夢の中に落ちる時計ウサギ
私は、腰に下げた懐中時計の時間を確認しては、走っていた。どこまでもどこまでも。出口の見えない森の中は不思議と光が差して、暗くは無い。しかし、一際明るい光が差して、私は眩しさに目を細めた。いつの間にか、森を抜けていた。時計は、ゆっくりと動き出して、それは、朝を告げていた。
* * *
「まーいー? 起きなくていいの? 起きない眠り姫にキスするよ?」
「!」
私は慌てて、目を覚ます。いつものスマホの目覚ましが今日は『アリスの少女と時計ウサギ』が流れている。その歌を口遊むと嘉くんは私の顔を覗き込んで朝の挨拶をしてくれた。
「おはよう、うなされていたけれど、怖い夢でも見た?」
私は小さく首を振る。前に津波に飲まれる夢を見たと言ってから、心配して起こしてくれる。でも、今回は違う。きっと、目覚ましがこの曲だったので、見てしまったのだろう。
「疲れた」
「夢の中で走ってた?」
「うん、森の中を走り続けていた」
「ああ、学校に遅刻する夢と一緒のタイプか」
あれも、何故か学校に辿り着けないのよね。夢ってすごく理不尽だ。
「目覚ましかけたって事は、散歩行くんでしょ?」
「うん」
「でもさ、起こして悪いんだけど、外雨だよ?」
「え」
「だから、もう少しだけ、ゆっくりしようか」
そう言った、嘉くんも今日はジョギングをお休みする様だ。これから、梅雨入りしちゃうと散歩する機会が減りそうだ。流石に、雨の中は歩きたくはない。それと、私は、嘉くんの腕の温もりに、勝てなかった。
2025/06/10 活動報告掲載




