19,「雨」
4回目という言葉を最後に、意識が途絶えた。その後、あの時代で何が起きたか分からない。ただ、4回目という言葉が脳裏に、何回も何回も繰り返されていた。
4回目?3回目ではなく?4回目だって?いつ?どこで?――でも。
「身に覚えがある」
あれは、猪狩講師と出会う前。物心がつくか、つかないか――。はっきりとしているのは、そこはとても不思議で、異質な場所だった。
海水の臭いがするのに、その海の深さは変わらない。どこまで歩いても、青い空と白い雲、永遠と続く水平線。変化がない世界。いや、1つだけ、変化があった。
それは――雨。
それが顔に触れた時、俺の心には暖かさと安らぎを感じた。何故そう思ったのか?その疑問を、当時の自分も思っていた――と思う。
当時、考えなしの俺は、目的もなく歩き続けた。歩いても歩いても、ゴールのようなモノはなく、力尽きて泣きべそかいた頃、誰かに会った――気がする。
『●うか、◆うだったか』
『■ボウは×〇っていた』
『よく@ぼえて△くといい。これ°キミの――:うりょ=だ』
断片的な記憶だからか、ノイズのような音と一緒に機械?無機質?そんな単語が、頭に浮かぶ。そして、目の前に現れたモノは――。
「何だっけ?」
その疑問と共に、自分自身からある違和感を覚えていた。それは――。
◆
三笠先輩が発見されてから1日後、彼は目を覚ました。何事もなかったように、そう前回と同じ、数時間程度の時間旅行にでも行ってきたような感覚で――。
しかし、こちら側はかなり深刻な状況に陥っていた。いくら情報統制を行ったとて、今までのように内々だけの話では済まない。母をはじめ、大人たちの介入が始まることになる。
彼の身柄は、黒坂コーポレーションが経営する病院に確保され、今までの経緯を知った人物は、1人1人から事情聴取を受けることとなった。そこで自分の行なった違法行為が発覚する。
たとえDNAの一致度に使用したとはいえ、個人的な理由での使用は犯罪に値する。主犯である自分は勿論、その使用を黙認した犬伏さんまでもが警察に捕まってもおかしくはない。
それすらも母の力により、回避された。改めて、母親の影響力を感じる。しかし、その代償は大きかった。母親をはじめ、異能者のみで構成された三大組織の代表に、事の経緯を話すこととなった。
空は曇り雨がポツンポツンと降り出す中、自分を乗せた車は、黒い帽子を被った運転手付きで、彼らが待つ場所へと走り出す。その前に――。
「どうも」
「お元気で何よりです」
「まぁな」
三笠先輩と病院で合流する。今回の当事者であるのだから、当然と言えば当然だ。彼は3週間前に会った時よりも、少々やつれているようだった。また、今回の行先については、録音された音声により、既に彼から聞いていた。
「災難でしたね」
「これからの方が災難な気がする」
前回もだが、未来についての希望は、あまりないようだ。彼の感想でも言っていたが、玲の在り方の違い、まるで別の未来。言伝とはいえ、こちらも違和感があった。どちらかと言うと、自分が会った彼女は、今回の方に近い。
だが、それなら1つ前の未来は?
「ところで、今からどこへ向かっているのか知っている?」
「どこかは残念ながら、ただ誰が待っているのかは、知っています」
あまり思い出したくはないが――。
「まずは、三大組織内で一番資金源を有する“New Age”。その代表者ヘンリー・カナリー」
「三大組織?ニューエイジ?」
「もしかして、今回呼ばれた理由は?」
「聞いたさ。でも、状況的にオマエの母親からだと――」
「思いのほか、大事になっているようで――」
「確かに学生が、3週間行方不明になるのは、まぁまぁ事件だと思うが、おおごとになり過ぎじゃないか?」
「それは同感です」
「まぁいいや、教えてくれ、ヘンリー何だっけ?」
「ヘンリー・カナリー。20世紀初頭、彼女の祖父が設立した組織で、傭兵稼業と兵器生産でかなりの富を得たとか――」
「黒坂コーポレーションのアメリカ版?」
「ん――。祖父が会社を設立したのは1950年。
うちよりも歴史は長い、どちらかというとNew Ageの日本版かと――」
「で?お次は?」
「アジアを中心とした組織。構成人数は一番の“翠静舘”。その総帥は李 有慶。たった一代で中国のみならず、全世界に彼の目があると言われています」
「一代ってことはかなりのお爺ちゃん?」
「とある歴史の革命時に、彼を確認されているので推定ですが135才は越えていると思います」
「ギネス記録じゃないか」
「さあ、どうでしょうか?噂の領域ですが、既に彼は亡くなっていて、表は影武者が、裏では別の人物が支配しているとか――」
「じゃあ最後は、三大組織なんだろ?」
「最後は――」
「ヨーロッパを拠点としている組織“異端会”」
こちらが喋ろうとした途端、車の運転者が語りだした。
「三大組織の中で一番歴史が長く、設立は19世紀。ナポレオンがフランスで帝王だったころ――」
過去に聞き覚えのある、若い女性の声は――。
「無駄に年齢を重ねたおばあちゃん――」
黒い帽子を脱ぐと、鮮やかな金髪が露になり――。
「イザベル・ヴォ―ドン。よろしくね“未来の使者”さん」
バックミラーごしに、自分たちにウィンクしながら、自身の名前を名乗るのであった。
◆
「あと、二代目も」
「自分はついでですか?」
「何、拗ねた?」
「別にそういう訳じゃ――」
互いに知り合いなのか、仲睦まじい会話のラリーを2人がしているなか、俺は耳を疑った。聞き間違いでなければ、この外国人の運転手は、俺を“未来の使者”と言った。
「あの未来の使者って?」
「ああそうだった。二代目をからかう為に、日本へ来訪した訳じゃない」
「当たり前ですよ」
「えっと、何から話そうかしら――」
人差し指でトントンと、ハンドルを叩きながら、悩みだす。
「ああ、まずは残りの2人、ヘンリーとあの爺さんね?あの2人は来ない。正直なところ、私も来る予定でなかった」
「でも、母からは――」
「ことの重要性を二代目に伝えるには、それぐらい言った方が良いって、私が伝えたの」
「それはもう既に、痛い程に伝わっていますよ」
「でしょうね、車に乗る前のアナタは、死んだ魚の目をしていたから」
「この人、話を脱線させるのが好きなのか?」
「残念ながら、この業界では無口で通っているわよ」
ミラーごしからのニヤニヤとした表情には「嘘だろ」という返答しかでなかった。
「無口でいるのも、辛いのよ。でも周りは私を聖人扱いするから――」
あれ?よくよく見ると彼女、どこかで見たような――。
「いい加減、本題に移って下さい」
「そうね」
彼女の能力の1つなのか、彼女が真剣な表情になった途端、重い空気が流れだし、気付けば、外は豪雨と化していた。
「まず、2人は今回の件を大事になりすぎたと思ったようだけど、その考え方からして違う。三笠 トオル。アナタが“3週間も消えた”から私たちが動いたのではなく、今回で“4回目”だったから動いたの」
「「4回目?」」
恐らく、黒坂と俺は違うことを考えているだろう。黒坂は「何故この人たちが、事前に今回の事件を知っていたか?」という疑問。で、俺はというと――。
「つまり、私たちは今回の騒動が発生する前から三笠 トオルの存在も、アナタの能力も知っていた」
「能力?ちょっと待って下さいイザベルさん」
「何?」
「彼は能力者じゃない。それはうちにある調査結果が示している。今回の件で、念の為に調べた」
「調べたのか?」
「すみません、つい」
まぁ、実証してくれている訳だからいいか。
「能力者の全てを感知することは難しい。特にそれが“人智を越えた存在”だとすれば――」
「え?それって――」
俺は4回目と言われ、あの奇妙な場所を思い出した。そして、心のどこかで、ある事を1つの可能性として思っていた。それは――。
「三笠 トオル。アナタは――」
―――神だ。
偶然か必然か、その時に、雷鳴が轟くのであった。
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