僕との幸せのカタチ(十月十五日)
珍しく一人でお出掛けだ。朝にちょっと、出掛けてくるって言ったら、俺も休むー、と子供のような事を言われたので、背中を押して今日は私の誕生日のお祝いしてーと言ったら、それで、納得してくれた。今日は私の誕生日なんだけど、土曜日なのに嘉くんは仕事なので、ご機嫌がちょっと斜めだ。
普段ならお休みなのにお疲れ様です。祝われて嬉しい年齢は既に何十年も過ぎていますけどね。
今週はちょっと、忙しくて、出かける暇が無かった。今年は、嘉くんの誕生日に出掛ける予定でいるので、お互い二人で使うものを買うのはやめた。でも、たまには私からサプライズしたくて、こうして買い物に来た。
何が良いか悩んでいて、ぎりぎりになってしまったというのも無くは無い。
そして、お店で思わぬ人物と鉢合わせた。お店のコンセプトは近いし、何よりここのお店の常連の内田くんの彼女ならいても当然だよね。
「あ、マリ姐」
「え、聖良ちゃん?」
私が疑問系だったのは、すごく可愛らしいゴシック風の格好だったからだ。ばっちりそれ風のメイクもしている。仕事用とは違って、カッコいいよりも可愛いを意識している。相変わらず、聖良ちゃんは可愛いな。私は、白のオーバーサイズの黒いパーカーと裾が絞ってある紫のカーゴパンツだ。帽子は珍しくキャップだ。
「相変わらずイケメンな格好だー」
「聖良ちゃんは、すごく可愛いね」
「ありがとうございますっ!」
お店のお姉さんは内田くんと聖良ちゃんの事は知らないと思うので、口には出さない。二人は公にする事は無かったので、お姉さんも知らないはずだ。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「今日は新しいピアスをお探しですか?」
「ああ、ちょっと違うんですよね。もうすぐ、誕生日なので、嘉隆くんのを探しに来ました」
そう言ったら、聖良ちゃんに笑われた。『もうすぐなのは、マリ姐の方ですよね。今日誕生日じゃないですか』いやいや、嘉くんの誕生日も、もう少しで間違ってはいないよ。お姉さんにもおめでとう、と言われた。あはは、ありがとうございます。
「ここに来た理由、バレちゃったじゃないですかー。なので、マリ姐、好きなの選んで下さいよ」
「あ、もしかして、聖良ちゃんは私のプレゼント探しに来たの?」
「はい、お姉さんに相談していたところですよ」
「そっか」
「そして、届けようとしていたんですけどね。午前中、浅生さん、お仕事だって言っていたし、鉢合う前に帰れたかなと思っていました」
「なるほど」
聖良ちゃんの手には、銀の金具にチャロアイトの石が嵌っているピアスを手にしていた。チャロアイトって書いてあるので、その石が何か知っていたわけではない。
「前に、古川さんがアメシストのアクセサリーにしていましたよね。だから、違う紫系のが無いかなって聞いていました」
「これ、綺麗だね」
「水晶の様な透明感のあるのも良いけど、こう言うのも良いですよね」
お姉さん、もし良かったら、二つ穴用にチェーンで繋げてあげましょうかって、言ってくれた。じゃあ、自分で買うよ、って言ったんだけど聖良ちゃんに誕生日プレゼントにさせて下さいね、って言われてしまった。結局、私も気に入った事もあって、それを選んでくれた。ありがとう。
「お姉さん、青系の石ってあります?」
「浅生さん、十一月なんですよね。ブルートパーズが誕生石だけど、ブルートパーズじゃダメなんですか?」
「それでも、良いんですけど、似合うならなんでも」
「ラピスラズリとか、星が輝いているみたいで綺麗ですよ」
「あ、複数並んでいるの良いな。金具は金がいいかな」
「浅生さんに似合うと思います」
星のような、と言う言葉に惹かれた。やっぱり、嘉くんのイメージは星だ。それと、きらきらした感じは銀よりも金だろう。
「じゃあ、それと同色の金のシンプルなイヤーカフだけのものと、二つお願いします」
「あ、ピアスは開けていないんだね」
「はい、イヤリングも耳が痛くなるって言って、仕事の時以外はつけないので、イヤーカフでお願いします」
「了解」
イヤリングよりは、イヤーカフの方が良いと思った。きらきらのチェーンの先に光るラピスラズリは星の様だ。あまり、じゃらじゃらとアクセサリーは付けない人なんだけど、手も揃いのエンゲージリングだけだ。私からって言えば付けてくれるだろう。
「TVだと、アクセサリーの類、つけていますよね」
「はい」
「アレルギーがあるって言うわけではないんだ」
「ええ、本人があまり好きじゃ無いって言うだけです」
「川村さんは、付ける方よね」
「そうですね、仕事でもオフでも付けます」
指には、エンゲージリング以外には、右手には二つ、左手には一つ嵌めている。シンプルなシルバーのと透かしの入ったものと、アメシストの石が嵌ったものだ。流石に天然のブルートパーズの指輪は怖くて、何かの時にしか付けられないので、仕舞い込んである。
「まだ、ちょっと時間あるから、どこかでお茶にしようか」
「はい! マリ姐とデートだ、嬉しいな」
綺麗にラッピングしてもらって、嘉くんの誕生日プレゼントは買う事が出来た。お姉さん、誕生日祝いって言って、綺麗なシルバーのピアスをおまけしてくれた。ありがとうございます。
聖良ちゃんは、その後、喫茶店で改めてプレゼントを渡してくれた。
「ラッピングも必要無かったのに」
「いえ、やっぱり、贈り物ですからね」
「嬉しいよ、ありがとう」
そう言うと聖良ちゃんは、「マリ姐のイケメンボイスのお礼頂きました!」と喜んでくれた。いや、そう言うつもりで言ったんじゃないんだけどな。
ちょっとのつもりだったんだけど、嘉くんから、事務所のスタッフにお昼をご馳走になるから、食べて帰ると言う連絡が入った。私は、素直に聖良ちゃんと一緒なので、お昼ご飯食べて帰りますと返事を返したら、『ずるい』って言う返事が返ってきた。それを、聖良ちゃんに言ったら笑われた。ずるいってなんだ。
帰るって言ったんだけど、最寄りの駅で今度は嘉くんと鉢合わせて笑った。今日は、聖良ちゃんといい鉢合わせるの多いな。バレちゃいけないので、あの後、デパ地下で大好きな日本酒を買って来た。それを理由にするつもりだ。だって、近所のスーパーには売っていないんだよね。言えば買ったのにと言われた。鉢合わせた時、さり気なくその日本酒を持ってくれた。四合瓶なんだけど、それでもちょっと重かった。
「ありがとう」
「今年もケーキ要らないんだよね」
「うん」
「でも、俺の誕生日でも今年は食べないよね?」
「うん、別にケーキが好きなわけじゃ無いし」
「もしかして、聖良と食べて来た?」
「いや、お昼とコーヒーだけでお腹いっぱいだよ」
それも、本当だ。おしゃれなパスタ屋さん。秋のおすすめの牡蠣のパスタが始まっていて即決した。そう言ったら、聖良ちゃんだけじゃ無くて、嘉くんにも笑われてしまったけど。
「今回も遥から、預かってきたよ」
「遥くんも来れば良いのに」
「もっと、強く言えば来るんじゃないの? 俺たちに遠慮してるだけだから」
今年も遥くんのおじいさんの和菓子だ。今年は、紅葉にしたって言ってる。おお、食べるのが楽しみだ。スーパーで買い物をして、帰路に着く。今日は、希望を聞かれたんだけど、昼にパスタ食べたしなぁ。
「あ、牡蠣がある。かきめしにしよう?」
「え、いいけど、昼にも牡蠣食べたって言ってなかった? どれだけ、好きなの」
「あ、じゃあ」
「いいよ、かきめしにしようか。お米は広島のにするね」
「え、でも、ここの宮城産」
「良いんじゃないの。お米は広島で牡蠣が宮城」
うわ、いつもと正反対だ。でも、面白いな、それ。じゃあ、かきめしでお願いします。え、顔見知りの店員さん、流石に私の誕生日を知っているからって、色々と渡そうとするのやめてください。嘉くんも笑っていないで助けて。
* * *
嘉くんの作ってくれる料理は美味しいね。結局、手伝わせてくれなかった。日本酒を冷蔵庫に入れてくれたのも嘉くんだ。かきめしと秋刀魚の塩焼き、おひたしと和食で、出来上がったものを見ていつもと変わらないじゃん、と言われたけれど今日は、遥くんの実家の和菓子付きだよ。それで、十分です。
こうして、一緒に食卓を囲むのが良いのです。
2025/11/15 活動報告掲載




