インターミッション 2.5
ドラコ大公領情報局の一室
ハルコネンはマリーエンブルクで放映された、星系間衛星放送ニュースのダイジェスト版を見ている。
「・・・ご覧下さい!勇士達の行進のあとは・・・只今、宮殿バルコニーにヘルマン辺境伯殿下と、今般のエレギオン戦役一番の功労者"救国の英雄"ノエル・フォン・ローリエ中佐の姿が現れました・・・」
マリーエンブルク領の"エレギオン戦役祝勝記念式典"は予定通りの日時で開催された。
しかし・・・。
そこでハルコネンが「尚、辺境伯太子ハインリヒ殿下と弟君グンター殿下は、急病により欠席されました・・・」か、と呟く。
そして、執務机の脇に控える女性に声を掛ける。
「芙蓉・・・。今回の結果、どう評価すべきだろうな?」
"芙蓉"と呼ばれた女性は、表情を変えず淡々と答える。
「マリーエンブルクは、太子とその弟を失い大きな痛手を受けました。直系の後継者が居なくなった事で、次に我らが付け込む余地が広がったかと・・・」
ハルコネンは機嫌よさそうに嗤う。
「まあ、そうだな・・・。これで少しはウルクに対して顔向けが出来るってもんだ。しかし・・・」
そこでハルコネンは、少しだけ顔を顰める。
「我々としたら、グンター殿下が生き残ってくれた方が、後々色んな意味で都合が良かったんだがな・・・。あの"英雄殿"を見ろよ。増々星系軍内での地位を固め、今後は彼主導でまた"突拍子"もない戦術をぶつけてくるだろうよ」
芙蓉がそれに同意する。
「彼自身もそうでしょうが、脇を固めるスタッフが実に優秀です。・・・特に副官のノルトライン大尉。今回彼女の手の者にわたくしも追い詰められ、ようやく這う這うの体でドラコに逃げ帰ったと言うのが実情でして・・・」
ハルコネンもそれに渋々と同意する。
「所詮・・・あのお坊ちゃまとは、周りも含めて役者が違ったと言う訳だ・・・」
そこでハルコネンは、映像装置を切って話題を変える。
「では・・・メロヴィング方面の動きは?」
芙蓉はその話題に乗る。
「それが、あの派手な立ち回りが大好きなトリスタン殿の周辺が、なぜか今ピタリと動きを止めていると・・・」
ハルコネンが面白そうな表情を見せる。
「ほう・・・。するとあの御仁は、ようやく新たな悪戯の種を仕込み終えたと・・・。何か掴めたか?」
「流石にそこまでは・・」と芙蓉。
「では、しばらくは様子見か・・・。では・・・芙蓉。お前の今後の予定は?」
ハルコネンの問い。
芙蓉は即答する。
「当分マリーエンブルクには行けないので、ここドラコで・・・次の策謀の準備を始めます」
ハルコネンは納得したように頷く。
「その計画概要が固まれば・・・報告するように。・・・私が驚くような策謀を期待してるぞ」
「承知いたしました」
芙蓉は恭しくハルコネンに頭を垂れる。
(ハルコネンさまが、とても驚くこと疑いなしの、飛び切り素晴らしい策略をね・・・)
芙蓉は最後の言葉を、・・・ハルコネンには告げなかった。