2,探し人
落ち着いたのか若い男は、盗まれたモノについて疑問を抱き、女性に問いかける。
「それが仮に聖杯だとして、その根拠は?2人の言葉を疑いたくはないけど、何か信憑性でもある訳?」
女性は若い男から目線を逸らし「それは――」と口籠る。その光景に耐え切れず赤髪の男が口にする。
「3代目と俺の親世代が、神殺しを本格的に開始した頃、メンバーの1人がその苗をコイツに託したのさ」
「それって、もしかして――」
「ああ、あの時の魔術師さ」
3人の脳裏には、白いフードを身に纏った男が不敵に笑う姿が浮かび上がる。
「結局あの人は何者なのですか?」
「さぁな、1つ言える事は、アイツは神でも人間でもない、別枠の存在とだけ」
「それでもあの人は私たちに味方している人には違いない。現にここに居る私たち3人は、多少なりとも、あの人に助けられている」
「だが何かを隠しているのは事実だ。あの苗の事だって、遠回しに言わずに言えばいい」
言い返せないとばかり、女性は目頭を押さえて俯いた。
「それってどのような事を?」
赤髪は一瞬女性に視線を向けながら「その時こう言ったと聞いた」と語り始める。
『恐らく、我々の代では悲願は叶わない。過去、現在、未来だけでは足らない。その足りないピースであるコレは、次世代である君に託そう』
「その時、渡された3代目は『これは何の苗?』とヤツに聞く。すると、ヤツは不敵な笑みでこう抜かした」
『人間の願望を叶える盃と、揶揄された時期もあるが、これ本来の役割は、人間を人間たらしめた遺物』
「人間を人間たらしめた遺物?」
言葉の意味に悩む若い男に、女性は再び躊躇う表情を浮かべるも、一呼吸を置いて口にする。
「嘗て人間は、禁断の果実を食べたが故に、エデンという楽園から追放された。人間の最も古い歴史の記述の一節。それがもう1つのあの苗の正体」
その言葉で何かに気付いた若い男は「つまり、その苗は聖杯であると同時に――」と呟き、「“知恵の樹”でもある訳さ」と赤髪の男が告げる。
◆
苗の信憑性を得たかった筈なのに、更なる謎が判明する事で若い男は更に頭を抱えている。その一方、女性は確かめたかった事を終えたのか、赤髪の前に仁王立ちする。
「それで?その大事な大事な苗を盗まれて、アナタは一体どうするつもり?」
赤髪の男は気まずそうに目線を逸らし、椅子から立ち上がる。数秒間だけ視線が交わるも「一度拠点に戻る」と再び目線を逸らし、部屋の外へと歩き出す。
「結局、部下頼みって訳?」
視線を動かさないまま、不満を漏らす彼女に「否定しない」という言葉を最後に赤髪の男は、部屋から去っていった。
「たく!いくら戦力が増しても、連携が取れてないなら同盟の意味ないじゃない!」
取り残された彼女は、怒りに身を任せ、右足を地面に踏み抜いた。彼女の力は凄まじく、軽い地響きとドスンという音が鳴り響く。
「お、おっしゃる通りで」
若い男が何か言葉をかけようとすると、彼女の携帯電話が「ピピピピ」と鳴り始めた。不機嫌な顔のまま、彼女は相手を確かめずに電話に出た。
「はい?ああ――何?」
相手は知り合いなのか、見頭を押さえつつ、返答する。
「え?神奈川の大学?何で?」
彼女は相手の説明を聞く為、暫し沈黙をするが。「い、イカーーちょ、ちょっと!そうポンポンポンポン固有名詞を言わないでくれる?」
相手の説明内容に追い付けず、女性は若い男にジェスチャーでノートとペンを要求した。すぐに彼は、胸元にしまっていたメモ帳とペンを彼女に渡す。
彼女は小声で「ありがとう」と言い、左の肩と左耳で携帯を挟みつつ、再度説明をするように電話の相手へ要求する。
「キャンパスは金沢八景ね?相手はイカリ サラ。えぇ、分かったわ」
電話を切った彼女は、何か納得いかない表情を浮かべ、携帯電話をジッと見つめる。彼女の行動で電話の相手を察したのか若い男は「お父さん?」と言うと、彼女は無言で頷いた。
「引退宣言しといてあの人は――」
ようやく吹っ切れたのか、彼女は携帯を服にしまい、部屋の外へと足を向ける。
「それだけ君が心配なのさ」
「いいえ、私じゃない。あの人が心配しているのは――」
「人類だけよ」
その言葉とともに、2人も金庫の部屋から去り、誰もいなくなった部屋。
だがしかし、不思議な事に、女性が開けた筈の壁と地面は、まるで逆再生の映像のように、みるみると元の状態へと戻っていく。そして、3つの扉も、奥の扉から順にゆっくりと閉じていくのだった。
◆
同日、某大学の敷地内。
「要は、君のお父さんは今回の件を聞いた時、大学時代に遭遇した奇妙な出来事を思い出した。その内容は、今回の出来事と深く関係していると感心した為、それを確かめたい。
だけど、自身は引退した身。直接行動する訳にはいかない為、君が代わりに確かめてもらいたい。その確かめる人物の名前がこの大学の教授である「猪狩 沙良」さん」
目的地に向かう途中、彼女から聞いた内容を自身も整理する為、聞かされた内容を口ずさむ。すると女性は「よくできました」と言いつつ、気の抜けた拍手をパチパチと叩く。
「それで、その猪狩さんに何を――」
「分かりました。今の時間は302号室で講義をしております」
大学の女性職員が彼の言葉を遮り、彼女はそのまま「ありがとうございます」と言い、該当の部屋へと躊躇いなく歩き出す。
「よく、部屋の番号だけで場所が分かるね」
「一様、母校だからね。とは言っても私が通っていたのは別のキャンパスだったけど」
「ああだから、あの職員さんも疑う事もなかったのか」
「それもあるけど、私と父は有名だからね」
「そうなの?」
「君の“世界”だって有名だったでしょ?」
「それは―――」
言葉につまった男性は、足を止める。それに気付いた彼女は目頭を押さえ「ごめんなさい」と申し訳なさそうに謝る。
「思い出したくなかったわよね」
「いや、何も知らなかった時より、今の方がいいさ。ごめん、気を使わせて」
「いいえ、私も無神経だったわ。それよりも目的だけど――」
「力学的、数学的な要素。法則とその答えに、今まで私たちは答えてきたし、これからも答えるでしょう。でも、実際は別の要素によって、その答えは変動する」
2人は声がする部屋の表記を確認すると、「302」と記載されていた。
「実際に、時速と時間をかけた道のりを解いたとしても、10人中10人が同じ時速で同じ時間を歩ける訳じゃない。信号が赤になったり、道を聞かれたり、足を痛めたり、別の要因が常に存在する」
2人は講義がおこなわれている部屋の窓を覗き込む。すると、そこには高身長で、見た目は20代後半くらいの整った顔立ちで、黒い長髪を靡かせる女性が見えた。
特徴的なのは、実験をする訳でもないのに、白衣を着ている事。白衣のポケットに手を入れたまま、教卓の周囲を歩きつつ、学生に問いかけていた。
「彼女が?」
「ええ、彼女が猪狩 沙良。父さんが会えと言った人物よ」
「随分と若い人だね――あれ、若い?」
「気付いた?」
「確か、君のお父さんの大学時代に――」
彼が何を言いたいのか察したのか、彼女は無言で頷いた。
「君は驚かないのか?」
「だって、私も知っている人だからね。この大学に赴任して以来、見た目が一切変わらない“魔女”と呼ばれた有名教授。私の頃には年齢を言わなくなったけど、父さんの話がホントなら、当時28歳と言っていたから、少なくとも今は50歳を軽く超えている筈」
再度、猪狩を見る男は、信じられない表情で彼女をみつめる。すると、彼女の目線が男に向けられた。
「あっ」
「見られた?」と女性の言葉に、男は無言で頷く。
「別にこの後、声をかけるし、別にいいわよ。それより目的よ」
女性は先程メモを取った紙を取り出した。
「今回の目的は、あの人でなく、あの人の探し人」
「探し人?」
「その人の名は三笠 トオル。2011年3月上旬。この大学の卒業式を最後に、行方不明になった人よ」
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