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【書籍化】冷遇され、メイドとして働く公爵令嬢ですが、帝国の皇太子殿下に見初められました!  作者: 櫻井みこと


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「何よ、自分のやり方が悪かっただけじゃない。私のせいにしないでほしいわ」

「何だと?」

 醜い言い争いに、ゼフィールがさっと手を上げると、背後にいた騎士たちがふたりの口を布で封じる。

「これほどの罪を重ねたのだ。極刑は覚悟しているだろう?」

 それでもしばらく騒いでいたふたりだったが、冷酷なゼフィールの言葉に、青ざめて俯いた。

 叔父の刑は、父を殺した毒と同じものを、父が摂取させられた期間と同じだけ飲むもの。

 そして義母は、僻地での労働刑となり、今までオフレ公爵家から奪った財産の返還を求められた。

 それは膨大な額であり、一生働いても返せないかもしれない。

 叔父は放心し、義母は泣き崩れた。

 さすがのマリーゼも、青ざめた顔をして震えている。

 それは、今までのような演技ではなかった。

「……レオンス様」

 マリーゼが助けを求めるようにレオンスを見ると、それに奮起したのか、レオンスがゼフィールに訴える。

「自分がオフレ公爵代理の娘であることを、マリーゼは知らなかったのだ。彼女も騙されていただけ。被害者だ!」

 それに答えたのは、ゼフィールではなかった。

「自分が冷遇されていると、異母姉に虐められていたと嘘の証言をする者が、被害者だと?」

 怒りを滲ませるエクトルの言葉に、レオンスは気圧されて口を噤む。

 つい最近まで毒に冒されていたとは思えないほど、エクトルの瞳は鋭い瞳を帯びている。

「むしろリゼットを苦しめて楽しんでいたのだろう。欲に溺れた両親よりも、質が悪い」

「そ、そんな……。酷い……」

 エクトルの辛辣な言葉に、マリーゼの瞳にたちまち涙が溢れる。

「貴様、マリーゼを侮辱するとは!」

 激高したレオンスがエクトルに詰め寄ろうとするが、たちまち騎士たちに取り押さえられた。

「何をする、無礼者!」

 レオンスがわめきたてるが、騎士たちはレオンスを解放しようとしない。ますます強く押さえつけられて、うめき声を上げる。

「貴様ら、こんなことをしてどうなるかわかっているのか? 父上が黙ってはいないぞ」

「心配するな。父にはすでに、すべて報告している」

 ゼフィールの言葉に、レオンスはびくりと身体を震わせた。

「ち、父上に?」

「ああ。王族としては軽率な行動ばかりで、失望した。そう言っていた。これ以上自分の立場を悪くするようなことは、言わない方が良い。しかも彼女は、オフレ公爵代理よりも重い罪を犯している」

「え」

 レオンスは呆然とした顔でマリーゼを見つめた。

「わたしは、そんなことはしていません。レオンス様、どうか信じてください!」

 マリーゼは涙ながらに訴えている。

 その様子はあまりにも悲しげで、同性のリゼットから見ても儚く、可憐だった。

 今までのレオンスならば、そんなマリーゼを見たら何が何でも守ろうとしただろう。エクトルだけではなく、ゼフィールにも反論したかもしれない。

 けれど、父に失望したと言われたことで、相当動揺している様子だった。

「マリーゼの罪とは……」

「レオンス様、ひどい……」

 ぽろぽろと涙を流すマリーゼを見ようともせず、レオンスは異母兄だけを見つめている。

「例の男を」

 エクトルが騎士にそう指示すると、彼はひとりの男を連れてきた。

 項垂れた様子のその男を一目見たマリーゼが、青ざめた顔をして、その名を呼ぶ。

「クリス!」

 クリスと呼ばれたのは、マリーゼのお気に入りの従者だった。

 リゼットが襲われたとき、暴漢たちを指示していたこの男を、近衛騎士たちは捕らえたのだろう。

「マリーゼ様、申し訳ございません……」

 呻くようにそう言った従者の言葉に、マリーゼは激しく動揺していた。

「先日、町に出たリゼットを殺そうとした男たちがいた。その男たちを指示していたのが、この男だ」

「リゼットを?」

 レオンスは困惑したまま、マリーゼとリゼットを交互に見つめている。

 今までマリーゼを、か弱く健気な令嬢だと信じていたレオンスは、信じられないような顔をして、マリーゼを見た。

「まさか、そんなことを」

「レオンス様、わたしは無実です。信じてください!」

 悲痛な叫びに、レオンスは手を伸ばそうとした。

「この従者は、マリーゼの命によってリゼットを殺害しようとしたと、証言している。実行犯の男たちが謝礼としてもらった宝石も、オフレ公爵家から持ち出したものだと証明された」

「……クリス?」

 自分の企みが露見したことよりも、従者が証言したことが信じられないようで、マリーゼは震える声で彼の名前を呼ぶ。

「あなたがわたしを裏切るなんて……。ひどいわ。愛しているって言ってくれたのに」

「どんなにあなたを愛しても、愛していると言って下さっても、あなたは王子と結婚するのでしょう? それなら、いっそともに……」

 その会話を聞いて、リゼットは、マリーゼの本命が従者であったことを知る。

 レオンスにもそれがわかったのだろう。

「マリーゼ、お前は……」

「ち、違うんです、レオンス様。わたしは……」

 レオンスに縋ろうとしたマリーゼを、レオンスは以前リゼットにしたように、突き飛ばした。

「近寄るな!」

「きゃあっ」

 床に転がったマリーゼを、騎士たちが拘束した。

「ではこのふたりは、ユーア帝国に引き渡してもらう」

 エクトルがそう言うと、マリーゼとクリスは驚いたように彼を見た。

「え? どうして……」

「ユーア帝国とは」

 リゼットも、異母妹がユーア帝国に引き渡されるとは知らなかった。

 驚いてエクトルを見上げると、彼はとても厳しい顔でマリーゼを見ていた。

「この国で犯した罪もあるが、キニーダ国王と交渉して、こちらに引き渡してもらうことになった。ユーア帝国では、皇族に危害を加えた者は、地下にある牢獄で終身刑と決まっている」

「こ、皇族って……」

 身に覚えのないことだと、マリーゼは味方を探して周囲を見渡す。


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