いい夫婦の日(十一月二十二日)
去年の『いい夫婦の日』は、事務所から花をもらって来た嘉くんは今年は、買って来て笑った。記念日を意識してくれるのは、嬉しいんだけど、誕生日をお祝いしたばかりだよね。
「何を買ったの?」
「ん、これ」
そう言って、嘉くんが差し出したのは、綺麗なワイングラスだった。ああ、そう言えば、持って無かったね。私がワインよりも日本酒が好きって言うのもあったから実は持っていなかった。今までは、飲む機会があると持ち手の無いグラスだ。
「冷蔵庫のワイン一緒にどう?」
「あったね」
絵美が送ってくれた南三陸ワイナリーのワインが入っている。ボージョレ・ヌーボーって言うのも売ってたけど、あの酸味あまり得意じゃないんだよね、って嘉くん言ってる。まぁ、あれは好き嫌いが出るね。確かに、ものによっては酸味が強いものもある。
「このワイングラスどうしたの?」
「沖さんと選んだ」
「ああ、じゃあ、沖さんと莉子さんも今夜はワインなんだね」
「多分」
「そっか、一緒でちょっと、嬉しいね」
莉子さんたちと一緒なら、良いかな。沖さんは、ボージョレ・ヌーボーを買って帰ったようだ。そっか、莉子さん、毎年飲んでいるって、沖さんにも伝えているんだね。
「そうだ、頼まれていたものも買って来たよ」
「ごめんね、ありがとう」
「いいんだけど、何か作るの?」
「実家から、渋抜きした柿が送られてきたんだけど、あまり日持ちしないのよね。結構、量が多くて、ワインに合う料理を作ります」
「それ、晃?」
「うーん、結構、色々な人が作っているから、定番なのかな」
柿とクリームチーズを和えて、オリーブオイルと胡椒をかけるだけのシンプルな料理だ。これは、レシピサイトを見て調べたものだ。だって、柿って、そのまま食べる事が多くて、料理は思い付かない。
「これ、美味しいの?」
「分からない。でも、みんな絶賛してるから。嫌なら、私が食べるけど」
あ、ダメなタイプかな。お義母さんに聞いたんだけど、珍しいものは食べなかったって言ってたね。この組み合わせは、私も始めてだ。
「いや、食べる」
「そう? 無理しなくて良いからね」
今日は、洋風のおつまみを考えていたので、パスタを茹でた。ペペロンチーノって何を入れても美味しいよね。キャベツとベーコンとシンプルなパスタだ。
「ん」
「おお、うま」
驚いてしまって、ありきたりな言葉しか出てこなかった。これ、美味しい。ワインが合うやつだ。嘉くんも驚いた様に、瞬きした。じっと視線を向けると、嘉くんもワインを一口。お、気に入ったのかな。
「どう?」
「うん、美味しい」
「うん、美味しいよね。いきなり、驚いた」
「うん、ぶち驚いた」
お互いの地元の言葉が出るほどに美味しかった。私は、胡椒もっと強めでも良いかな。掛けて良いか聞くと、俺ももう少し欲しいと言われた。
「熟した柿は苦手だったんだけど、これは、熟した方が美味しいね」
「それで、渋い顔していたんだね。剥くの大変だったよ。熟したの使ったけれど、これ、明日も食べたいと思わないかなぁ」
「晃は? それと、愛夢と奏子。レシピ教えて柿をお裾分けしちゃえば良いよ」
「そうだね、食べるか聞いてみるよ」
ワインに合うと言ったら、食べてくれるかな。
2025/11/22 活動報告掲載




