異世界に転生・転移をしないで美少女にモテモテになったニートの話
「ババァ!飯!飯!・・・」
そうか、ババァは俺を見捨てて施設に入ったのだっけ。
腹減った。コンビニに行くか・・
「よいしょっと」
コンビニまで500メートルもある。
歩くのはおっくうだ。息を吸うのも吐くのもおっくうだ。
金は・・・お、振り込まれている。ババァは食費だけは入れてくれる。
俺は二山琢郎・・・少し働かない期間が多いだけだ。ネット小説を書いている。
コンビニから帰っていると・・・
「あの、琢郎さんですか?」
「君は誰?」
「はい、ボランティアでお母様から話を聞きました・・・」
高校生くらいの女子に話しかけられた。白いワンピースを着ている・・・黒髪は肩まで清楚系の美少女だ。
「私は笹山良子です。実は昭和の民家に興味があって、お母様から見させてもらう許可を受けました。良いですか?」
「まあ、いいけど・・・」
「はい、お願いします」
何故か許可した。外だけだろう。
「キャア、すごい。まるで、アニメのサザエ様みたい」
「ああ、古いだけだよ」
「じゃあ、入りますね」
「ちょっと!」
半ば強引に入った。
「あ~、コンビニ弁当ですね!栄養バランス悪いぞ。琢郎さん・・」
「別に良いだろ!」
「ウフ、今度、お食事作りに行きますね」
まさかな。こんな展開、ネット小説ぐらいだ。
と思ったが。
それから彼女は時々食事を作りに本当に来た。
「はい、唐揚げマヨネーズ丼です!」
「ああ」
「ウフフフ、今日はスーパーで安かったからアメリカ産の赤身肉のステーキです」
「これ、一キロはある・・・・」
「じゃあ、食べたら食器は流しに入れておいてね・・・残したら寂しいかも、あっ、やっぱり琢郎さんが食べるところ見たい。いいですか?」
彼女は食べない。俺が完食するまで見てくれている。
ジィと見られて恥ずかしい。
彼女は何が目的だ。財産か?
偶然、彼女が近所の人と話しているのを聞いた。
「まあ、若いのに、ボランティアの方?あまり、行かない方がいいわ。襲われるかもよ。あの家の息子さん。気味悪いでしょう。一体体重何キロあるのかしらね」
「まあ、おば様、人を外見で差別するのはいけない事です。私・・・琢郎さんのありのままの姿、素敵だと思っています!琢郎さんは繊細な方です!」
「ええー!」
近所のババァに啖呵を切ってくれた。正直、嬉しい。
もしかして、俺の事が・・・好きなのか?まさか。
彼女の身の上の話を聞いた。
「実は、父親は乱暴者で・・・優しい年上の方が好きなのです」
「そうか・・・」
これ以上は聞けない。俺が好きなのか?それを聞いたらこの関係が崩れるかもしれない。
「フフフ、今日はピザが手に入りましたわ。特売日でしたの。トッピングもしましたの。コーラも二リットルを用意しましたわ」
「有難う・・・」
それから、俺は自分の事を話した。
「実はネット小説を投稿している。〇〇〇〇みたいな名作を目指している。作家になるんだ・・・作品を読んでくれないか?」
「まあ、素敵・・・でも、時間があまりないの。家に帰ったら、読むからIDを教えてね」
彼女なら分かってくれるかも。人と話すのは何十年ぶりか?
ピンポ~ン!
人が訪れた。見回り隊か?
彼女と話して慣れた。大丈夫だろう。
ガラと開けたら、・・・こいつ何者だ。男二人だ。市役所の奴か?
「こんんちは、二山さん・・・ウゥ、臭い。失礼・・顔にできものが出来ていますよ。顔色が悪い。市の健康診断受けてます?」
「主任、言い過ぎですよ!」
「何しに来た!」
「あの、固定資産税滞っていますよね・・・まあ、孤独死をしていないかお母様から依頼を受けて見に来ました」
「いっその事、払えないのなら売っては如何ですか?お母様を説得して下さい。この家と土地が最後の財産ですよね。相続するも相続税がかかりますし、貴方が亡くなったら、他に相続する者がいないので国庫に帰属する事になりますよ」
売るものか。良子はこの家を気に入っている。
「断る!」
「まあ、お母様が亡くなったら年金も支給されなくなりますよ」
「だから・・・考えがある」
小説家にデビューとか何故か言えなかった。
「じゃあ、どうするのですか?」
「俺は、守りたい人が出来たのだ!」
「分かりました。何かあったら早めに対処して下さいね」
・・・・・・・
俺は就職活動をした。どこも色よい返事はもらえない。
「え、職歴無しの56歳・・・うちじゃ無理かな」
「あのね。パチンコ玉のドル箱を運ぶのだよ。それに、その体ではお客様の間を通れないよ」
どこも断られた。
最後の手段、ニート更生人と噂の西園寺グループを頼ろう。
俺はニートではないが・・・ニートに職の世話をしていると聞いている。
スーツは何年ぶりか?
着られない。
上だけジェケットを羽織って、相談に行った。
☆☆☆西園寺商事
対応してくれたのは、20代後半の女だ。セミロング、黒のストッキングが目につく。
そう言えば、良子は生足だったが、これも魅力だ。
「ゴホン!用件は分かりましたわ・・・でも、難しいですわ。当たってみます。期待なさらないでね」
「お願いします!」
紹介されたのは、新聞店だ。
老夫婦が経営していた。配達員も皆、高齢者だ。
「フ~ン、配達は無理だな・・・そうだ。フルパートはキツいだろ。始めは『紙取』からやってもらおう」
「そうね。朝一番に起きるのは辛いわね・・・頼んでも良いかしら」
「有難い!」
すっかり、夜型だった。
朝の三時に起き。早めに新聞店に向かう。4時から勤務だ。
キキー!
トラックが店の前で止り。運転手が店の前に新聞の束を投げる。
「ハイよー!これが現品表だよ」
「はい」
新聞の束を数え。良かったらそのままだ。
俺は新聞の束を店に入れ。
言われた通りチラシを入れる。
20~30分後に、配達員達がきた。
「まあ、初めてだからな」
チラシを入れるのが遅かったようだ。
6時には終わり家に帰る。もう7時だ。
これが初労働か・・・俺、どうして働かなかったのだろう。
☆回想
『二山君、働かないの?』
『ああ、スゲーよ。俺にすら、就職の案内が段ボールで来た。今、学校を卒業してすぐに就職するのは馬鹿だよ。充電期間が必要だ』
・・・・・
あれから・・・何十年か。まあ、いい。今日は良子が来る日だ。
俺は良子にバイトを始めた事を話した
「え、琢郎さん。働いたの?私・・・前の琢郎さんが好きだったのに・・いえ、ライクよ。家族の意味」
「ライク、嬉しい。これから、働いて・・・その本当の家族にならないか?養子縁組でもいいよ」
「・・・それは、いいわ。今のままの関係がいいの。あ、そうだ。ネット小説を見たわ。
『異世界に転生した俺、美女に追いかけられるのだが、美醜逆転の世界だった』
『陰キャだと思われていた俺、実は有名クラブのイケメン黒服だった!クラスで俺を馬鹿にするギャルは俺の正体を知らないで、クラブで迫ってくるのだが』
これ、素敵だわ!ネット小説一本にしなさいよ!」
彼女は本気だ。俺の財産が目的だったら、養子縁組を狙うはずだ。
俺の事を本気で好きになってくれているのだ。
「俺、小説も仕事も頑張るよ」
「・・・でも」
彼女は浮かない顔だ。
それから、俺は頑張った。新聞店では徐々に仕事を任せてくれるようになった。
「琢郎君、お茶でも飲まないか?次はチラシをまとめる機械の操作を教えてあげよう」
「はい、お願いします!」
体重も100キロ台になった・・・
俺、頑張る。
・・・・・
☆☆☆西園寺不動産
私、西園寺君子。この前、訪れたニートに想いをよせる。
「ねえ。京子ちゃん。あのニート、評判良いみたいだわ」
「はい、新聞店から真面目と評価されましたね」
良いことなのかもしれない。
ニートは一筋縄ではいかないが・・・経験が警告を鳴らす。
探ってみるかと思ったが、すぐに情報が入った。
見回り隊の方から話を聞いた。
「珍しいよ。新田地区に女子高生ぐらいの子がウロウロしている。ほら、あの二山さんの息子とスーパーに買い物に行っている姿が目撃されている」
「そう、確か、あのニートは兄弟姉妹もいないから姪でもないし・・もしかして、地面師!そんな馬鹿な・・」
地面師、不動産の所有者になりすまして、不動産を売り。金だけもらって逃げる犯罪だわ。
電子化になり、それも無くなるであろうと思われたが・・・2017年に
有名な不動産会社を相手取り数十億円を詐取した事件があった。
だが、業界人として同情できない面もある。何回か、会社宛に所有者本人ではないとの通知が来たからだ。
偽者の偽造したパスポートと印鑑証明を担当者は盲信したのだ。
登記所から連絡が来た時点で取引を中止し警察に連絡をするべきだったのよね。
これかしら。
「京子ちゃん。直接会いに行きましょう」
「はい、車出します」
車で二山さんの家の近くに行く。
二人で歩いている所を見かけた。買い物籠に・・・カロリー多めの食材が見え隠れする・・・・業務用スーパーに行ったのね。
これは・・・もしかして、地面師ではない。同じくクラッシックな詐欺、いえ、詐欺の立件が出来ないものだ。
2時間ほど待ち。
女子だけ出てきた。高校生かしら。
確か、一族でやっている者がいると聞く・・・もしかして、笹山一族!
「京子ちゃん。車、あの子の前で止って」
「はい!」
キキーと止って
「キャアー!何をさらすんじゃ、ワレェ!」
清楚な外見に似つかわしくない言葉使いで罵倒された。これが本性ね。
私は車を降り。尋ねたわ。
「貴方、笹山一族、そう、民法の特別縁故を狙っているのね・・民法958条の3ですね」
「そうよ、特別縁故者に対する財産分与!それを狙って何が悪い?違法?逮捕できるの?」
「貴方は事実上の養子に見せかける・・・だから、ご近所さんでも仲良しアピールをしたのね!」
この制度は、永年、旦那に尽くした籍のない内縁の妻、弟子として師匠が亡くなるまで世話をした者、法律上は相続権がないが、実質家族として被相続人に奉仕をしていた者を対象に財産を分ける制度だ。
法定相続人がいない時に、一定の公告を経れば、縁故者に財産が分与される仕組みだ。
「しかし、バレちゃ。おしめえだ。せっかく良いニートの情報が入ったのに、お前が働く事を進めたから健康になったじゃねえかよ?」
「フ、バラすわ。でも、カロリーの高めのお食事を作ったり。お母様が亡くなることを待つとは・・・まさか、ボランティアでお母様の病状も知っていたの?」
「あたぼうよ!でも、ここまでだ。他のニートを探すぜ!」
その時。バンがバックしながら、やってきた。彼女の家族のようだ。
キキー!
「良子!乗りなさい。ダメなら、即時撤退よ!まだ、親の財産だけはあるニートは腐るほどいるわ」
「分かったわ。父ちゃん。母ちゃん!」
彼女は去った。
二度とこの家に来ることはないだろう。
その後、お祖父様から聞いた。
「笹山一族いたのか。昭和の時代でも、どこからか、法定相続人のいない一人暮らしの老人を探して、親切に世話を焼く婦人が現れたものだ・・・気の長い話だが、確実で合法的に財産を取れる。見回り隊に知らせておくか」
「はい、お祖父様」
気になったので、この地区を調べた。
「え、あの近くにイオラン出店計画あり、市が要望している段階・・・」
気になるわね。あのニート、いえ、琢郎の家に訪問しよう。
彼は働いていた。
「西園寺さん。有難うございます。何とか原付の免許を取り。配達まで任されるようになりました・・母にも会い和解しました。いえ。これから償いですね。もう、長くないみたいです。グスン」
「そう・・・あの、この家と土地、弊社に売って頂けませんか?」
「今は母のものです。母に相談を、しかし・・・良子はこの家を気に入っていました。この家を、昭和の古民家みたいに活用できないか考えています」
「良子・・・さん。帰って来ないの?」
「はい、きっと、問題が解決したのでしょう。俺みたいに・・・」
「では、母の見舞いに行きますので失礼します」
私は諦めて帰った。
彼は既にニートではない。
ニートがらみの物件が得意の私にとっては得意分野ではなくなったのだから、放置が良いだろう。
・・・・・・・
西園寺君子は、負けていないが、勝ってもいない不思議な感情に包まれた。
形上は、笹山良子が彼の更生の動機になったからだ。
本人はそう思っていないが、ニート更生人と二つ名のある西園寺君子は、無意識にお株を奪われたと感じたからかもしれない。
最後までお読み頂き有難うございました。