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終わらない卒業論文と猫被りな人たちのお話



 デビュー直後に一つ、大きな問題があった。と言っても、嘉隆(よしたか)は蚊帳の外で、遥と彼らのサポートメンバーの、(たすく)荘太郎(そうたろう)(あきら)の話だった。遥は、デビューが決まらなければ、大学院に進む予定でいた。サポートメンバーも大学でそれぞれ、仕事に就くはずだった。


 しかし、三年生の秋にデビューの話が本決まりになった。就職の話はなくなったが、卒業に必要な論文は提出しないと卒業にはならなかった。その大詰めは、シンガーとしての仕事と重なり、かなり忙しかった。デビューは一月を予定していたが、それが三月にずれ込んだ。デビュー後、四年生にあがって、卒業論文を書かなければならない状況に、事務所まで巻き込んで大騒ぎになったのだ。



「卒業論文ってどんなの書くの?」



 打ち合わせの時刻はすっかり過ぎている。会議室に広げられた論文の資料はもはや、どれが誰のかわからない状況だ。一人、窓際に陣取っていた嘉隆はふと気になって遥に声を掛けた。遥は捲っていた資料から視線を離すと、嘉隆に視線を向ける。



「人にもよるな。俺の専攻は地質学なんで、それに基づいた食文化についてかな」

「地質と食文化って関係あるの?」

「なんでも、食文化に限らず、関係あるぞ。そこに住む人がいて、食文化が生まれ、今に繋がっている」



 サポートメンバーもそれぞれ、自分が気になったものについて、論文を纏めていると言う。高校を卒業した嘉隆にはよく分かっていないが、広げられた資料から、大変さは伝わって来た。

 遥の卒論テーマは『東京と地方の食文化』で決まった。一応、日本全国を纏めるには、時間もないので、嘉隆の地元の広島とその場にいた愛夢の地元の宮城、それと東京の食文化を纏める事で落ち着いた。サポートメンバーも東京なので、参考にならない。



「俺、文章を書くだけなら嫌いじゃないんだけどな」

「嘉、作詞得意だもんな」

「文章書くのも好きだよ、本、読むのも嫌いじゃないし」

「嘉って本読むっけ」

「読書感想文とか得意だったよ?」

「ほんと?」

「校内のだけど、入賞したぐらいには」

「宮沢賢治とか?」

「銀河鉄道の夜とかかな」

「ああ、それで、あんな歌詞思いつくのか、すげぇな、文系」



 理数系の遥と違って、嘉隆はどちらかと言うと、文系だ。高校の読書感想文は、校内で入賞すると、食券が貰えると言う事で、やる気が出て、書いたのだが、その事を言うと、「嘉らしい」と笑われた。



「おはようございまぁす、うお、なにこれ。前も思ってたんだけど、なんで、ここで勉強してるの」

「おはよ、愛夢(あいむ)。卒論だってさ」

「ふぅん、でも、これじゃあ、あたしの打ち合わせ遅れるね」

「じゃあ、コーヒー淹れるよ」



 入って来たのは、レーゲンボーゲンの二つ下だが、彼らよりも一年早くデビューしてアイドル活動をしている、佐藤愛夢だった。会議室のテーブルに広げられた資料を見て、呟く。

 愛夢は嘉隆と一緒で高校は卒業したが大学に行っていない。嘉隆は広島の愛夢は宮城の公立高校の出身だ。嘉隆は自分もコーヒーを飲みたいのと、一人で暇なので、コーヒーを淹れる事にした。



「えっと、ありがと?」

「ん、珍しい事あるって思ってるでしょ」

「うん」

「素直過ぎ」



 淹れてくれはしたが、その後は、嘉隆のままだった、注ぐのは自分でと言うとさっさと自分の分だけ淹れて終わりだった。「自分で好きなだけ、淹れんしゃい」地元の言葉でそう言って、コーヒーポットをテーブルに置く。



浅生(あそう)さん、優しいのかそうじゃないのか、分からないね」

「俺が飲みたいが、最優先だね」

「ぶれない、浅生さんのそのギャップ、すごいよね」

「君もでしょ」



 アイドルの見た目で、仕事での彼女は可愛い路線を貫いている。しゃべり方も可愛いし、仕事以外とのギャップに初めて会った時は驚いた。そして、愛夢の方も、同じだった。嘉隆は爽やかに笑う顔の整ったイケメンで、一人称は『僕』で、誰にでも優しく接する、それなのに、事務所での彼の姿を知って驚いた。


 結局、打ち合わせは、愛夢の方が先になった。分かっていた事だが、卒論は今日中には終わらなかった。キリの良いところまで、終わらせて、遅くなったが、打ち合わせは無事に終わった。


 無事に、四人は大学を卒業して、仕事に力を入れる事が出来たのだった。



2024/11/03 活動報告掲載

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