再開する友人たち
さっきまでのふわふわした空気のまま、ココちゃんたち3人は各席についた。ココちゃんは私の横に来て、桐也くんと英司くんは私たちの対面に座る。私は一番奥に詰めているので、正面には桐也くんが来た。
「新垣、久しぶりだな」
彼は『野母 桐也』。今は大手エリート企業の社員として働いている。ロングヘア―だが後ろでポニーテールにしているが、彼は高身長かつ華奢なので違和感がない。それに眼鏡をかけているので、傍から見れば女性に見える。性格としてはかなり理知的かつ淡白であるため、クールキャラとしての立場を確立している。桐也くんと英司くんは性格が真逆なのかよくケンカをしている。でも、喧嘩自体は出会った時からだから仲がいい証拠なのだろう。でも、正直私には桐也くん自身が何を考えているのかいまいち掴めない。
彼は昔からよく話しかけてくれたし、話題も合う。でも、それでも彼との関係は少し距離を持ちたい...
「ええ、久しぶりですね、桐也くん。いつぶりでしょうか?」
そんな感情は絶対に人には見せないように振る舞う。人間関係は負の面を見せた瞬間、元の形から歪むのだから。ソースは今まで読んできた物語。だから、彼には常に淡白に会話するように心がけている。
「新垣とは3年と半年ぶりだな。二つ前の集まりの時は講義の都合で行けてなかったと記憶している。他の二人とは時たま会うんだけどな」
彼ら3人と私は少し離れた場所に住んでいる。厳密に言えば私の個人的な事情で離れざるをえなかったのだ。ココちゃんたちは今もこの弐ノ場市に住んでいる。ここは私たちが生まれ育った街、彼らは今もまだこの街で過ごしている。だからココちゃん、英司くん、桐也くんの3人はたまに会えるのだ。少しだけ疎外感があるが、それでも私と彼らは友達であり続けていられる。それはきっと私たちを繋ぐ思い出があるからだ。そんなノスタルジーに浸りつつ会話を続ける。
「3年半ですか...そういえばそうでしたね。あの時はココちゃんが非常にがっかりしてましたよ?」
「心音が、か。フッ、誰が来なくても同じような反応をしているだろう」
彼は何もわかっていない。いや、わかっているけれど分からないふりをしているのかもしれない。彼の本心は知る由もない。ココちゃんは君が来なかったから落ち込んでいたのに...でも、私がそれを指摘しても彼らのためにならないし、ココちゃん以外が気にしても仕方がないので、横で楽しく会話をしているココちゃんたちの方に視線を向ける。
「4人全員で集まるのは本当に久しぶりだな!また集まれて嬉しいぜ!」
興奮気味の英司くんが声を大にして話をしている。彼は情に厚いが、少々熱血すぎる節がある。勢いだけで言えばF1カー並みだと言っても過言ではない。
「うんうん、そうだね~。少し落ち着こうね~。そうだエイちゃん、そろそろ注文するから決めちゃってよ。」
いつもの調子だという感じでココちゃんが英司くんをいい感じに宥めている。普段からこの役回りは彼女しかできない。流石、三姉弟の長女だ。弟(年上)の扱いをよくわかっている。でも、宥められた彼を再び熱くさせる発言が飛んでくる。
「英司、君は静かに会話するということができないほど能がないのかい?」
...こっちもこっちでいつもの調子といった感じだ。桐也くんは英司くんの言動に茶々を入れる。桐也くんが常に発端だが...
「おい、桐也!お前は嬉しくないのか!!!こんな久しぶりに4人で集まれたんだぞ!?この前はお前がいなかったしよぉ、前々から予定を合わせようとしたのにみんなうまいこと合わなくて...!」
英司くんは熱弁しながら少しずつ涙目になってきた。彼は熱いながらに情に脆い。昔から同じような状況だとこんな感じで泣きそうになりながらしゃべる。こんな状況になると桐也くんは
「はあ、わかったよ。英司がそんなにうれしいのはよくわかった。だからこれ以上うるさくしないでくれ。僕もみんなで集まれてうれしい気持ちはあるから。だから、せめて声のトーンは2ランクほど落としてくれ」
やれやれといった感じで折れてくれる。常に面倒事を避けようとする性質上、彼自体が真っ先に身を引く。そのおかげか、
「そうかそうか、やっぱりお前も嬉しいか!いつもクールぶってるのにこういう時ははしゃぎたい気分になるよな!」
と英司くんが調子に乗るところまでがいつもの流れだ。それを聞いて桐也くんが何かを言い返そうとしている。二人とも一言多いところはそっくりなことに気づいていないのだろうか。なんて思いながら、彼らのもう少し続くあれこれを先に頼んでいたコーヒーをすすりながら眺めていた。
そんなとき、横から声が聞こえる。
「ねえミッチー、さっき桐也くんとどんな会話してた?あたしのこと話してた感じ?今日のあたしばっちり決まってるから、絶対目に留まるでしょ?あ、見てこのネイル!昨日塗ったの!この藍色のネイルって結構貴重でさぁ~、この前のショッピングで6店舗周ってようやく手に入ったの!ミッチーにも似合うと思ってもう一個あるんだよね!ほら!どうぞ!」
ココちゃんがとても嬉しそうに話してくる。後ろからキラキラオーラが出すぎて私にはまぶしすぎるほどだ...本当にまぶしすぎて目がつぶれそう!お話の内容も私みたいな引きこもりとは違ってイマドキらしい女の子らしさがあって少し憧れる。
「ありがとう。私普段からネイルとかしないからやり方わからないんだけど、今度教えてもらえる?」
だから、私は素直に彼女の提案を受け入れる。そして彼女から学ぶことは多いからこういう時にしっかりと私の女の部分を磨くようにお願いするのだ。今日の化粧や服だって高校時代にココちゃんから教えてもらったものだ。
「いいよ!じゃあ、いつにしよっか?あたしは最近仕事が落ち着いてきたから、平日なら割とどこでも空いてるよ!」
「なら、この日にお願いしたいな」
「OK!じゃあ、この日の10時からあたしの家に来てくれる?」
ココちゃんの提案を承諾してネイルを教えてもらう予定をありつけたところで桐也くんたちのほうを見ると、いつの間に頼んでいたのかわからないコーヒーを飲んでいる桐也くんとその横で英司くんが楽しそうに話していた。二人ともなんやかんやでウマが合うみたいで、桐也くんのほうも少し楽しそうに話を聞いていた。
そんな感じで私たちは各自友人との再会の喜びをしばらく感じながら過ごしていた。