誕生日プレゼントを選ぶお話
スマホのショッピングサイトを眺めているが、どれもピンとこない。元々、プレゼントを贈るのは苦手にしていた。優柔不断で、迷ってしまう。絵美や莉子さんに相談してみたが、良い案は貰えなかった。
初めての誕生日には、マフラー、初めてだったし、それほど高いものではない、初めてなのに、高いものを贈っても困らせるだけなのかもしれないと思ったからだ。嘉隆くんからは、熊野筆の化粧筆で古川くんからはクッキー缶だった。二人も同じ様に気遣ってくれたのかもしれない。
二年目の誕生日は、色違いのヘッドフォン、もちろん、お互いのイメージカラーをチョイスした。自分用のは、紫はなかったので、実は二人の色が合わさった、青と赤の二色カラーのヘッドフォンを選んだ。嘉隆くんからは、三日月の間にブルートパーズが挟まった指輪、下弦の月って、言ってた。古川くんからは嘉隆くんのと対になった星と私色のアメシストのネックレスだった。杏からもその時、彼女の手作りのピアスをもらった、右耳用の二つのピアス穴を結んだ逆さ虹のチェーンが青と赤のピアスに挟まれて、きらきらしているのが可愛い。左耳用はシンプルな紫のピアスだ。
そして、問題は今年だ。一年に一度、今年で三回目なのに、なんでこんなに悩んでいるんだろうと思う。世の中の人たちは誕生日にプラスして、クリスマスやバレンタインデーもあるので、純粋に尊敬する。
気分転換に外に出て見ようかなと思った。十一月になると、随分と涼しくなった。秋色のセーターにベージュ系のチェックのスカート、その上に薄手の黒の上着を一枚羽織った。頭には、ベロア生地で同色系のキャスケット帽子。レーゲンボーゲンの二人は今日は仕事だって言っていたので、終わる時間までは、私も身動きが取れる。戸締りをして外に出ようとするタイミングで着信があった。
「え、美月さん?」
杉田美月さん、珍しい人からの電話だった。二十年以上、付き合いがある私専属のスタイリストさんだ。仕事以外で電話を掛けてくるなんて、本当に珍しかった。莉子さんを挟んだ三人なら、月に一度ぐらいの割合で飲みには行くぐらいの間柄で、仲は良いのだが、基本、私は引きこもりな人なので、それを知っている彼女からは誘われる事はなかったのだ。美月さんは、莉子さんと同期で、二人は仲が良い。
「麻衣ちゃん、今日、お出掛けとかする予定だった?」
「えっと、はい。でも、なんで?」
「莉子から、連絡もらった。莉子、今日はちょっと忙しくて、なんか、麻衣ちゃんの相談断ったって言ってたから。それで、私に連絡が来たの。誕生日プレゼントの相談とそれから、冬物選んであげてって言われた」
「そうだったんですね、嬉しいな」
「そう思ってくれる? だったら私も嬉しいな。麻衣ちゃん、プライベートでも普通に可愛い格好する様になったでしょ、莉子がね、その事で良かったら、私に服見繕ってあげてってね。これでも、私は麻衣ちゃんの専属スタイリストでしょ? 本当は、もっと早く言ってくれれば良かったのに」
「なんか、ごめんなさい」
「そんな事ない、嬉しいんだから、麻衣ちゃんとデート出来るなんてね。待ち合わせどこにする? 時間も教えてね」
美月さんと突然のデートが決まってしまった。それと、今になって知った事実、美月さんの最寄り駅は、うちの二駅隣りでした。まぁ、事務所に通いやすい物件を探すよね。十一時にうちの最寄り駅で待ち合わせする事になりました。
「お、可愛いね、これって、莉子が選んだの?」
「はい、先週に。急に気温が低くなって、活躍の場が早々に出てきちゃいまいした」
「でも、それで寒くないのね」
「平気ですよ」
先ずは、誕生日プレゼントを選ぶ事にした。優先度の高いものを最初に終わらせておきたい、って言ったら、どっちも優先事項じゃないの、って返された。でも、私の事よりも贈り物の方が優先順位高いと思います。
ちなみに、レーゲンボーゲンの二人と誕生日プレゼントを贈りあっているのは、事務所の人たちは知っているし、私と嘉隆くんが付き合い始めたのは、美月さんも知っています。
「マフラーにヘッドフォンって、本当に実用的なものばかりね」
「その方が使ってもらえるかなって。なので、今回も実用的なものがいいな」
「サイズのあるものはやめた方が良いわね。アクセサリーは、プライベートで付けているイメージないよね」
「そうだね、あんまり、付けているところ見たことないかも」
「結構、困るわね。元旦那には何か贈った事あるの?」
何かあったかな、その場で欲しいって言われたもの選んだ様な気がする。帽子、ブレスレット、ピアス、それも高価なものではない、その辺の雑貨屋さんで売っている様なものばかりだ。その事を言うと「可愛いわね」と返された。子供の恋愛ごっこをしている感じで、選ぶものも少しだけ幼い。若かったんです。お給料考えるとすごく助かっていました。
「帽子は良いかもね、帽子とか鞄売っているお店に行ってみましょうか。ブレスレットやピアスは付けないなら、今回はパスかな」
「でも、嘉隆くんは帽子被るけど、古川くんはあんまり被らないかも」
「ちょっと、待って。麻衣ちゃん、浅生くんの誕生日プレゼント買うのよね?」
「そうですけど」
「何故、それで、古川くんも?」
「古川くんの誕生日にも同じものしちゃおうと思ってるから。面倒だから纏めて買っちゃおうかなって思って」
「それ、莉子が言ってたの思い出したわ。麻衣ちゃん、豪快だね」
「みんな、そう言う」
合理的なんです。一月に外にはなるべくだったら出たくはない、それほど、寒いわけじゃないんだけど、家にいる方が良いに決まっている、なるべくなら、冬眠したいって言ったら笑われた。
「帽子って難しくないですか? だって、いつも被っているデザインならきっと持っているだろうし、普段被らないデザインなら、冒険する事になりますよね」
「確かにそうね、麻衣ちゃんが似合いそうなのを選ぶのも、難易度高いんでしょう?」
「おっしゃる通りで」
革細工と帽子をメインに扱っているというお店にやって来た。コンセプトが大人をターゲットにしたためなのか、若い子は少ない。お値段も少し高めだ。二人に鞄は違うかな。それは、流石に自分で選んで欲しい。というか、これ目移りしちゃうやつだ。困ったな。
「ね、麻衣ちゃん。お財布とかどうなの?」
「持っていると思うけど」
「いや、そりゃあ、誰だって持っているでしょう。そうじゃなくて、買い替えにと、まではいかなくても、複数あっても困らないんじゃない? 贈って邪魔になるものでもないし」
「かっこいいね」
「これなら、男性に贈っても問題ないデザインじゃないかな。シンプルだし、革って使っていくうちに馴染むものだから」
「うん、良いかも。革染って結構、色あるんだね」
「そこは、もう迷う必要ないんじゃないの」
まぁ、確かに。選ぶのはやっぱり、三人のイメージカラーに決まりだよね。イメージカラーがあって本当に良かった。折角なんだからと、私が普段使う様の鞄も買いました。その後は、冬物を何着かと、ヒールの無いショートブーツと荷物が結構多くなって、誕生日プレゼントに選んだのが財布で良かったと思いました。
2024/11/15 活動報告掲載