邂逅
予想していたことと現実との差で処理落ちしている私に対して
「おいおいなんだ、その呆けた顔は!」
と語りかける声が聞こえた。その一言で私は現実に引き戻される。どうやら久しぶりの友人との再会に私は呆けていたみたい。
呆けていた私に笑いながら語りかけた彼は『九条 英司』君。昔から明るく情熱的な性格で、本ばかり読んでいる私にもフレンドリーに語りかけてくれたそんな人。いろんな人から好かれる性格で、とても実直で正義漢って思える人物像を持っていると思う。
「ごめんなさい。あなたたちが来るまでもう少し時間があると思っていたから予想外で...」
久々に会う彼らに誤解を招かないように迅速かつ丁寧に回答をしたのだが、世間一般で言う「早口オタク」のようになってしまった。
私はしまったと思って直ちに弁明をしようとしたが、
「ミッチーも私と久々に会ってテンション上がってるの~?うれしい!」
と予想だにしない返答がココちゃんから飛んできた。
「ここしばらくはずっとメッセージでのやり取りだったからね~。『鉄の図書館人間』なんて不名誉なあだ名で言われていたミッチーでもさすがにうれしいか~!」
そんなことをしみじみだね~といった様子で話している彼女は『旭川 心音』。
それぞれを『ココちゃん』『ミッチー』と呼び合う仲で、私の持つ友人関係の中で最も仲の良い人物だ。最近はおしゃれさんになったみたいで、最新のファッションや可愛い食べ物、楽しそうなテーマパークなど、私と違ってたくさん女の子をしている。
そんな彼女の冗談に私は本心で答える。
「うん、そうかも...やっぱり久しぶりに会って、それが嬉しくてびっくりしてた」
私の返答は予想外だったのか、今度は彼らが呆然としていた。本心をそのまま伝えたのだが何か失敗だったのだろうか?もう少し詩的に返すべきだった?それなら...と思い、一つ咳払いをしてから
「本日はお日柄もよく...」
と祝辞のような文言をつらつらと重ねてみた。こういうことはあまりしないが、即興にしては思ったより滑らかに言葉が出てくる。
興が乗った私はそれから1、2分程度ご丁寧な挨拶を繰り広げた。これで私が今日どんな気持ちでここにきて、ココちゃんたちと会ってどう感じたのか至極伝わっただろう。そう自信満々な顔でココちゃんたちの方を見ると私の予想とは違った反応が返ってきた。
「お、おう...その、いつにも増して元気だな!」
彼らは修学旅行でよく分からない地域のよく分からない踊りを見せられた学生と同じ顔をしていた。私も同じような経験があるからそんな顔をした時の感情はよくわかる。だから、私は失敗したことに気づいた。
「えっと、これは…皆と会えて嬉しかったから、その」
自分でもわかるくらい顔が赤い。耳や目までも熱くなっている。そう分かっているから、より一層私は弁明を図ろうとして焦る。傍から見たらグルグル目になっている私を見てココちゃんが笑い始めた。
「ミッチー、焦りすぎよ。そんな、漫画みたいな典型的なグルグル目になって」
ココちゃんはお腹を抑えながら大笑いしている。笑い死ぬのか言うほど笑っている彼女を見て私の焦りも減ってきた。次第にさっきまでの焦りが面白さに変わってきて、私たち3人はみんなココちゃんにつられて軽く笑ってしまった。