った通り、現在のアメリカ大統領が映し出されていた。それだけじゃない、よくよく他の画面を確認すると、モニター全てが著名人。若しくは、異能者だと思われる人物たちばかり――。


「ここで一体何を?そんな質問もしたくなる」


心を読まれた?いや、誰でもこれを見せられたらそうなるか。


「だけどそれが本題じゃない。あくまでここまで連れ回す必要と意味があってね」


相手の視線が1つのモニターに注がれた。それはついさっきまで、自分たちがいた地下の部屋だった。


「今までのことと、これからのことが嘘でないことだけ祈ります」


「安心して、これまでもこれからも嘘を言うつもりはない」そう宣言すると、相手はこの場所の動力源と思われるレバーを引いてしまった。


それと同時に、画面のモニター全てが暗転し部屋の全ての照明も暗くなってしまった。


「空気と重力は別のエネルギーから取っているから生命の危険はない。ただ、誰にもこの話を聞かれたくなかった」


「まるでさっきの話は誰か聞いていたみたいに話すな」


「まるでではなく、実際聞いていたよ。黒坂 政子も、イザベルたちも。そして――」


――神たちも――。

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