君との幸せのカタチ(十月十八日)
結婚後は、お互い二人で使うものを選んでいたはずだった。配信用のマイクに、レコードプレイヤー、新しいコーヒーミル。今年は何にしようか悩んで結局、二人でどこか星の見えるところに行こうか、で決まった。私たちの誕生日の頃はしし座流星群が極大を迎えるからだ。有名な流星群に比べるとそれほど、流れるわけでは無い。一時間に数個って言ってた、ただ、『レオニード』と言うその呼び名が気に入っているって嘉くんが言ってた。
高校生の時に見た、しし座流星群が忘れられないらしい。あの時は、『流星雨』と呼ばれるくらい、星が夜空にたくさん流れたらしい。私の記憶にも残っているくらい有名な話だ。あの時の様に流れる予想は出ていないんだけど、いいの? って聞かれた。
まぁ、流星群だけじゃ無くて、星を見れるなら良いんじゃないかな。明らかに東京の街中よりもずっと、好条件だ。そう言うと、あまり、興味ないのがばればれだったんだけど、それでも、一緒に行ってくれて嬉しいと言われた。
* * *
極大は日付が変わった十八日の未明から明け方らしい。レンタカーを借りて、向かうのは星が見えるところだ。夜中にお出かけなんて、ちょっとどきどき、わくわくする。少し前のオリオン座流星群の時は近所の公園に行った。あの時も同じく嬉しかった。
仕事終わりなので、晩御飯は、道路沿いのチェーン店で食べる事にしたのだが、そう言うところで食べるのも初めてだった。
「事務所で食べた事あったけど、お店で食べたのは初めてだ」
「まぁ、外で食べる事少ないよね。それで、良かったの? ちゃんとした、お店もあったでしょ」
「ううん、いい。だって、お酒が飲みたくなるから。嘉くんの誕生日なのにごめんね」
「あはは、なるほど。麻衣らしいね。俺の事は気にしなくていいよ。俺は一緒に出掛けられるだけで、嬉しいんだから」
その後、コンビニに寄ってコーヒーを買った。今日は運転を嘉くんがしてくれている。どこまで、行くのかは説明を受けていない。東京に来て運転する機会が多く無いので、実は東京の道路事情はよく分かっていない。埼玉に行った時もナビ頼りだったからね。なので、今回の運転を頼んだ。暗いと余計どこを走っているのか、分からないだよね。
しし座が昇り始める時間帯を確認する。スマホで星空を確認していた私は、スマホの時計が零時を回った事を確認する。流石に、明け方までいるつもりは無い。しし座が昇り始めた頃を狙っている。防寒もしっかりした。準備万端でいたら笑われた。
「嘉くん、誕生日おめでとうございます」
「ああ、日付変わったのか」
外は寒いので今は、車の中だ。私は、鞄からプレゼントの箱を取り出した。それに気付いて、車内灯を付けてくれた。十八日になった。
「渡さなかったんじゃないの?」
「いや、なんにも無いのも寂しいかなって。だって、私の時も結局、用意してたじゃ無いの」
「ほんとだね、ありがとう。開けても良い?」
「どうぞ」
中身を確認した嘉くんは苦笑している。明らかにどこで買ったものかバレバレだ。出掛けると言ったあの日、聖良ちゃんと一緒だって言ったんだ。本当は、聖良ちゃんとは偶然会ったんだけど、一緒にいれば、選んでもらったと思われたかもしれない。それに、内田くんがよく行くお店だ。
「聖良ちゃんは関係無いの。あの日、聖良ちゃんと待ち合わせしていたわけじゃ無くて、偶然あのお店で会ったんだよ。聖良ちゃんは、私へのプレゼントを買うつもりで来ていたみたい。それで、ラピスラズリが良いんじゃないって、言ってくれたのはお姉さんで、後は自分で決め…」
ちょっと待って、いきなり、キスするのやめて。ぶち嬉しいって言葉を呟いてキスされた。車内灯はついたままままだ。しし座流星群を見に来た人はいないけれど、星空を見に来ている人はいるのか、公園の駐車場に車が数台止まっている。
「ここは流石にまずい」
「ああ」
「でも、周りカップルばかりだよ」
いや、消せば良いって言う問題でも無い。私は、嘉くんの口元を手で押し返すと、拒否した。見えないけれど笑っているので、私が拒否すればやめてくれた。改めて、車内灯を付けると、私からのプレゼントのイヤーカフをつけてくれた。
「持ってないから嬉しいよ」
「うん、そうだと思った。似合うよ」
「ん、ありがとう」
それで、聞き捨てならない事を口走ったぞ。周りにちらほら車があるな、とは思っていた。公園とかでも、カップルが多い事あるけど、ここもか。
「ここにいる人たちってカップルばかり?!」
「あはは、冗談だよ。ちゃんと調べて来たよ。ここは、星を見る人が多いね。ほら、外に出ている人もいる」
「よ、良かった」
びっくりした、もしそうだったら、困る。確かに、外に出て星を眺めている人もいる。ルーフ付きの車良いな。寝転んだまま、車から空が見える様だ。出て見る? と言われたので、外に出る事にした。まだ、しし座は昇ってきたばかりで、それほど高くは無い。
目を暗闇に鳴らして一時間ほど、いたけれど残念ながら星は流れてはくれなかった。でも。嘉くんに色々な星のお話を聞いた。秋から冬にかけてのギリシャ神話で、しし座の獅子はヘラクレスが退治した怪物だ。ヘラクレスは名前は聞いたことはあった。
来月は、どうしようか、そう言った嘉くんはとても嬉しそうだった。来月はどんな流星群があるのかな。
2025/11/18 活動報告掲載




