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6Ⅰ9~3人の使者~  作者: 笹丸一騎
0章「序幕と終焉」
1/37

1,盗まれたモノ

来たるべき時が来たからか、それとも偶然と偶然が重なった事柄なのか。結果がどちらにせよ、それは起きた。いや、起きてしまった。


それは紛れもなく「窃盗事件」と呼称出来る内容なのだが、被害者側は公的機関。つまり、警察を呼ぶ訳でもなく、世間にその事実を公開する訳でもない。


しかしながら、盗まれた代物は極めて重要かつ、貴重な品だと内部情報から読み取れた。では何故、被害者側は平静を装うのか?


事を察するに、事前に予見できた。且つ、世間には公開する事が憚られるモノだったのではないのだろうか。だとすれば、それは一体何なのか?


私はそこに、メスを入れるまでには至らなかった。それは何故か。関心がなかった訳ではない。寧ろ、それを暴く為、私は存在している。


だがしかし、それには大きな壁がある。それは、


――神に叛逆する最強の“異端者共”がいるからだ。


まだ、奴等に私の存在を知られる訳にはいかない。そう待つしかない。“あの方”が現れるまではーー。


報告書03「消えた代物について」

終末を望む者より 


二○××年 10月4日 東京都西多摩郡


黒いボディーに銀色の装飾が光る外車が、東京の郊外にあるとある施設に停車する。暫くすると、後部座席の左から黒髪で長髪の若い女性が車から降りる。


同じく後部座席の右からは黒髪で短髪の若い男性が降りてきた。どちらも共通していえる事は、黒いスーツに赤いネクタイを身につけ、目的地であろうその施設を静観している事である。


「たく、あれだけ威勢の良い事を言い、この有様とは」


一見、病院のような白塗り建ての建物を前に、女性は腕を組み、溜息を一つ付く。落胆する声とは裏腹に、彼女の鈍い光を放つ紅い瞳には怒りが滲み出ていた。


「いや、あの人でさえ守れなかったのだから、誰がやっても結果は同じだった――かも」


一方で、全てを達観したような口振りをしつつ、途中で彼女の怒りを察し苦笑する男性は、彼女の真横に移動する。


「あの男の肩を持つ訳?」


女性の視線が男性へと向けられた途端、空気が張り詰める。しかし、彼が一呼吸を置いた後、「まさか、贔屓にする程あの人との交友は深くない。聞いた話と、あの人の能力から回答しただけだよ」と返答し、空気も和らいだ。


その返答が満足に値したのか彼女は「ならいい」と、笑みを浮かべる。その笑みを見た男性は、自身が試されていた事に気付き、安堵の表情を浮かべるのであった。



2人は建物へと侵入し、真っすぐに目的地である地下室へと足を進める。その道中には、重々しい扉が1つ、2つ、3つと続く。


3つ目の扉の先には、部屋中央にポツリと自販機程度の大きさである金庫が1つ。そして、金庫の手前に赤髪の男が1人。2人に背を向けた状態で黒い椅子に座っていた。


「言いたい事はわかる」


2人の気配を察したのか、赤髪の男は唐突に言葉を発し、座った椅子を横に回転させ、2人の正面に体をゆっくりと向ける。


座っている男の見た目は、20代とも40代とも見られる年齢不詳な顔立ちで、自身の失態を省みず、別の事を考えているのか、自分の髪を弄りながら、ジッと何もない天井を見上げていた。


その様子に女性の表情は険しくなり、後ろに控えていた男性は頭を抱える。


「私にはそうは見えないのだけど」


「三代目、君はまだ若い。若いが故に目先の事しか考えられていない。だから君のち――」


彼の言葉は「バァーーン!」という壁に穴が開いた音で遮られてしまった。その音の要因は、三代目と呼ばれた彼女の右手にある。


華奢な体格なのに突き出された拳は、見事に地下の部屋の壁を貫通し、壊れた壁の地面には壁の残骸が無残にも積みあがっていた。


「それ以上の事を言ったら、貴様との同盟は反故にさせてもらう」


「――」


怒りを露にする黒髪の女性と、無言を貫く赤髪の男性。両者の視線は互いに交わり、緊張のみならず、周囲に圧力のようなモノが加わっているのか、小物の類がカタカタと物音を奏でだす。


「はい、終わり」


だが、その爆発寸前の状況下は、若い男性によって唐突に終焉を迎える。2人の間に入り、手を3度叩き、2人の顔を交互に見る。


すると、何故か赤髪の男性は急に考えを改めたのか「すまない、口が過ぎたようだ」と謝罪し、女性も「わかればいい」と気まずそうに返答した。


2人の争いを回避した男性は「やれやれ」と安堵の表情を浮かべるのであった。



「で?結局のところ相手に心あたりは?」


女性は空になった金庫の中を覗き、赤髪に容疑者について問いかける。


「残念ながら、心当たりはない。何故なら、相手の能力に問題がある」


「問題ですか?」


「ああ、そうだ」


赤髪の男は自身の髪をクルクルと弄りだす。


「ここに居る我々3名は、それぞれ国家を潰す事が可能な能力を有している。しかしそれはあくまでも、一部の影響下でしかない」


「「?」」


「モノを壊す。モノを操る。モノを支配する。それは例外を除き、視覚の範囲でしか効力を発揮しない。しかし、その相手はその範疇を優に超える能力だと言う事だ」


「嘘?いや、そんなまさか」


長髪の女性は、赤髪の言葉で何かを察し、口元を抑えた。


「すみません、私にはさっぱり」


「いいか、キシン。俺は神と呼ばれた集団から追放された身だ。その俺が断言する。神にも支配する事ができないモノがある。その一つが“時間”だ」


「時間?」


「時間が影響する範囲は目の前の存在だけではない。この国、世界、地球。いや、この宇宙全てに影響を与える。異能というたかが人間の器に、そんな膨大なモノを制御する事は実質不可能だ」


「つまり、相手は人ではない?」


「神でもない、そうよね?堕落者」


赤髪の男は、堕落者という単語に不服そうな表情でありながらも頷いた。


「しかし、俺が対峙した者は、確かに人の形をしていた」


「だから問題――か。でも、仮に人間でない事と、今回強奪された代物と何か関係するのですか?」


「君はこの金庫に何が入っていたか覚えている?」


「確か、“木の苗”だよね?」


「そう、でもただの木の苗じゃない。だからこそ、東京の奥地。且つ、こんな厳重に保管していた理由だからね」


「それは一体?」


「私にも分からない」


「え?」


「いや、厳密に言えば、“ホントにそうか”分からないと言うべきかしら」


女性は、数時間前まであったであろう木の苗の場所をジッと見つめる。


「ただ此処にあった苗は、元々イギリスの地下に眠っていたと伝わっているわ。だけど、誰かが勝手に持ち出した事により、その苗を探し求める人間は後を絶たなかった」


「人間がそれを求める理由として、その苗を所有した者は不老不死になれるだの、絶大な権力を持つ事ができるだの、莫大な富を得られるだの――。つまり、“何でも願いが叶う”という逸話があったからだ」


「それってまるで――“聖杯”――でも」


「そうよね?聖杯は輝く黄金から出来ていて、形状は盃の形をしている。決して土にまみれた苗なんかではない。うん、私も君と同意見」


若い男性の考えを代弁するかのように彼女は、クスクスと笑いながら話す。「でも」と口にした途端、彼女の笑みは失せ――。


「それって誰が決めたのかしら?」


「っ!」


「そう、聖杯という呼称により、あたかもそれは「盃」であり、聖なるモノだろうから煌びやかで――と、人間が勝手に想像した産物だ。実際に、本当の聖杯を見た訳ではない」


「つまり――」


「そうよ、私は――いや、私たちはその苗を“聖杯”だと思っていて、それを今回、盗まれたって訳」


状況の重大さにようやく気付いた若い男性の表情は、安堵の表情ではなく、驚愕と絶望が混じった表情を浮かべていた。

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