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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
3章「容疑者」
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17,彼の名は――。

俺の名前を言った男は、3階程の高さに位置する場所にいた。手すりや階段などはなく、彼がどうやって、あの場所にたどり着いたのか。


その疑問は、彼が身を乗り出し、そのまま飛び降りた時に分かった。


「――浮いている?」


彼の体は、青いオーラに包まれ、物理法則を無視して、こちらへとゆっくり近づいてくる。どうやら、俺には異能者を引き寄せる能力があるらしい。ここ最近、異能者の遭遇率が異常である。


「いやいやまさか、ここに訪問者が来るとは思わなかったよ。しかも、この中途半端な時刻に」


「こっちだって来たくて来た訳じゃない」


しかも今回は、黒坂と待ち合わせをしている最中、あちらで騒ぎになっていないといいが――。


「確かに、貴方が異能者だったという記述はなかった。過去や未来には、何度が行った履歴はあるようだが――」


相手は、左手に抱えたタブレットを触り始め、ツラツラと俺のことを語りだす。


「何だそれ?」


強引にそれを手繰り寄せると、俺の顔写真と一緒に、様々な情報が書かれていた。俺の学歴や、“あの出来事”も含め、こと細かく自分のことが書かれていた。そして、最後の文章は、こう締め括っていた。


「行方不明?」



『2011年3月11日を最後に、その消息が絶たれる。以降、行方不明扱いとされ、2018年3月末より、死亡扱いとなる』


あと半年後に、俺が行方不明?何かの間違いではないか?そう思った時、あることに気付く。


「俺は2045年に、黒坂 玲に会っている。ここにはそれが載っていない」


「黒坂 玲?」


「ここは西暦何年だ?」


「成程、だから貴方も、リストに含まれていた訳だ」


「リスト?」


「神様にすがった人間の末路からなる、標的(ターゲット)のリストだよ」



この人物の話によると、玲の話に出てきた神様は、全て黒坂たちによって倒された未来だという。それはつまり、あの未来とは異なり、ここでは人間側が勝利したことになる。だが、現実はその反対だった。


まず、神様の正体について――。結論から言うとそれは――。


――人間の創造主を指す。


一見、笑い話にしか聞こえないが、人間が誕生するにあたって、それまで道のりには、幾つもの謎が潜んでいた。


例えば、何故人間だけが、急激に進化を遂げたのか?例えば、何故人間だけが、アフリカ大陸から、遥か先のアメリカ大陸まで移動したのか?例えば、何故人間だけが、地球にとって害悪なのか?


それ以外にも、人間の誕生についての謎は尽きない。その謎を紐解く説が、この時代では、黒坂たちに倒された神々による功績なのだというのだ。その理由として、神々の目的は、人間の監視と管理を担っていた。


人間から異常を感知した際、神々によりリセット。つまり、一度人間を滅ぼし、また復活させるというサイクルを繰り返していたというのが、近年になって判明した。その証拠が、様々な文献から語り継がれている。例えば――、


古代文明アトランティスの滅亡、


ノアの方舟、


失楽園――etc.


ここまでその話を聞いても、正直信じがたい話だ。それでも、この時代の人間たちは、それを信じている。その要因の一つに、ここの人間の立場が、関係しているらしい。


遠い未来の話ではなく、俺がいた時代の時から、人間のDNAは、世代が重なるごとに、劣化の一途を辿っていた。少しずつ少しずつ、DNAは欠損していき、人間の形、機能、役割が失われているという。


その結果、この時代の平均寿命は、50歳以下で、人工的でしか子どもは生まれない。そう最早、生物としての在り方が、保てない状況にある。


その憎しみや怒りなどの不満は、国や政治ではなく、“過去の人間たち”に向けられた。いや、厳密言うと、余りにも人間が減少し、国や政治という概念は、かなり昔に消滅している為、向ける矛先がなかったのが正しいか。


それがとある考古学者の発言をきっかけに、過去の人間。特に、神と言われた者たちを亡き者にした黒坂たちが、非難され始めた。その結果、この時代では、とんでもない計画が進んでいる。その計画とは――。


『――過去に行き、神を殺した者を殺す』というものだ。


どこぞのSFを彷彿とさせる話だが、実際に現在から過去へ行く方法と、過去へ赴くメンバーを既に集めていた。彼はその中の1人で、今のこの状況は、過去へ行く為の訓練だという。


「孤独に耐える訓練?」


この部屋は、外の時間の流れよりも遅くなっており、ここの1日は、本来の時間の0.01秒。あのデジタル時計が、殆ど動かなかったのはその為、それ程までに、この時代の技術は進んでいた。


「あちらでは、全ての人間が敵になる。しかも、この計画には“帰還する”選択肢はない」


そこまで技術が進んでいるのに、その活用が、過去への報復に利用するとは――。


「仮にそれが成功したとして、それで未来が救われるのか?」


「これは救われるか、救われないかの話じゃない」


『それは自己満足だ』と言ったら、今すぐにでも殺されそうな目をしていたので、その言葉を飲み込み、別の話題に変えてみる。


「それで?そのメンバーは?」


「それは貴方に教えることはできない。自身が行方不明になっていると、知らないのなら、貴方が来た時代は、黒坂たちとまだ接触できているということだ」


「そんな相手に教える訳ない――と」


相手は、黙って頷く。


「でも、そのデータは本当に正しいのか?」


「さっき言っていた黒坂 玲の話か?」


彼の話と同じくして、こちらの出来事も相手に話してみる。その中でも、黒坂 玲と出会ったことは事細かに――。


「彼女と俺は、2045年に出会っている。それがそこに書いていない。つまり、そのデータが本当かどうかも分からない。もしかしたら、黒坂が神を殺さなくても、今と変わらない可能性だって――」


こちらの話に思うところがあったのか、彼は険しい表情を浮かべた。


「あれ?」


その表情に、どこか身に覚えのある人物が脳裏に浮かぶ。


「ん、どうした?」


「ちょっと失礼」と言って、自分の左腕で、彼の鼻より下を隠す。すると、その顔はつい最近会った人物にそっくりだった。


「まさか――不敗の騎士?」


「何?」


「いやまさか」


だとしたら――。


「あの、もしかして過去へ行く為に、黒い甲冑を用意していたり――」


いや、そんなまさかな。


「何故それを?」


彼は、最初に身を隠していた場所に手をかざす。すると、あの時の鎧が宙に浮かびながら、こちらへ、向かって来る。


「嘘だろ?」


「複数の異能者と渡り合う為、技術者が自動修復システムを鎧に施してくれていて――」


近付くにつれ、あの時の恐怖を思い出す。紛れもなく、あの時の鎧だった。


「じゃあ俺は、あの時代で、過去に来たアンタに会っていた訳か」


だとすれば、あの未来は、彼が――。いや、この時代の人間が望んだ姿だった訳か?そんなのって――。


「幼くて、稚拙な1人の子どもがいた」


「急に何を――」


「その子どもは、軽い気持ちで、ある言葉を憧れの人に呟いた」


「――」


「相手は間に受けなかった。そりゃそうだ、ただの子どもの我儘だったのだから。馬鹿で世間知らずの子どもは、更に心にもないことを、その人物に言った。


その人物は、その子の為に怒ってくれた。しかし、その子どもは、その真意を理解できなかった。感情的になり、その愚かで、どうしようもないガキは、彼女を突き飛ばし、取り返しのつかないことになった」


「何がいいたい?」


「自分にとって、都合の悪いことを、他人に責任転嫁しても、その末路は、悲惨の何ものでもない。残るのは、後悔だけだ――」


「自身の教訓か?」


「俺だって、過去に行けるなら、やり直したい。だけど、今だから思う、もしあの出来事がなかったら、今の自分がいないことも、また事実。色々、上手く出来ている。悪い意味でだが――」


彼は苦笑しながら、何かを呟いた。


「今、何て?」


「――キシノ、岸野 戒だ」


彼は唐突に、自身の名前を教えてくれた。それが何を意味するのか、この時の俺は理解していなかった。

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