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03 逃避行

03 逃避行


ミスティはギルドールと森の中で、小さな焚火を囲んで座っていた。

今のミスティの出で立ちは、長く伸びたきれいな金髪の髪をバッサリと肩まで切り落として短髪とし、質素な麻のチュニックにズボンと言う、どこにでもいるような庶民の男の子の服装であった。

ギルドールはと言うと、綿のシャツに革のベスト、厚めの細いズボンに革のブーツと言う・・・つまり、帝都"アキレウス"に居た時と変わらない狩人の恰好である。

そもそもギルドールは、首都アキレウスに来る前から自分達部族の装束に頑なに拘り、高貴な一族と看做されていた割には古風な服のせいで、随分と周りから浮いていたものだった。

しかし今では、ギルドールのその恰好は薄暗い森の中に見事なまでに溶け込み馴染んでいたのだった。

ミスティ達が首都を脱出して、既にもう1週間が過ぎていた。

今日途中で立ち寄った村で聞いた話では、3日前に3部将の連合軍が首都アキレウスを制圧し、共同で軍政を敷くことが宣言されたとの事であった。

そして・・・ロクサーヌとエリクサンデル二世についての消息は、何一つとして伝わっていなかった。


焚火の前に座ったまま、ギルドールは森の空をぼんやり眺めている。

そうしている内に、上空に二筋の星が流れた・・・。

「ミスティ・・・。"ヴィルヤ"を出してくれないか?」

突然ギルドールがミスティに声を掛けた。

ミスティは首元から"お守り"を引き出し、ギルドールに手渡そうとした。

「いや。それはお前が持ったままで・・・。持つ資格の無い者には・・・それは触れられない」

ギルドールはミスティの手の中の"ヴィルヤ"をじっとしばらく観察する。

そして・・・。

「やはりそうか・・・」とだけ溢した。

ミスティは訳が分からずギルドールに尋ねる。

「何がですか?叔父様」

ギルドールは、悲しそうにミスティを見つめると・・・告げた。

「たった今、ロクサーヌが亡くなった・・・。エリクも恐らく・・・一緒に」

ミスティは驚いてギルドールに詰め寄った。

到底俄かには信じられない。

「・・・どうして?何故・・・それが分かると言うの?・・・叔父様!」

ギルドールは黙って、ヴィルヤの中心で今や青く輝き大きく脈動している影を指さした。

そして告げる。

「ミスティ・・・。それに呼びかけなさい"ヴィルヤ"と」

ミスティは訳は分からずも・・・言われるがまま青い影に呼びかける。

「・・・"ヴィルヤ"」

お守りが突然青く激しい閃光を放ち、何かの影がお守りの中からいきなり飛び出した。

こぶし大の青い閃光は、ミスティの周りを何度か飛び回った後、彼女の正面で静止した。

そして・・・なんと驚くことに・・・喋った。

「こんにちは!わたしは"ヴィルヤ"です。これはこれは新しいご主人さま・・・はじめまして。・・・どうぞ貴女の名前を教えてください」

それでミスティは驚きながらも、"ご主人さま"との言葉に少し照れながら、おずおずと名を告げた。

「ミスティ・・・ミスラルディ」と。

ところが青い閃光"ヴィルヤ"の反応は・・・少々違った。

それは・・・断じて人々が期待するような・・・感動的出会いなどでは決してなかった。

「へえ・・・。・・・また"伝説のミスラルディ"さま?・・・今度で16回目だっけ?」

ギルドールが苦々しい顔をしながら会話に割り込む。

「ヴィルヤ・・・。お前はいつも・・・口が過ぎる」

ヴィルヤは今度はギルドールに話しかける。

「ギルドールさま、おひさしぶり―。・・・確か13年前に、わたしが封印される直前にお会いしたっ切りでしたね―」

そして遠慮のかけらもなく続ける。

「心配しなくても大丈夫ですよー!ちゃんと仕事はするからさー。でも・・・今度の"ミスラルディさま"は、今度こそ"世界の救い主"に・・・なれるのかな?」

あまりにあまりな・・・何とも不敬で失礼千万な・・・ヴィルヤの物言いだった。

それでびっくり面食らったミスティは、ついつい・・・口走ってしまう。

「わたし・・・あなたのことが・・・ひょっとして嫌いかも・・・」

ヴィルヤは全く動じる気配もなく、平気の平左とばかりに返答する。

「これはこれは・・・。心温まるお言葉をどうも―。・・・それはそれは、お互いにたぶん気が合いますね―。それはさて置き・・・どうぞよろしくー!」

ギルドールは額を掴んで、・・・既に頭が痛そうにしている。

そんなこんなで・・・とてもじゃないが、普通ではあり得ない出会いを果たしたミスティとヴィルヤであった。


そんな彼女らの特殊な出会いはさておいて・・・。

暫くしてギルドールは、ロクサーヌとエリクの死を察知した理由を教えてくれる。

「ヴィルヤは・・・前の主人が亡くなって初めて目を覚ます。・・・そしてヴィルヤが目覚める時は、星が流れるとも聞く」

「先ほど、森の空に二つの流星を見た。・・・そしてヴィルヤが目覚めた。だからロクサーヌと、恐らくエリクも亡くなったのだと・・・思った」

ミスティはただ黙って、ただ静かに涙を流す。

分かってはいたのだ・・・。

・・・ただ自分は、それを・・・認めたくはなかったのだ。

ロクサーヌ様・・・いいえ私の・・・お母さまは確かにそうなると言ったのだ・・・。

ギルドールは尚も続ける。

「"ヴィルヤ"は通常、ミスランディア一族のおさの死の床で次の長に伝えられるものだ・・・。しかしロクサーヌがお前を生んだ時、大王ターワンは既になかったし、ロクサーヌ自身何時いつどうなるか分からなかった」

「なので、お前が生まれた時、何時いつ何があっても良いように・・・ヴィルヤを封じてお前の守り神としたのだ」

「お母さま・・・」

ミスティは、親子の交流を持てなかった、ロクサーヌの密かな深い愛を感じ、再び涙する・・・。

そんな空気をヴィルヤがぶち壊す。

「何で人ってのは・・・いちいち人の生き死に感情を動かすのかなー?人はいつか死に、また人は生まれる。未来永劫ずっと昔から・・・の事実なんだけどねー」

ミスティが怒って叫ぶ!

「・・・あんたなんか!・・・大っ嫌い!」

このやり取りは、今後二人の"お約束"となるのであった。

・・・ついでにギルドールがそれに頭を抱えることも。


・・・話が進まないので、この後になされた彼らの会話に移る。

ギルドールがミスティに話している。

「俺たちはこれからアンデュイン大河を上流に遡り、ミスランディアの里に向かうことになる。・・・ほとんどが森の中だ」

「俺はこの後の旅路を、それほど楽観していない・・・。俺やお前がアキレウスに居ないことは、3部将達には既にバレていると思う。・・・連中はそれを放置するほどお目出度くはない」

ミスティが心配そうにギルドールに尋ねる。

「叔父様は、まさか彼らが追ってくると・・・?」

「間違いなく追手が来るだろう。それとこれからは行く先の里や村でも用心が必要だ。立ち寄るのは短時間にし、そこではよっぽどで無ければ・・・泊まらない方が安全だろうな・・・」

間違いなく、悲惨な旅になりそうなギルドールの予想に、ミスティは深く落ち込む・・・。

「叔父様・・・。ミスランディアの里って、・・・どれぐらい遠いの?」

ヴィルヤが聞かれもしないのに、明るく勝手に不安そうなミスティに返答した。

「まあ、ミスティさまの足では半年は余裕でかかるかなー?ロクサーヌさまの時でも、3か月はかかったしー。今度はずっと隠れながらでしょー?恐らく1年はたっぷり見たほうが・・・」

再びミスティが叫ぶ!

「あんたなんか!・・・大っ嫌い!」


・・・ミスティたちの苦難の旅は、まだ始まったばかりであった。

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