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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
4章「過去と未来2」
22/37

22,死神の聖女

トラウマの始まり、今の俺を構成した出来事だ。勘違いの筈がない。今でも脳裏に焼きついている。


ほんの一瞬の事だった。彼女を軽く押した瞬間、視界から彼女が消えた。慌てて左右を確認しても、彼女の姿はない。


『大丈夫か!?』


低い男性の声が聞こえ――。


『大変だ!女子高生が!』


慌てふためく若い男の声が聞こえ――。


ことの重大さに、心臓の鼓動が早まっていく。


『マズい!このままだと――』


大人たちの声が響く中、その場にただ呆然と立っている俺は、とても愚かで、とてもマヌケだった。何故ならこの時でさえ、自分自身が可愛いあまり、“何て言い訳を言うべきか”考えていたからだ。


時が経って振り返ると、俺は俺を許せなかった。俺は何度も何度も、俺を殴った。俺は俺を殺したかった。実際、殺そうとした。だけど、それを許さないヤツがいた。それは――。


「三笠さんの回答の前に、イザベルさん」


「何だ?」


「今の話しで、お話は終わりですか?」


『何故この時に?』そんな疑問が浮かぶが、黒坂がイザベルを見る真剣な表情に、何も言えなかった。


「ああ、そうだが」と彼女が返答すると、俺を庇うかのように、黒坂は両手を広げ、イザベルから距離を取り始めた。


「急にどうした?」


彼女が疑問に思うのも無理もない。俺も同じ気持ちだった。しかし、黒坂は彼女の言葉を無視したまま、俺と一緒に部屋の入口まで後退する。


「貴女はイザベルさんじゃない」


急な発言に彼女は、キョトンとした表情をしてクスっと笑い「何を突然――」と口にする。黒坂は服の内ポケットから拳銃を取り出し、銃口を彼女に向けた。


「本気なのか?」


笑っていた彼女も、表情が険しくなる。


「貴女が偽物だと判断した要素は、3つ。1つ、イザベルさんは裏だろうが話し方を変えない。2つ、過去に自分は宣言した。何が何でも、未来の彼女たちを救う。たとえ、この体が朽ち果てても――と」


彼女と黒坂がいつぶりの再会かにもよるが、1つ目の理由は、時間経過で話し方くらい変わるかもしれない。が、2つ目の理由が本当なら、かなり信憑性は高くなる。もし彼女が――。


「長い時間生きていると忘れっぽくなってしまう」


俺が思ったことを、彼女が代弁してくれた。ちょっと、理由としては苦しいが――。って、そう俺が思っているということは、ホントに彼女は偽物なのか。でもそうすると、今までの話は――。


「すまない、日本語も君の思いも、無碍にするつもりはないのだが――」


落ち込む彼女とは裏腹に、彼はニヤリと笑う。


「そう言われると思い、とっておきの3つ目を言います」


「そう言われると思い、とっておきの3つ目の理由をお伝えしよう。貴女は愛用しているワルサーを連れてきていますか?」


彼女は「勿論だ」と言い、背中に隠し持っていた銃を俺たちに見せる。愛用している銃を持っているという事は、やっぱり本物?


「それで自身の頭を撃ち抜き――自決して下さい」


成程、不老不死であれば、それが何よりの証明であり理由である。しかし彼女は、呆れたと言いたげな表情で、深い溜息をつく。


「とっておきと豪語したわりには、他人任せなことを言う。知略に長けたキミの発言とは思えないな。そちらこそ本物なのか?」


え?確かにそれを否定することはできない。いや、どうなんだ?不可解なことに遭遇し過ぎて、正常な判断ができない。


「自分が本物かどうかはさておき、貴女が偽物だと証明できた」


え?今ので?どれだ?どのことだ?


「何?」


「ワルサーは、イザベルさんの親衛隊隊長“レオン・ワルサー”のことで“銃”とは言っていない」


確かに、銃とは言ってなかった。


「すぐ銃だと判断したのは、身近にその名の人物がいないから――。それとも、仲間の名前まで忘れてしまったのですか?」


彼女はこうべを垂れ、何も言わない。


「それにイザベルさんは、大の銃嫌いで有名だ。フランス革命、ナポレオン戦争、世界大戦から、現在各国の内乱や紛争まで。彼女は愛用の“鎌”のみで、戦場を渡り歩いている」


黒坂の質問はひっかけで、仮にそれを証明した場合、墓穴を掘ってしまうということか。コイツ、よくそんなこと、この短時間で考えつくな。


「その為、二つ名は“死神の聖女”」


「それ悪者か良者か、分からん二つ名だな」


「同感です。実際、戦場を滅茶苦茶にして去るらしいので、敵も味方もないのかも」


本物に会った時は、言葉に気を付けよう。


「さて、その瞬時に武器を出す能力は、とても素晴らしいですが、それが足枷になった。あと、少々勉強不足でしたね、誰かさん?」


「いつから気づいていた?」


イザベルと名乗っていた人物は、首を左右に振りながら、黒坂に質問した。


「貴女がイザベルと名乗った時点で」


「何?」


「彼女は車を運転できない」


「何!」


「他にも幾つか違う点はありましたし」


「いやだったら、何故ずっと知らないフリをしていた訳だよ?」


「相手の目的と、正体を絞りたかった」


「じゃあ何故、3つって?」


「――その方が、“ボク”の気が引けた。そうだろ?」


ボク?


イザベルと名乗る人物から発せられた声は、それまでの彼女とは違った。男性なのか、女性なのか判断できないような中性的な声。一瞬、白仮面が脳裏に浮かぶが、それとは違う。だけど、それに近い“何か”そんな気がした。


「だから、ずっと上の空だった訳か、色々と重大な情報を言ったと思ったが――」


「嘘か誠か、分からなかったので――」


「ずっと半信半疑――。成程ね、あの女がキミに固執する理由も分かる」


「あの女?」


「イザベル・ヴォ―ドン。ちゃんちゃらおかしい偽名だけど――」


「っ!」


「おっと、今の子は“ちゃんちゃら”何て言わないかい?」


「いや、イザベルさんが偽名って――」


「いや、黒坂和樹。キミは気付いている筈だ。――ああそうか、これもキミのテストという訳か」


コイツ、何の話をしている?


「フランス革命、ナポレオン戦争を戦った者。戦場を単身で暴れまわる脳筋。そして、600年前に不老不死になった田舎娘」


だから何だ?


「だからこそ、アナタが何者かが分からなかった。イザベルさんが何者かを知っている。いや、それだけじゃない。彼女の過去をも知っていた」


黒坂は既に、イザベルの正体を知っている?フランス革命とナポレオン。単純に考えれば、彼女はフランス人。単身で暴れて――600年前?そこまでフランスの歴史を知らない。


「その口振りだと、彼女が神の子になるきっかけも、聞いていた訳か」


まあ別に、彼女が何者かはこの際、どうだっていい。今の俺に重要なのは、あの過去にある。あれ?過去?そう言えばコイツ、最初俺の事を――。急に、頭が冴えてきた。これも一種の能力なのだろうか?


「先程の落ち度が信じられないくらい、アナタの語る言葉もその感情も、彼女その者だった」


つまりは言伝でなく、直接見ていた訳か。ついさっきまで、何もかもが理解できなかった。それは多分、1つ1つが部分的で、意味や意図が複雑になっていたから――。


「だったら答えは1つだ、違うかい?」


でも今は違う。何がキーだったか分からない。分からないが、この正体不明の人物が、今の俺なら分かった。


「いや、信じられない」


恐らく、黒坂はだいぶ前から気付いていたのだろう。やはり、敵に回すべきではない。いやいや、それよりも優先するべきは――。


「ここには3人いる」


「三笠さん?」


「フフ、それで?」


「説明は後にして先に結論を言おう、アンタは――」


――マーリンだ。

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