11,三代目
話し方だけじゃない――。
顔や雰囲気までもが黒坂に、よく似ている。彼に強気と感性を増した感じだ。
「何?」
鋭い目つきも、加えよう――。
「そ、そう言えば、貴女の名前は?」
彼女は少し考えてから「レイ」と口にした。
「王様の王に、命令の令で“玲”よ」
わざわざ漢字を教えてくれたのはいいが「名字は?」と言いたくなる。しかしながら、さっきの話から察するに、自身が黒坂和樹を悪人として話している手前、名乗れないのかもしれない。
そもそも、黒坂と彼女はどのような関係なのか?一番可能性が高いのは、年齢的に父親と娘が一番妥当か。さすがに、祖父と孫とは――。
「あ、そう言えば――」
黒坂コーポレーションの他に、黒坂について1つ知っていることがあった。それは『黒坂夫人』という存在だ。メディアで何度か特集されていた為、何度もテレビで見た記憶がある。
確か、『黒坂 政子』という人で、何でも著名人に対し、占いを行っており、それがよくあたるとか、仮にそれが“予知夢”の能力であれば、彼女が祖母というのも合点がいく。
となると、何か彼女が思わず反応するワードを言えばいい。例えば――。
「――三代目」
脳内で言った筈が、口が滑ってしまった。
「っ!」
彼女の表情は、先程よりも険しくなり、彼女の右手拳に力が入る。
「ドスン!」
「えっ?」
その音は、彼女の足元で発生した音だった。足は地面に食い込み、その衝撃で震度1程度ながら地面が揺れた。
「成程、全員がグルだった訳?」
「何の話を――」
「惚けるな!」
彼女の怒りの声は、衝撃波のような力が発生し、こちらに襲いかかる。その力は凄まじく、俺は思わず尻もちをついてしまう程だった。
「アンタが過去に来たのはデタラメで、アイツと私を戦わせる為、あの男にここへ誘導するように言われたのでしょ!?」
「アイツ?あの男?」
「しらばっくれるつもり?」
彼女は俺の胸ぐらを掴み、そのまま片手で俺を持ち上げてしまった。先程の脚力や声といい、普通じゃない。とにかく、彼女を落ち着かせないと、こちらの命が危うい。
「た、確かに貴女が、黒坂和樹と関係があるか、試したのは謝る。だけど、貴女を騙すようなつもりはなかった」
「嘘をつけ!過去のアンタが、何故私の名前だけを聞いてあの男と同じ“三代目”という言葉が出てくる!」
「それは君の話し方と雰囲気が、黒坂和樹によく似ていたことと、貴女の祖母が、彼の母親と同じで――」
彼女は、こちらの言い分を言い切る前に手を放した。
「すまない、そうだよね。そもそも、祖母の言葉は私が直接聞いた訳だし、あの男と関係がある訳がない」
「あの男って?」
「今のキャンプ地で、リーダーみたいなことをしている男さ。元々は神の1人だったが、他の連中と折り合いが悪く、人間側についた男」
「そして気に食わない?」
俺の言葉で「クス」と笑った。
「アンタ、頭がいい――。いや、父親と同じ気質なのかも」
「気質?」
「自身を優先するよりも、他人を優先するヤツは、相手が何を求めるのかを常に考えている節がある。私の父は読心術を習得するより前から、相手の気持ちを察する能力に長けていた。
幼少期の頃から大人の言葉に、どのような意図があるのかを考え、それに応えた結果、どのような人物からも、高く評価されたという」
「それが俺にもあると?」
「違うか?」
「そこまで立派なことはしていない。強いて言えば、後悔しない為の努力はしているつもりだ」
「後悔――か」
彼女は何かを思い出したのか、自身の右手の甲をジッと見つめる。
「それにしても、凄い力だった」
「私自身も、異能者だからな」
やっぱり。
「怪力――とは、ちょっと違う感じがしたけど――」
単に力が強いだけなら、声にまでその力が伝達するとは考えにくいからな。
「ああ、私の異能は、所謂“化身”というタイプに分類される」
「つまり、何かしらの生き物に近い能力者ということ?」
「そう言うことだ。ただし、そこら辺の動物じゃない」
だろうな。あれが普通の動物な訳がない。
「とはいえ、会ったばかりのアンタに言う義理もない」
「確かに――じゃあ代わりに、さっき言っていた“アイツ”って?」
「そうだ、こうしてはいられない!」
彼女は慌てて歩き出したので、俺も後に続いた。
「貴女の行動から察するに、アイツと貴女は会いたくない――と?」
「アイツは父親を殺した人物なのさ」
「っ!」
「父親だけじゃない、多くの仲間や人がアイツに殺された」
「でも、貴女も強いのでは?」
「いや、アイツは誰にも敵わない。何せ、アイツの異名は――」
――不敗の騎士。――なのだから。
「不敗の騎士?」
中世ヨーロッパでもないのに、何故騎士?
「それはやっぱり神様なのか?」
「いや、アイツは神じゃない。神じゃないから恐ろしいのさ」
「神じゃないから恐ろしいって――」
どういうこと?
◆
トオルと玲。早歩きで移動する2人を、遥か遠い場所から、2つの影が見ている。
「ようやく、あのゴリラ女が外に出てきた。これはまたとないチャ~~ンス」
妖艶な女性の声と共に、露出度の高い女が双眼鏡片手に呟いた。
「いい加減、オマエも終わりにしたいわよね?」
「――」
「チッ!相変わらず、言葉を発さない木偶の坊だこと」
もう1つの影は、彼女の蔑む言葉でも、動く気配はない。
「あの裏切りモノが残した産物の割には、よく働いてくれたけど、結局コレが何なのか――。“あの方”が調べても分からないモノ。さぞ大層な事実が、アンタの中に眠っているのでしょうね?」
「――」
「はいはい、応答しないのは結構。それよりも、ゴリラ女はともかく、あの隣の男は一体何者かしら?」
再び双眼鏡で覗き込む女。
「どこかで見た気も――いいえ気のせいね」
「ミ――」
「え?」
女は自分の耳を疑いつつも、声のする方向に視線を移す。
「ミ、カ、サ、ト、オ、ル」
「噓でしょ?」
今の今まで一言たりとも、言葉を発しなかったそれが、言葉を発する。それに酷く驚いた女だったが、それ以上に――。
「三笠 トオルですって?」
その人物の名に、手に持っていた双眼鏡を落としてしまった。
「何故このタイミングで?いや、それよりも一刻も早く“あの方”に報告を――」
女は慌てて携帯電話を取り出し、電話をかける。何度かのコール音の後、誰かが電話に出た。
「わたくしです。今――」
女が現状を説明しようとするが――。
「ケラケラケラケラ」
「え?何故それを?」
電話先の人物は、異様な言語で、女の言いたいことを話してしまう。
「どう対処致しますか?」
「ケラケラケラケラ」
「で、ですが!」
「ケラ?」
「い、いえ。そのようなつもりは――」
「ケラケラケラ」
「はい、畏まりました」
女の言葉を最後に、携帯電話が切れる。
「何を考えているのかしら、他の神々が恐れていた男を“静観しろ”ですって!」
女は左手の人差し指を噛み、もどかしい表情で2人を睨みつけた。
「――」
「ああ、そうか」
女は何か閃いたのか、自身の手を噛むのを辞め、ほくそ笑みながら、もう1つの影を眺めた。
「わたくしでなければ、お咎めなし。この正体不明な怪物を、処理する口実にもなる。まさに、一石二鳥」
「ククク」と笑う女は、2人の方角へ指を差し、自ら怪物と罵った影に――こう言った。
「殺れ」
◆
「神たちでさえ、その正体を知らない存在?」
玲の説明によれば、とある神が、どこかから発掘した産物で、人の形をしているものの、言葉を発せず、ただ主となった者からの破壊命令を、忠実に遂行する戦闘マシーン。なのだとか――。
また、それを持ち出した神は、現在消息不明の為、それが一体何のか、操っている神側も分かっていない。
「とても恐ろしい存在だということは、よく分かった。それでも貴女が避ける理由が分からない」
彼女は無言で足を止めた。
「貴女は紛れもなく強い。その上相手は、親や仲間の仇でもある。何故、戦わない?」
「アンタに何が分かる!」
彼女はこちらを振り返る。その瞳には、微かに涙が流れていた。
「アイツは!アイツには!力だけでは勝てない。お母さんが――まったく――」
涙を流していた表情が一変。彼女の視線が、俺の背後を見てから、絶句する表情を浮かべていた。
「一体、何が――」
ゆっくりと彼女の視線を追い、背後を振り返る。そこには――
――“黒い騎士”が立っていた。
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