ハロウィンのお菓子(古川先生のハロウィン講座付)
古川くんに聞いたら、和菓子屋さんなので、特にハロウィンで何かをする事はないらしい。最近、日本でもイベントの一つに数えられる様になったが、はっきり言って、この年齢になると、ハロウィンで騒ぐと言うのもなんか、変な感じがするし、違う感じがする。嘉隆くんには、行事を大事にする麻衣には、珍しいねって言われたけれど、クリスマスとか、バレンタインデーとか、日本に入って来た外国の行事に対しては、特に大事にするって事はないかもしれない。
そう言うと、それで、クリスマスもバレンタインデーも何もしないんだね、と言われた。そこは、古川くんと考えが近かった様で、古川くんもそうらしい。
「ハロウィンって、お盆の様なもの? ちょっと、違うか、帰って来るのはご先祖さまじゃなくて、悪いものたちか」
「間違っていないみたいだよ。死霊とか悪いものだけじゃなくて、先祖の霊とかもこっちの世界に帰るって言われているらしいから」
「仮装は何で?」
「悪い霊から身を守る意味があるようだね、お盆みたいに先祖を供養するために火を焚いて、ご馳走を食べてお祝いする日って認識で良いらしい」
「そして、仮装してお菓子をもらう、っていうのは、お祭りなんだね」
「うん、ハロウィン自体がお祝いだからね」
「でさ、古川くん」
「ああ」
私と古川くんはにんまりと悪い笑顔をお互い浮かべると、キッチンでコーヒーとお茶を淹れていた、嘉隆くんの方を振り返った。突然、視線を向けられて、嘉隆くんが戸惑う。何が起こるか分かっていないようだ。
「「嘉」」「隆くん」私と古川くんの声が重なった。嘉隆くんの手にあるのはコーヒーポットだけだ。近くにお茶用の急須があるけれど、お菓子がある様には見えない。だったら。
「「トリック・オア・トリート」」
「ちょっと、待って、なして? 今じゃけん?」
あ、驚いてくれた様だ。慌てているのか、広島弁だ。そして、観念したのか、手に持っていた、コーヒーポットをテーブルに置く。古川くんは、その様子だけで、とても、楽しそうだ。
「何するの?」
「麻衣ちゃん、何も考えてなかったのかよ。悪戯の定番って言ったらこれだろ?」
そう言って古川くんは、にやりと笑って立ち上がると、キッチンで、棒立ちになったまま、白旗を挙げていた嘉隆くんの脇腹をくすぐった。あ、それ、地味に辛いやつ。嘉隆くん、くすぐったいのか、大笑い。
「あははは、ちょっ、はるか、やめっ!」
言葉になっていない。あ、仲良しいいな。嘉隆くんは楽しくなんてないんだろうけど。実は昨日、事務所から頂いた、お菓子がある。
何でも、ハロウインイベントに駆り出された若手の子たちが配ったものの残りらしい。綺麗にラッピングされたハロウィンの袋に一口サイズのチョコレートやキャンディが入っている。子供向けだが、捨てるのも勿体無いので、持って行ってくれと言われた。
莉子さんから、それを三つ貰った。私とレーゲンボーゲン二人の分だ。莉子さんも二つ、沖さんの分も持って帰っていた。今日がハロウィンだったので、お茶請けにして、コーヒーでも飲もうかなと、思っていたところに今日は、古川くんが遊びに来た。
もちろん、彼の事なのでお土産付きだ。古川くんのお土産はカボチャのタルトだった。カボチャと言ってもそれだけではなく、栗やナッツ、サツマイモなど、色々と載って美味しそうだ。
「古川くん、トリック・オア・トリート?」
「おおう、ちゃんと菓子あげられるよ、麻衣ちゃんは、トリック・オア・トリート」
「うん、ちょっと待ってね。昨日、事務所からお菓子貰って来たの」
ぼそりと、嘉隆くんが「ずる」と呟いた。内緒にしていたんじゃなくて、普通に食べようと思っていたんだよ? 悪戯を思いついたのは、古川くんが来たからです。さーて、私はどんな悪戯をしようかな。
「俺、油断していたわけじゃないよね?」
「うん、大丈夫。私も知らなかったし、悪戯何も思いつかなかったからね。偶然、お菓子あったけど、もし無かったら私も悪戯されてたわけ?」
「遥の思いつきか。遥の悪戯は想像つく」
「え、前にもそんな事あったの?」
「ハロウィンじゃないけどね。俺の返事がない時とか、いきなり、後ろからくすぐられた」
「想像付かない。あ、でも古川くん、私にはデコピンする。それと、一緒か」
「そうだね」
やっぱり、二人って仲良しだな。羨ましいけれど、でも、くすぐられるのは嫌かなぁ。タルトとコーヒー、お茶、古川くんのお菓子、タルトだって知ってたら、紅茶にしたんだけど、緑茶でごめんなさい。
気にしていないようだったけど。お茶なら何でも良いのね。
私の悪戯は結局、古川くんが帰った後に、それって悪戯なの? って言われてしまった。後ろから抱き着いてみたけど、逆に喜ばれた。
悪戯ってまず何を指すのか分からない様な気がするって、言ったら、驚かれた。悪戯が悪い事ってイメージがあるから、それが分からないって言うと、そのうち犯罪に巻き込まれるんじゃないかって、心配された。小さい頃の悪戯も基本、兄たちに巻き込まれた形だ。
「トリック・オア・トリート?」
「ここで、それ言っちゃうの? もう、お菓子ないよ」
「じゃあ、悪戯するね」
そう言って、嘉隆くんは嬉しそうに笑うと、私に甘いお菓子の様なキスをくれた。
2024/10/31 活動報告掲載