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嘉隆くんと愛夢ちゃん



 嘉隆(よしたか)愛夢(あいむ)が事務所で初めて、会った時の第一印象はお互い、何かを察したのか、『何か違う』だった。人当たりも良く、丁寧で、優しい笑顔を振り撒いてくれる美形、のはずなのに、どこか違和感があった。

 それが、事務所で会う度に、その夢のカケラがぽろぽろと崩れ始めた。一度、崩れ始めると、そのカケラを拾い集める事など出来ない。焦がれる様な夢を見ていたわけでは無い、もしも、嘉隆の、愛夢のファンがそれを知ったら、どう思うだろうか。それくらい、仕事とプライベートの態度が違っていたのだ。そして、お互い、同時に呟いた。



「「猫被ってる」」



 その呟きを拾った、遙はその場で大爆笑。周りも気付いていた様だ。嘉隆は爽やかで、人当たりが良く、優しいイケメン、愛夢は、癒し系でおっとりした印象の可愛いアイドルだったはずだ。

 それが、事務所では、違った。嘉隆は興味のある事以外は無関心で何を考えているのか分からない、愛夢は自分の言いたい事ははっきり言うし、どちらかと言うと夢見がちな嘉隆と違って現実的だった。次に思ったのは、お互い「合わないな」だった。



「愛夢ちゃん、やっと気付いたか」

「古川さん、良く付き合っていられますね」

「悪い奴じゃないよ。それに、何を考えてるのか、少しは分かる様になった」

「え、古川さん、すごい。あんなに、表情が無なのに」

「無って、面白い表現だな。もう少し慣れれば笑うよ」

「慣れるって、動物ですか」



 その一言に、側で話を聞いていた、他のメンバーからも笑いが起こる。ライブハウスで一緒に活動していたので、愛夢よりは少し付き合いが長い。その分、意見の食い違いも合ったが、それでも面白い事があれば、笑い合う仲でもあった。



「ツンデレな猫か人見知りするわんこ、みたいな感じだな」

「そう見えますね。あたしには懐いてくれなさそうって言うのは良く分かりました」

「大丈夫、そのうち慣れるよ。俺たちがいるしね」



 そして、愛夢は気付くのだった。きっと、嘉隆の素の姿を見ると、二人の性格ははっきりしていて、きっとオフでモテるのは、嘉隆ではなく遥の方だろう。気遣いが出来て、困っている人には進んで手を差し伸べる事が出来る。嘉隆は仕事では優しいが、素の時はそれほど、優しいわけでは無い。

 嘉隆は今日は、会議室の窓際を陣取って、ヘッドフォンをして、音楽を聴きながら、何かを書き留めている。歌詞を纏めているところだろう。先日、発表された『夢のカタチ』は嘉隆の作詞で、かなりの売り上げを記録した。



「愛夢、チョコ食べる?」

「中山さん、休憩していて良いんですか?」



 荘太郎(そうたろう)(たすく)(あきら)の三人は今日はこれから、スタジオで音合わせをすると言う。打ち合わせ中のおやつにしていたチョコレートが余っていた様で、愛夢を手招きした。



「これから、移動だから。はい、あーん」

「ありがとうございます」



 愛夢が口を開くと、チョコレートが放り込まれた。「仲良いよな」ぼそりと隣りで、コーヒーを飲み干した佑が呟いた。とりわけ、三人の中で愛夢と荘太郎は仲が良い方だ。そして、佑には幼馴染みで、付き合っている彼女が居て、もう少し、仕事の収入が落ち着いたら、結婚するらしい。

 そして、晃は今は付き合っている彼女はいるらしい、というのは、数ヶ月で彼女が変わるので、みんなも、そこまで把握していない様だ。嘉隆と遥は付き合っている人がいないのなら、仕事の都合もあるので、落ち着くまでは、恋人を作らないか、公にしないで欲しいと言われていた。それは、愛夢も同じで、荘太郎と仲は良いが、それは公にしない事と注意を受けていた。



「じゃあ、行って来るよ。終わったらそのまま帰りで」

「ああ、またな」



 手を挙げて応える遥と手を振る愛夢、嘉隆も小さく手を挙げて応えてくれた。見ていないし、聞いていないのかと思った。しかし、挨拶に関しては、その辺は、しっかりしているんだなと思う。



「はいはい、あたし親睦を深めたいと思います。ご飯連れて行って下さい」

「愛夢の方が先輩なのに?」

「女の子にはご馳走するものだよ」

「そうなのか」



 この反応、たまに、騙されるんじゃないかと思う、そうなるとこの年上の後輩には、きちんと教えておかないといけない様な気がした。隣りで雑誌を捲っていた遥に「この人、大丈夫なの?」と聞いた。



「何が?」

「女の子の言う事聞いていたらそのうち、騙されるんじゃないかって」

「大丈夫だと思うぞ。というか心配するのか」

「だって、後輩くんだよ?」

「愛夢ちゃん、実は面倒見良いよな」

「そんな事ないよ」

「あのな、愛夢ちゃんだから、そう言っただけ。他の女だとそこまで、しない」



 愛夢のツンデレっぷりを見て、遥は嬉しそうに、嘉隆の行動に心配ないと言う。女の子にご馳走する、ではなく愛夢にご馳走するが正しかった様だ。それにな、そう言って遥は続ける。



「最初の頃よりも、打ち解けてるよ」

「え、これで?」

「女の子だとタイプじゃなければ見向きもしない。愛夢ちゃんは、今回は女の子枠じゃなくて、荘の彼女枠かな」

「えっと、まだ、付き合っていないかな」



 そこは、照れないのか、荘太郎は中学時代から遥にはソウと呼ばれている。基本、遥は、名前を呼びやすい様に呼ぶので、嘉隆は嘉だし、佑はタスクと名前呼び、晃はアキだ。嘉隆の考えで、合わないと思った様だが、友達の彼女枠なら、譲歩する様だ。



 その後、マネージャー二人も一緒に、ご飯を食べに行くのだった。結局、愛夢の分は、嘉隆と遥が割り勘でご馳走してくれた。



2024/11/02 活動報告掲載

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