20,「2人と人類」
「何の冗談ですか?彼が神だ何て――」
イザベルと名乗る女性の言葉に、反論する黒坂だったが、その反応を見た彼女は、不敵な笑みを浮かべる。
「そんな事ありえない――そう言いたい訳?」
「確かに三笠さんの話だと、違う時代へ移動する時、白仮面の影響はなく、今までの経緯から、能力者である可能性は高い。だが、能力調査が陰性だったからと言って、神と断定するのは早計かと――」
「神と言っても、神が造った神。『神の子』だとすれば?」
「神の子?」
「厳密言えば、神から直接能力を植え付けられた人間のことを指すが――」
「植え付ける――か。随分と神に対して嫌悪感を持っていますね」
彼女は俺の言葉で、ミラーごしからこちらを一瞬見ると、また笑った。
「そう言う君は、どうかな?玲という二代目の子と、岸野という青年からの情報しかないとは思うが――」
「俺は――」
玲からの印象は、人類を滅ぼそうとした元凶。岸野からの印象は、人類の希望と正反対な情報だった。とは言え、直接神に会った訳ではない為、本当はどちらなのか分からない。それでも――。
俺は悩む中、白仮面の姿が脳裏に浮かぶ――。
「悪い存在じゃ――ない気がします」
またイザベルは、ミラーからこちらを見るが、今度は無表情のまま、こちらを見た。
「神には――何かを達成する為の目的があって動いていて、やむを得ない事情から人間と敵対しているのかと――」
「会った訳でもないのに、随分と肩を持つ」
「そういうアナタは、会った口振りですね?」
「ああ、私は君と同じ、神の子だからな」
「「なっ!」」
黒坂と言葉が重ると同時に、車の急ブレーキがかかる。
「着いたぞ」
彼女が左の窓に視線を移したので、反射的に同じ方向を向く。するとそこには、病院のような白塗り建ての建物が、そこに建っていた。
◆
俺たちは車を降り、その白い建物へと歩きだした。建物の中は、こちらが予想した通り病院だった。但し、“元”病院。現在は廃墟と化した状態で、何もかもが荒れ果てていた。
「ここって、西多摩の病院ですか?」
「さすがは二代目、凄まじい記憶力だ。そう、君はここに一度来たことがある――20年前だがな」
「え?20年前?それってつまり――」
「ああ、二代目が生まれた病院だ」
「ちょっと待って下さい。黒坂が赤ん坊の時のことを覚えている訳――」
「自分は超記憶症候群で、生まれてから今までの全てを覚えておりまして――」
「それって――異能じゃないのか?」
「少なくとも、異能調査で陽性になったことはありませんし、お二人のように神から啓示を受けた覚えもない」
「あれを啓示と呼ばないでくれ!」
初めて彼女が、感情を露にした。黒坂は「すみません」と謝罪すると「いや、こちらへ」と彼女は地下へと続く階段へと向かった。
「先程の続きを話そう――」と、手持ちのペンライトを点けた彼女は、車内の最後について語り出した。
「私は親の影響もあり、物心がついた時から、神を信仰していた1人だった。仮に不幸があっても、それは私の祈りと、普段の行ないせい。そう思う子だった。
とある日、母に頼まれ近くの池に薬草を取りに行った」
や、薬草?外国の家庭って、薬草を採取するのか?
思わず口にするところだったが、話の腰を折りたくなかった為、そのまま黙ることにした。
「その池には、武装した人物が3名いた。その人物は浮世離れというか、今まで見たことのない格好で、馬鹿な私はその人物たちを神の使者だと、勝手に勘違いしたのさ。
そして、彼女たちの言葉に唆された結果、馬鹿で間抜けな私は、改造人間になり、“600年”も生き続けた訳だ――」
「600年!」
なら山菜取りも頷ける。
「つまり、貴女の異能は――」
「――不老不死さ」
簡単に言っている彼女も彼女だが、何の反応もしない黒坂は、黙ったままだった。
「オマエは知っていたのかよ?」
「能力については何となく、経緯を聞いたのは初めてですね」
「何となくって――。何であの時驚いて、今のは驚かないんだよ?」
「あの時?」
俺は、玲の赤いハンカチを見た時の事をイザベルに話した。
「成程、確かに変だな。どちらの内容も、規模としては驚いてもおかしくない。寧ろ、娘の存在を知っているのなら、こちらの方が驚くことだと思うが――」
そうだよ、何たって不老不死だぞ、不老不死!本人がどう思っているかはともかく、多くの人類が切望する能力に違いない。
「いや、これでも随分と驚いてはいます。ただ、その前の“神の子”について考え事をしていて――」
「というと?」
「神が人に能力を付与することができる程、強大な存在であるのにも関わず、何故自分は神と敵対することになったのかと――」
2つ環境が違った未来。その共通点の1つとして、黒坂の影響力は同じだった。どちらも神に対抗した中心人物として挙げられていた。位置づけは、正反対だったが――。
「自分の環境が一般的とかけ離れ、異能者が身近にいる。そして、自身は無能者である。どれだけ相手に逆らうのが無謀であり、それでも実行する理由が、今の自分には――」
「考えられない?」
「そうです」
今のこの男を知る限り、考えなしでの行動を行うとは思えない。それと同時に、それ相応の理由がない限りわざわざ神と対抗するようなことも――ない気がする。
ゆうて、俺が黒坂と知り合って、まだ日は浅いから、断言できないが――。ただ、それを自分自身でも感じたが故、悩んでいるのだろう。
「未来で娘が生まれることを知っていても、まだその実感はないからか、それとも身近な人物に被害を被ったからか」
「どちらも言えるだろ。二代目、君はまだ二十歳だ。たとえ同年代よりも達観していても、まだ見えないこと、感じていないことは、いくらでもある。それ故、今回の件は好奇心が勝り、母親の苦労も予測できなかったのだろう」
「それについては、何も言えません」
「君に娘が生まれた時――。これは私の憶測ではあるが、溺愛すること確実だ」
「そうでしょうか?」
「会ったのが、既に完璧超人だったからな。まあ、どちらにせよ時間が証明してくれる」
丁度、会話を終えた頃、1つの大きな扉で足を止めた。廃墟になった病院には、不相応なガチガチに固められたような金属の扉。
「さて、目的な場所だ」
その扉の右横に、カードリーダーのような器機が赤く光っていた。イザベルは、胸ポケットから取り出し、そのカードを器機に通す。すると、赤い光は緑に変わり、扉は音をたてつつ、徐々に扉が開いていく。開いた先の部屋は殺風景で、大きな金庫が1つだけだった。
「この金庫の中に、目的のモノが?」
「ああそうだ」
彼女はそのまま、大きな金庫に手をあてると、『ピン』という音がした。次に、顔を金庫に近付けると、同じような音がする。最後に、この部屋に入った時のカードをみながら、暗証番号を入力する。すると、金庫は『ガコン』という音とともに開くのだった。
その中には――。
「苗?」
ここまで厳重に保管されているモノが、苗だったことに落胆し、思わず声が漏れてしまった。一方、黒坂は無言のまま、興味深そうにその苗を見つめる。
「苗と言っても、ただの苗じゃない。人類の起源とも言える苗だ」
「また随分と大ごとな事を」
「実際、人類が反映するきっかけとなる“知恵”を授けたのがコレだと言ったら?」
「それって――」
「そう。全人類は全生物からして見れば、全員――“異能者”なのさ」
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