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悠兄の誕生日と遅いお年玉



 その年は、年末年始には帰れなかったが、遅れて、一月の後半に実家に帰る事が出来た。本当は、寒くなって来たので、戻りたくはなかったのだが、地元のTV番組に出た時のついでだ。何度も(よし)くんに、気にしなくて良いから、里帰りしておいで、って言われていたので、戻る事にした。予定では、昨日の夕方にTV番組に出演して、仙台で一泊して、バスで移動した。莉子さんは、泊まる事は無く、その日のうちに東京に帰って行った。バスの狭い空間では、変装は相変わらず必須だ。まぁ、冬場は厚着になるので、帽子を深く被っていれば、バレにくい。帰りは夕方に最寄りの一関まで送ってもらってその日のうちに東京に戻る予定でいる。

 着替えは多くは無い、スーツケースの中は主にお土産だ。東京から持ち込んだものと、悠兄へのプレゼントが入っている。何が良いのか、本気で悩んだ。悩んで、また、一緒かと遥くんに突っ込まれた。ワイヤレスイヤホンにした。前に私たちの誕生に選んだのもワイヤレスイヤホンだ。ちなみに選んだものは耐水性に特化したもので、自分たちのとは違うものだ。持って行く事は考えていなかったんだけど、大きなものじゃなくて良かった。お土産の方が嵩張っているな。そう言えば、昨日、(あん)に会って、ランチを一緒にしてお年玉だけを渡して来た。姪っ子甥っ子たちへのお年玉はいつも年が明けて、帰れるタイミングで渡している。


 バスの停留所までは、咲子(さきこ)さんが迎えに来てくれた。お昼は、絵美の実家の食堂を貸し切らせて貰っていた。絵美も半休をとって、店の手伝いを兼ねて、来てくれた。悠兄の誕生日がまさか、これほど規模が大きくなるとは思わなかった。咲子さんの話では、どちらかと言うと、私が来るから、って言う事らしい。悠兄の誕生日の方がついでだとはっきり言っていて、咲子さんらしいな。

 絵美の実家の食堂『食彩・佐藤』は、停留所から、それほど遠くはなかったんだけど、荷物があったので、助かった。スーツケースの中のお土産を出してもらうのを手伝ってもらって、食堂ののれんをくぐる。見知った顔が私を出迎えてくれた。そして、なんで嘉くん連れて来なかったの、って言われる。それが、嫌だから一人で来たくなかったんだよ。



「向こうだって仕事があるんだ。予定が合わない事もあるよ。とりあえず、明けましておめでとう」



 メッセージでのやり取りはしていたけれど、今年最初の挨拶はしっかりしておく。みんなもそれが分かってるので、挨拶を返してくれた。今日、集まっているのは、悠兄と咲子さん、子供たちは流石に学校なので、無理だった。学くんは仕事なんだけど、お昼の休憩時間に来てくれた。


 半休の休みを取ってくれた絵美とその家族、おじさんとおばさんに会うのは、久しぶりだ。休みの日に来れたら良かったんだけど、番組は平日なので仕方がないね。



「このケーキって」

「懐かしいでしょ。聡ちゃんのところのだよ」



 絵美が説明してくれた。高校の文化祭でお世話になった、本吉町内で二件しかないお菓子屋さんのケーキだ。ちなみにいちごは契約農家さんから仕入れている様で、悠兄の友達だったりする。料理は冬の味覚が沢山並んでいる。絵美の食堂は夜は居酒屋になるので、和食がメインだ。



「なんか、牡蠣多く無い?」

「そりゃあ、麻衣が来るんだもの。当然じゃん」

「いや、悠兄の誕生日祝いじゃなかった?」



 悠兄は牡蠣料理は嫌いではないけれど、私ほど好きでもない。流石に昼間からのお酒は遠慮した様で、ノンアルを飲んでいる。生牡蠣なんて、こっちに来ないと食べれないので、嬉しい。普通はレモンを絞るところなんだけど、ここは地元大島産の柚子だった。というか、おじさん、お寿司も握れるなんてすごいな。



「そう言えば、麻衣ちゃんこれ」



 咲子さんにそう言って渡されたのは、包装されたプレゼントだった。誰のプレゼントなのかは想像付いた。悠兄の三日前は遥くんの誕生日だった。中身はなんだろう、確認しておかないといけない。割れ物だったら困るからね。重さはちょっと重い。



「中身何にか聞いても良い? 割れ物だと困るから」

「壊れものかな、一応? でも、落とさなければ大丈夫」

「え」

「ちょっとやそっとじゃ壊れないよ。南部鉄器のティーポット。遥くん、お茶好きなんだよね」

「ああ、だからちょっと重かったのか」

「杏セレクトでちゃんと赤にしてあるよ」



 岩手県の工芸品の南部鉄器は最近、カラフルなものも売られているらしい。ティーポットは遥くん喜んでくれるだろう。あ、忘れてた、悠兄にも渡さないといけない。ワイヤレスイヤホンは防水仕様にしたのは屋外で使う事も考えたからだ。突然の雨でも少しは大丈夫だろう。それと、実家には顔を出せそうに無いので、お年玉もお願いしておく。嘉くんも出してくれたので、今年はちょっと奮発した。私たちには子供はいないので、このお年玉はすべて、姪っ子甥っ子の手に渡るだろう。



「いつもありがとうね」

「美味しいお米や野菜もらってるし、気にしないで」

「おお、麻衣ちゃん、ちゃんと食べてるのね」

「前よりずっと多い野菜送られてくるんだ。勿体無くて破棄なんて出来ない。作り置きにして、遥くんのところにも持って行って貰ってるよ」

「そっかぁ、悠くんにさ、流石に多すぎるんじゃないかって、言ったんだけど、大丈夫だって言うの」

「どこから来る根拠なんだ、全く、悠兄はいつも、思いつきで行動するよね」

「それさ、麻衣ちゃんもたまにあって、悠くんと兄弟なんだなって思う」

「え、そんな事ない」



 あの兄と一緒にはされたくないな、でも少しは自覚はある。だって、父がそうだからね。敬兄はどちらかと言うと、常識人だ。私の思いつきは、兄ほどではないと思う。悪ふざけが好きな嘉くんのせいで、事が大きくなるだけだ。



「今度は絶対に、嘉隆くんも連れて来てね」

「夏には二人で来ます」



 そんな事を話していると絵美に呼ばれた。振り返ると手にはマイクが握られている。どこから出て来た。そして、『happy birthday』を歌わされた。実はみんなで歌う事はあってもこうして、悠兄の前でマイクを持って歌うのは初めてかもしれない。切り分けられたケーキは懐かしい味がした。最後に食べたのは、高校時代、それから、こっちに来る事はあっても、聡子ちゃんのところのケーキは食べていない。今度は、このケーキを嘉くんと遥くんと一緒に食べたいな。


 プレゼントのイヤホンも喜んでもらえた様で良かったです。帰りは最寄りの新幹線が止まる一関駅まで、絵美が送ってくれた。半休の休みにしたのは、私と少しでも一緒にいたいからって言ってくれた。それが、すごく嬉しい。通話だけじゃ足りない事をいっぱい話す時間はあっという間だ。


 また来るからね、そう言って短い帰省は終わった。



2025/01/24 活動報告掲載

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