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「アーチボルド、来ていたのか」

 ふと奥から声が聞こえてきた。

 振り返ると、ちょうど休憩室から戻ったらしいエクトルが、ふたりを見つめていた。

 リゼットはすぐに彼の顔色を確認し、先ほどよりもよくなっていることを確認して、ほっとする。

 そんなリゼットに、エクトルは苦笑しながらも、アーチボルドに声をかける。

「ゼフィールに話がある。会えるか?」

「はい。この時間なら、執務室にいるかと思われます」

「では、すぐに行こう」

 そう言ったエクトルは、リゼットを見た。

「彼女も連れていく」

「リゼット様も?」

「そうだ。彼女自身にも関わることだ」

「承知しました」

 アーチボルドは多くを尋ねず、エクトルの言葉を受け入れた。

 アーチボルドは、王太子であるゼフィールの護衛であり、近衛騎士でもある。

 そんな彼を従わせるエクトルは、いったい何者なのか。

 そんなことを少しだけ考えたけれど、彼自身が話さない以上、知ることはないだろう。

 それよりも、彼の話がリゼットに関わることだという方が重要だ。

 おそらくエクトルは、今朝のことをゼフィールに話すつもりなのだろう。当事者である自分も同行する必要があるようだ。

 エクトルが借りた本を資料室に返し、そのままエクトルとアーチボルドとともに王城に向かうことになった。

 ちょうど授業が終わったらしく、教室から生徒が次々と出てきた。

 彼女たちは皆、アーチボルドの存在に驚き、その背後にいるエクトルを見て頬を染め、そして最後にリゼットを見て顔を顰める。

 どうしてあんな子が、という声が聞こえてきて、リゼットは俯いた。

「今朝も思ったが」

 エクトルにも、その声が聞こえていたのだろう。

 歩きながら、不機嫌そうに言う。

「キニーダ王国の貴族は、これが普通なのか?」

 この国を批判するような言葉にどきりとしたが、アーチボルドは同意するように頷いている。

「学園はどうしても、そのときの生徒の雰囲気が反映されますから。もちろんゼフィール様が在学していた頃は、このようなことは皆無でした」

「まぁ、ゼフィールならそうだろうな」

 あっさりと王太子の名を口にするエクトルに、ただうっとりと眺めていた周囲の人たちの視線が、困惑したものとなる。

 それを一切顧みることなく進んでいたが、学園の入り口に立っている人影を見て、エクトルは足を止めた。

 ふたりの背後から同じ方向を見つめたリゼットは、そこに婚約者と異母妹の姿を見つけて息を呑む。

 教室にいなかったので、わざわざここでリゼットを待ち構えていたのだろう。

 また何かされるかもしれないと、さすがに怖くなった。

「アーチボルド」

「承知しております」

 エクトルは、そんなリゼットをレオンスの視線から庇うように前に立つと、小声でアーチボルドの名を呼んだ。

 彼の方は心得たように返事をすると、ふたりのもとに歩み寄る。

「心配はいらない」

 アーチボルドの後ろ姿を見つめながら、エクトルはそう呟いた。

 その言葉通り、レオンスはアーチボルドと少し言葉を交わしただけで、何か言いたげなマリーゼを連れて、そのまま立ち去った。

 この学園では絶対の支配者であるレオンスも、異母兄のゼフィールには敵わない。

 不安そうな様子でレオンスにしがみついていたマリーゼだったが、立ち去る寸前、リゼットを憎しみのこもった瞳で睨み据えた。

 もしエクトルと一緒に行動していなかったら、待ち構えていたふたりに捕まっていたことだろう。

 きっとまたレオンスに怒鳴られ、マリーゼはそんなレオンスに隠れて、今のように憎しみのこもった瞳で睨まれていたに違いない。

 今朝といい、エクトルを助けるつもりが、かえってリゼットの方が救われている。

「ああ、あれが本性か。なかなか狡猾な性格のようだな」

 そんなマリーゼの表情を、エクトルは見ていたらしい。

 皮肉そうに言うと、リゼットを見つめた。

「レオンスはあの本性を知っているのか?」

「……いえ。異母妹は、レオンス様の前では、おとなしく従順でした」

 そう答えると、エクトルは呆れたようだ。

「そうか。まだ知っていた方がよかったな」

 第二王子という立場を考えてみると、エクトルの言う通りだ。

 王族は、そう簡単に誰かに操られてはならない。

 それなのにマリーゼの言うことをすべて信じ、義母によって引き合わせられたとも知らずに寵愛している。それは、いくらレオンスが臣下になるとはいえ、王族としてふさわしい行動ではないのだろう。

「まとめてゼフィールに報告するか」

 そう言ったエクトルと戻ってきたアーチボルドに連れられて、リゼットは昨日と同じように、王城に行くことになった。

 前回と違うのは、王城の客間ではなく、ゼフィールの執務室にそのまま案内されてしまったことだ。王太子の執務室には何人かの配下が出入りしていて、とても忙しそうだ。

 こんなところに自分がいても良いのかと不安になる。

 だがゼフィールは、アーチボルドが伴ってきたふたりを見て少し驚いたような顔をしたものの、すぐに別室に案内してくれた。

「何か問題でも発生したのか?」

 会議室のような場所に案内され、座った途端にそう問われる。

 性格もあるのだろうが、それ以前にゼフィールはとても忙しいのだろう。人の出入りがとても激しかった執務室を見て、リゼットは悟った。

「問題を起こしたのは、そちらの弟の方だ」

 エクトルがそう言うと、ゼフィールの顔色が変わる。

「……レオンスか。何をした?」


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