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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
2章「現在と未来1」
13/37

13,「F」

「それでそれで?黒騎士はどうなったんッスか?」


今まで黙っていた後輩の北浦が、我慢の限界とばかり、身を乗り出す。彼女の後ろでは苦笑する猪狩講師の姿がある。そう、俺はあの後、無事戻ることが出来ていた。


「そんな怖い顔しないで下さいよ」


「――黒騎士の兜は外れ、ヤツの顔は目視した」


「どんな顔でした?やっぱ怖いオッサンッスか?それともバケモノのような――」


「何の変哲もない、普通の男だったよ」


黒髪で短髪の男。無精髭に、少しやつれた頬。年齢は20代後半くらい――。


北浦にその特徴を伝えると「何だ、つまらない」と興味を失ったのか、自分の携帯をいじりだす。


悲しいかな、俺も北浦と同じ感想だった。あれだけ彼女を追い込み、苦しめた人物だ。「さぞ、印象的な人物であるだろう」そう勝手に思い込んでいた。しかし、現実はそうでもない訳で――。


「それで?結局どうやって君は、帰ってきたのだ?」


既に聞き慣れたかのように、猪狩講師は冷静に、自身がいれたコーヒーを口にする。何だか自分の体験したことが、ホントなのかどうか、疑いたくなってきた。


「それが黒騎士の顔を見た途端、意識が次第に遠退いて、気付いたら――」



「家だったと――」


けれど、目が覚めた時の服は土まみれ、全身には疲労と痛みが残っていた。特に黒騎士を殴った右手の拳は、今も赤い。これがもし、夢遊病の類で、全ては俺の妄想だったとしたら、俺は立ち直れないだろう。


あれが自身の妄想ではないと実感する為、俺はズボンのポケットに、手を突っ込んだ。そこにはとあるモノが入っており、失くしていないか確かめるべく、強く握った。


「ただ、薄れていく意識の中、アイツの声が聞こえて」


猪狩講師は「アイツ?」と言いながら、またコーヒーを口に運ぶ。


「白仮面」


急に出てきたそのワードに、彼女は「ゴホゴホ」とむせる。


彼女の反応は、やむを得ない。ここまで1ミリも出てくる様子もない人物が、突如現れたのだ。こちらも正直、未だ信じがたい。


「それで?白仮面は何て?」


「それが――」


そう思う理由は、その言葉にもあった。


「『――ありがとう』って――」


最初とはまるで別人のような発言。それに加え、ポケットの中にある新たな証拠。それが何を意味するか、薄っすらとだが、1つの予測を立てていた。しかし、それが正しいのか、半信半疑だった。



不敗の騎士を、どうにか倒すことができた矢先、どこからともなく、奇妙な輩が気絶した三笠を担いでいた。


「オマエは――誰だ?」


私は気配だけで、人を感知することできる。それなのに、白い仮面で顔を覆った人物の存在に、今の今まで気付くことができなかった。


「ああ、神の手先でさえ、人の手を借りないと倒せない。哀れで役立たずのヒロイン様、おはようございます」


男か女か何故か判別できない。特殊な声質なのか?それとも、何か機械を通して聞こえているのか?どちらにせよ、コイツは私に、殺されたいらしい。


「喧嘩なら――」と言いかけたところで、手足から激しい痛みが、全身を駆け巡る。


「やめておけ、いくら“黒龍”の加護があったとしても、能力に依存したオマエでは、これ以上は動けまい」


「何故、私の能力を!?」


「別に驚くことじゃない。この時代だけで言えば、情報統制などあってないようなモノだ。それに――」


仮面越しでも分かる、相手は私のとある一部を見ている。


「その体を見れば、誰でも――」


ヤツが言うその体とは、黒い鱗が全身を覆っている異形の姿。人なのか、怪物なのか、判断できない姿。顔の感覚から察するに、恐らく顔の右半分は、あの怪物になっているのだろう。


「それにしても、ここは酷い。先駆者の努力を無碍にした挙句、未だに仲間割れなどと」


まるで自分は、ここの人間ではないかのような口振り。いや、三笠という存在を認知している時点で、恐らく相手は、三笠と同じ時代の人間なのだろう。


いや待て、三笠は2010年から来た筈だ。何故、この人物は、私の正体を知っている?


「オマエには、関係ない」


他にも疑問は尽きないが、相手の発言に対し、探究心よりも、不安からの苛立ちが勝った。


「その台詞、この人にも言っていたな?」


いつからだ?自身がこんなに感情的になったのは?いつからだ?自身がこんなに弱気になったのは?


「で?一言二言嗜まれ、立ち直る?どこのガキだ?父親の面影でも、見出したのか?」


「っ!」


本来であれば、怒りをそのまま相手にぶつけるのだが、何故か何も言い返せない。何故だ?何故なんだ?


「図星か。本当に哀れだな」


コイツは一体、何者だ?


自身の体も心も制御できず、混乱する私に、相手は背を向け歩き出し、左手を挙げたかと思えば、指を鳴らす。


すると、ヤツの目の前に「ガラガラ」とレンガが積み重なるような音をたて、気付いた時にはレンガのドアが完成していた。


「待て!ソイツをどうするつもりだ!?」


「元の時代に――。ここでの役割は、もう終えた」


「役割?」


ヤツは三笠を担いだまま、現れたドアの中へと入っていく。


「オマエが、気にすることじゃない。オマエが今、気にするべきことは、今後のこと。不敗の騎士を倒しても、まだ他にいる。せいぜいあがけ、それがオマエの役割だ」


その言葉を最後に、ドアは閉まる。それと同じくしてレンガのドアは、また音をたて跡形もなく、崩壊するのだった。


「一体、何が――」


「時空を操る、白き仮面――」


突如聞こえた男の声、反射的に私は身構える。それもその筈、声の先にいるのは――。


「年齢不明、性別不明、正体不明。分かっていることは、とある“木の苗”を探していることだけ――」


――黒騎士だった。


「まだ意識が――」


どうする?もう体力がないぞ。


私の焦る表情を相手が見たからか「安心しろ」と言いつつ、「ゴホゴホ」と咳をする。


「もう敵対するつもりはない。いや、元々敵対していた訳でもないのだが」


何だと?


「仲間を殺めておいて、オマエは何を言って――」


最後の――、あの手段を使うか?この時を逃したら、次はない。たとえ体が朽ちたとしても、やる価値はある。


「神から洗脳を受けていた。あの兜を通じて」


黒騎士の視線先には、幾度なく恐怖の対象となった兜(あの顔)があった。


「手違いがないように、声まで奪われて」


三笠の考えは、あっていた。


『黒騎士が、雄叫びさえ発しないには訳がある筈――』


一見、無関係だと思い込んでいたことは、実は深く関係していた。


『いいか玲?固定概念に捉われるな――』


父さんが“私たち”に、よく言っていた言葉を思い出す。


『「結果が全て」というヤツは多い。されど、過程なくして本当の成功はない。“何を”得たかではなく、“何故”そこに至ったか、その訳を追求することを忘れるな』


「それを信じろと?だから許せと?」


能力に依存し、逃げた私は、父さんの教えに背いた。後悔は、数えきれない。もし、もう一度、人生をやり直せるなら――。


「許せとは言わない。洗脳が解けても、自身の罪は償おう」


能力に依存せず、努力を惜しまず――、


「だが、その前に聞いてほしい」


意固地にならず、相手の真意を追求する。


「何を?」


父さんや、三笠のように――。


「この世界の“終末”を――」



「まさか、あの男が負けるとは――」


遠い場所から見物していた女は、自分の親指の爪を噛み、表情を歪めていた。


「それにしても、三笠を連れて行ったヤツは一体――」


悩む彼女の背後には、大きな黒い影が忍び寄る。その気配に彼女は気付いたのか、彼女の頬に、一筋の汗が流れ、思わず唾を飲み込んだ。


「あ、主人様。いつからこちらへ?確か、これから南極に向かわれると、聞いておりましたが――」


彼女は振り返り、平静を装う。けれども、その大きな影は、全てを見通しているかのように、冷ややかな眼差しで、彼女を見ていた。


「犬伏、貴様はいつもそうだ、目の前の利益に捉われ、最大のチャンスを逃した」


「も、申し訳――」


「謝るくらいなら、はじめからするな」


吐き捨てるかのように、彼女の言葉を遮るその大きな影は、玲と黒騎士をジッと見つめていた。


「まあ、いいさ。ケラケラと笑っているより、もっと面白いモノが見られたからな」


その意味を理解できない彼女は、不思議な表情を浮かべる。


「“時空を操る”――ね。“あの時”の話は、ホントの話だったとは――」


ケラケラと笑いだすその人物は、自身の左目に、手を添える。そこには「F」と刻まれた“眼帯”が、鈍い光を放っていた。

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