インターミッション 4.5
チャイルド・プレイ (Call me Chucky)
マリーエンブルク星系軍軍令本部参謀部別室
ヴァネッサは、その部屋に来客を迎えていた。片手で額を押さえながら・・・。
「・・・何の趣味かしら?だんだん酷くなってるように思えるけど・・・」
言うまでもなく、相手はアレックである。ヴァネッサが指摘するのはその姿である。
今度のアレックは、何と母親の腕に抱かれた赤ん坊に扮していた。当然母子ともクローンである。
訪問の建前は、エレギオン戦役で犠牲となった兵士の妻が、赤ん坊連れて辺境伯太女に面会するとのシチュエーションである。
もちろん嘘っぱちであり、わざわざそんなに手の込んだ面会機会を作る必要はない。
だからヴァネッサは"趣味"と言ったのだ。
「いえ、今や正体を知られずにお嬢様と面会するのは、非常に困難になっているのです」
母親に抱かれた赤子の口から、おっさんの言葉が出てくるのは、非常にシュールな光景だ。何のホラー映画だろうか・・・。
ヴァネッサは・・・それ以上は気にしない事にして、アレックを呼び出した本題に移る。
「帝国科学アカデミーの要請で、結局あの子たちを惑星"ミドガルド"に派遣することになったのだけれど・・・。彼らの保護者がイーリスだけと言うのが、わたくしの気がかりです」
彼女は続ける。すでにアレックを見ていない。
「イーリスは優秀ではあるけれど、経験が足りない。人の悪意に対応する耐性がまだ低すぎる。そこを援助できないかしら?」
アレックは、大きく頷きながら応じる。・・・その光景はあまりに奇妙すぎて、ヴァネッサは目を逸らしている。
「よく承知しております、そのご懸念は。ですから私からもご提案したいと思い、こうして参った次第です」
母親の腕の中の赤子がそう喋る。シュールすぎて、何だか寒気がする・・・。
ヴァネッサは、もうアレックの事は無視して尋ねる。
「アカデミーはこの調査にどんな体制で臨むのかしら?・・・そして、それに対してのあなたの提言は?」
アレックは調査内容と、それに対する自身の意見を述べる。
「彼らは調査責任者メルコール教授と、助手のスメアゴル研究員の派遣を決めたようです。あと護衛武官を1名選定しようとしてますが、そこに私の配下を潜入させようかと・・・」
ヴァネッサは、アレックの目を見ないようにして尋ねる。
「あなたの配下と言う位だから、それなりの実力はあるんでしょうけれど、・・・教授たちに怪しまれないかしら?」
赤子は平然と問題ないとばかりに答える。・・・なんかもう怖いんですけど。
「そこは抜かりなく。アカデミー教授たちの研究室があるフロアーで、警備担当者としてもう5年も務めているスリーパーですから」
ヴァネッサは最後に確認する。
「それで、彼の役割は?」
赤子は答える。ヴァネッサの目は明後日を向いている。
「先ず、イーリス様をそれらの悪意から守ること。そして万一教授たちが自身の欲望に基づく行動を取ろうとした時は、それを阻止すること。・・・その実力は有しています」
ヴァネッサは、極力赤子を視界に入れないようにして頷く。
「わかりました。了承します。そのように進めてください。・・・それで彼の名は?」
赤子は少しだけ誇らしげに答える。
「バルド・・・バルド・シルヴァンと申します。彼の趣味は弓でかなりの腕前なので、今回の舞台には打って付けかと・・・」
ヴァネッサは視線を外しながら冷たく応じる。
「別に彼の"趣味"を聞いた覚えはないのだけど。・・・まあいいです。それでは・・・」
ヴァネッサは会談を終わろうと席を立ちかけたが、そこにアレックが珍しく声をかけた。
「お嬢様。最後に一つだけお願いと言うか・・・」
ヴァネッサは警戒心全開で、仕方なく応じる。
(大体こんな時はろくなことがないのだ。経験則で・・・)
「・・・何でしょう」
アレックが意気揚々とそのお願いを口にする。
「私もこれまで、色んな変身を試して参りましたが、今回のこの変身が一番しっくり来るようです。それで今後はこの変身を定番とし、私のことは"チャッキー"と呼んで頂ければと・・・」
「絶対に!!お断りです!!!」
ヴァネッサは即答した。