かきたまうどん
事務所に顔を出して、私は今日は『rip tide』に向かう。そちらは、スタジオが入っているので、今日はそちらでレコーディングが行われる。莉子さんと、一緒に事務所を出て、向こうのスタジオでプロデューサーの大崎さんと、私の担当のサポートメンバーのギターの長崎さん、キーボードの守屋さんベースの本田さんと合流する事になっている。
今日は少し風が冷たい。莉子さんは、ダウンコートを着ていても寒いとぼやいている。私も今日は流石に寒いかな。頬に当たる風が冷たいというよりも痛い。
「レコーディング終わったら何か温かいもの食べましょうね」
「じゃあ、かきたまうどんが良いなー」
「温まりそうね、良いんじゃない。何より、麻衣が食べたいもの、ちゃんとリクエスト出来ているのが良いわね。流石、浅生くんね」
「いや、嘉くんは関係ないと思う」
レコーディングは、それほど、時間を掛けずに終わらせる事が出来た。スタジオの中は暖かいし、ほっとする。スタジオでのレコーディングが終わると莉子さんのスマホに沖さんから着信があった。終わったら、『rip tide』の事務所に来て欲しいらしい。大崎さん、長崎さん、守屋さん、本田さんも一緒だ。なので、私と莉子さんも含めて総勢六人だ。
十五階の『rip tide』の事務所に着くと、沖さんに呼ばれた。人数が多いので、会議室に案内された。会議室には既にレーゲンボーゲンの二人とサポートメンバー、荻野さんに愛夢ちゃんがいた。私たちが入ると総勢で十四人と言う大所帯になった。
「マリ姐いらっしゃーい!」
そう言って、愛夢ちゃんが私の方に走り寄って来て抱き付いた。あはは、相変わらず、嘉くんを煽っての行動だ。流石に、愛夢ちゃんの様に嘉くんが抱き付いてくる事はない。
「お弁当じゃ冷たくて嫌でしょ、デリバリーしたの。好きなの選んで。温かいうちに食べて」
有名なチェーン店のうどんだ! そして、さっき、莉子さんにリクエストしたものだ。確か、朝に私が呟いた言葉を嘉くんが拾っていたらしい。視線を嘉くんに向けると、彼は私の分のうどんを選んでくれた。
「かきたま、って言ってたから卵とじなんだと思ったら、そっちの『かき』か!」
「はい、まぁ、これも卵入ってますけれどね」
莉子さんに、笑われた。相変わらず牡蠣好きよねとぼやれた。ええ、これが食べたかったんですよ。隣りに座った嘉くんも今日は同じものを選んだ様だ。遥くんは、素うどんにとり天と言うシンプルなうどんだ。鶏好きだね、遥くんは。
「広島産の牡蠣の様だよ」
「いっぱい入ってる。嬉しいな」
卵の中に牡蠣がいっぱい入っている。これは、食べ応えあるね。寒い日は、デリバリーがあると助かるわね、そう言って、萩野さんが笑う。あんかけは温まってとても美味しかったです。すると、嘉くんの牡蠣が私の口に放り込まれた。な、なして? 驚いたけれども、おもわず餌付けされてしまった。
「なんか、美味しそうに食べているから、餌付けしたくなった」
そう言って、甘いマスクで笑みを浮かべた嘉くんに、周りはご馳走さまです、と呟いた。なんの、公開処刑ですか!
2025/02/12 活動報告掲載