14 和真と春和
貞香元(万久紀三九九一)年九月二十五日正午、王宮府が記者会見を開き先の両王崩御と御子妃の薨去、新王即位と新元号が正式に公表された。
報道では専用機墜落から新王即位までの経緯が何度も流れ、どのメディアにも『墜落前日のオルゴー政府からの荷箱との関連性』や『政府の今後の対応』という言葉が並ぶ。『新たな両王陛下』という言葉も繰り返され、SNSにはさまざまな陰謀説が流れた。政府、王宮府は非難を浴び、新しい両王には心配や同情の声が寄せられるとともに、この国の将来を危惧する声は大きくなる一方である。
十八時四十分。春和は自室で天井を見上げていた。この上の上、宮城の最上階には、月の統石の祀られた斎場がある。
皆口を揃えて、まだテレビはつけない方がよいと言う。それだけ自分の置かれた状況が大変なのはわかっているが、何せ自分や和真のことであるため気になってしまう。
今、瀬津は斎場で統石に宿るカミと契を結んでいる。一昨日雅雪からカミとの契の話を詳しく聞いたあと、瀬津はカミとの契を結びたいと春和に言った。無理をしないでほしいと伝えていた春和は理由を聞いたが、
「まだ内緒です」
と笑まれただけ。
瀬津を斎場まで送ったあと、戻ってよいと言われ部屋に戻ったが、気になってしまう。瀬津は、カミとどんな話をするのだろうか。
報道のことと瀬津のことが気になって、何も手につかない。今日は瀬津の契があるので、和真は自分の宮城で過ごすと言われた。
「こんな日こそいてほしいのに……」
天井を見上げたまま春和は呟く。
春和がカミと契を結んだ日、カミは春和に瀬津を示した。司が現れるまではそばにいると言った大宮妃は、ゆえにたった三日しかそばにいてくれなかったのだ。これからも時折訪ねると言ってくれていたが、今はひとり。かと言って、雅雪たち職員のところへ行きたくはない。天井を見つめる眼に力が入った。
「はる」
声がすると同時に扉が開く。自分の宮城にいるはずの和真は、また突然現れた。
「どうして……?」
和真の脱走はいつものことだが、たった五歳の和真が日の宮城と月の宮城に勤める百人以上の王宮府職員の目をかいくぐりここにたどり着くのは、不思議としか言いようがない。即位が公になってまだ一日。王宮府職員の緊張感からすれば、子どもが抜け出すのは困難だ。
「みんなに心配かけるから、勝手に出てきちゃだめでしょう?」
春和の言葉をまったく意に介さず、和真はまっすぐに駆け寄ってきて春和の膝に手を載せる。
「はるが、ぼくを呼んでたからきた」
「呼んでた?」
春和が訊くと和真は頷く。
「風にのって聞こえたよ」
そう答えてから、春和の顔を見つめて首を傾げる。
「はるはどうして、あのお兄ちゃんを選んだの?」
「選んだって、瀬津さんを?」
春和が訊き返すと、和真はまた頷く。
春和はたしかに瀬津にそばにいてほしいと願った。けれど、それは彼がカミに選ばれたあとの話だ。
「カミが私のために選んでくださったのではないの?」
「ちがうよ」
春和がどういうことかわからず次の言葉に迷っていると、和真は春和の膝をぽんとたたく。
「でもぼく、あのお兄ちゃんとは仲良くなれそう」
歯を見せて笑い、屈んで春和の膝に頬を押しつけた。
「かず」
和真の髪をなでながら、春和はまた天井に目を向ける。
「なに」
顔の向きを変えずに和真は応える。
「大丈夫」
春和が呟くと、
「大丈夫」
と和真は言い切る。
「大丈夫。ぼく、ちぎりの夜、約束したから」
春和の背筋に緊張が走った。恐る恐る膝の上の横顔に訊く。
「何を約束したの?」
しばらくは静かだったが、やがて変わらぬ調子で和真は言った。
「ここにいるみんなで、しあわせになるって」
春和は、また和真の髪の上で手を動かす。
鋭い子だから気づいただろうか。
カミから何か聞いただろうか。
そんな疑問も浮かんだが、首を振る。
今だけは、和真の答えにほっとしたい。
「うん」
変わらず手を動かしながら、また春和は天井を見た。
しばらくすると、和真はそのまま眠ってしまった。
朝夕がちょっと涼しくなってきてうれしいですね。




