21,4回目の理由
『全員が異能者』か――。イザベルさんの話は、あながち間違いではないのかもしれない。伝承ではあるものの、人は知恵の実を食べ、楽園から追放された。それと同じくして、人間の進化は止まってしまった。
アダムとイブが、その時何を思ったかはともかく、その行為が現在まで、人類の罰として残り続けている――とか。これだけ聞くと、理不尽でしかない。また、その要因となった実の苗が、ここにあるのは不可解だ。
「それで?この苗と、今回の出来事と何が関係しているのですか?」
「それは少々長い話しになるが、聞いてほしい」
そして、彼女は苗を見つめながら語りだす。
◆
この木の苗は、2回目の世界大戦の終盤、イングランドのとある地下で発見された。
一見ただの苗だったが、場所が場所であることと、何百年もの間枯れることなくそこにあり続けたことから、発見した者たちは他のモノと同様に持ち出した。
とある場所とは何処かって?それは――。
――円卓の騎士の宝物庫さ。
何故そのような代物が、あの混沌の時代に発見されたかは、発見した人物たちに要因があった。その者たちとは、迫害を受けていた異能者と“疑われた者”たちだった。
世間では『迫害はない』と謳われていたが、現実は違う。己が持ち合わせていないモノを、相手が持っている。それに疎まない人は稀だ。独裁者のゲルマニア宣言を発端に、魔女狩りならぬ、“異能狩り”が始まった。
以前より、優れた人物が迫害されることが顕著に現れている中、少しでも他者と違うだけで『コイツは異能者』だと言われるようになる。中には本物の異能者もいただろうが、その大半は、あらぬ疑いをかけられた、ただの人たちだった。
その人物たちが逃げ場に困り、未開拓だった地下を掘った結果、それは発見された。その後、発見した者たちは、我々が保護した。彼らに巨万の富と居場所を提供した代わりに、その代物を受け取った。
ああ『何故、円卓の騎士のモノだって分かるのか?』という質問については、苗と共にあった“日記”にその概要が残されていた。
円卓の騎士と言ったものの、正式な言葉を言えば、“マーリンの宝物庫”と言うべきかもしれない。マーリンとは、円卓の騎士で登場する王。“アーサー・ペンドラゴン”を導いた魔術師と言われていた人物。
魔術師という時点で、お伽話。又は創作された人物かと思われたが、宝物庫にあった代物は、全てアーサー王からの恩賞だと日記には、記されていた。その日記が書かれたとされたのは、今から6世紀ごろ。つまり、今から約1400年前のモノだと分かった。
丁度、歴史上のアーサー王が、在位の時期と重なり、信憑性が高くなった。更に、その代物を奪還すべく“ヘルメス旅団”と名乗る5名の集団が襲撃してきた。何でもその組織は、マーリンを主とする連中で、未だ彼が生きている口振りなのである。
1人1人が人を超えた存在で、我々は苦戦を強いられた。最終的には、彼らが欲した一部の代物の返還と、ある条件を飲むことで和解した。その代償は、マーリンという人物と、苗についての知識だった。
マーリンという人物は、彼のほんの一部であり、遥か昔から存在していたという。その彼が唯一恐れたこと――それが苗の喪失。だからこそ、今まで安全だった地下の宝物庫に隠していたという。
では彼は何を恐れていたのか?たかが苗一つごときに――。組織の代表を語る者は、こう告げた。
『それは人類の根源であり生命線。苗が消えた場合、人類は滅びる。それをどこで履き違えたのか、人の願望を叶える魔法具と、歴史が塗り替えられた。次第にそれを“聖杯”と揶揄する者が現れ、しまいには人類が追い求める願望器と化してしまった』
その者らは愚かな人類に絶望しながらも、主人であるマーリンの望む形を貫く為、その苗を守り続けた。しかし、他にもやらねばならないことがあり、少数の彼らでは限界がある。
その為、彼らの代わりに苗を守ることを約束した。それがある条件だった。役割も形も違うモノとはいえ、世間では聖杯とされた苗を守るべく、我々は熟考した。その結果、不定期による保管場所の移動で決着がついた。
理由としては、我々の想像以上にそれを狙う者たちがいた為だった。個人から国規模で、どこからか突き止められ、一定の場所に保管することは、愚策と判断した。以降、苗は様々な国と地域を渡った。
そして、1999年12月の暮れ、苗は日本に持ち込まれることになった。
◆
初めは歴史の授業かと思えば、急に壮大な話へと移り変わり、思わず苗から距離を置きたくなった。
「保管先は、古い友人だった二代目の母、政子の提案により、千葉県の上総に位置する黒坂の施設へと、輸送されることとなった。輸送の際は進路はランダムで、運転手も何度も替える徹底振り。時間はかかったものの、計画は滞りなく進む――筈だった」
彼女は顔をしかめた後、服の中に隠し持っていた新聞紙を黒坂に差し出した。それを受け取った彼は、赤い印がある記事を読み始めた。
「千葉県某所にて、黒坂重工が所有するトラックが、女子高校生と接触ーー」
隣からその記事を覗き込んだ瞬間、胸がざわついた。
「原因は、同伴者との口論によるものとみられも――」
その記事には横転した緑色のトラックがあり、俺はそのトラックを過去に見た記憶がある。
「どちらも未成年であることと、トラックは横転したものの――」
だけど――。
「運転手ならび、接触した女子高生は軽傷だった」
あの時の記憶に――ズレがあった。
「その記事では、不幸中の幸い。という内容で終わるが、実際は異なる」
黒坂が「というと?」質問する中、彼から新聞紙を奪い取り、その記事を見返す。
「鍵付きで何重にも保管された苗は、何故か同伴者の真横まで転がり、その人物はそれに触れた。その瞬間、その人物は忽然と姿が消えたという」
「それが三笠さんという訳ですか?」
イザベルは無言で頷く。
「幸い目撃者は、運転手と女子高生。そして、後方より追走していた我々の関係者のみ。彼も、1時間程度で帰ってきたが、オマケ付きだったが――」
「オマケ?」
「白い仮面を被った者で、理解できるだろ?」
「まさか一緒に?」
「彼はこちらの会話を無視したまま、こう言った」
『この子に関わることは、許さない。関わった場合、我ら神からの鉄槌が下り、人類の寿命は早まるだろう』
「神!?白仮面は自身を神だと!」
「録音も残っている。男なのか、女なのか判別出来ない機械のような声だったがな」
「その後は?」
「苗は失ってはいないが、予想を遥かに上回る出来事だ。連中にコンタクトを取るほか、我々に選択肢はなかった。どのような小言を言われるかと思ったが、連中はこう言った」
『その者が4度、この世界から消えた時、苗と再会させるべし』
「成程、だから三笠さんを此処へ」
「車内で話すつもりだったが、内容が内容だ。ゆっくりとここで話すべきだろ?」
「確かにそうですが、自分もここにいるのは?」
「どちらの未来であっても、君は重要な人物に変わりはない。であるならば、特等席で見て知るべきだと思ってね。私が強引に同伴させたのさ」
「成程――」
「で?一番の当事者である君は、何を考え込んでいる訳だ?」
「この記事の女子高生は、本当に軽傷だったのですか?」
「猪狩 沙良のことか?それならその記事の通りだ。トラックは派手に横転したが、軽い打撲だけだったと聞いている」
「だとするなら、おかしい」
「何がですか?」
「彼女は猪狩講師。いや、沙良ねぇは――」
――危篤状態の重症だった。
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