001 死にたくない!
(死にたくない!死にたくない!)
どこかから強い意志を感じた神・寿老人は、声の主を探す。
日本列島全体を見回し、そのエネルギーを感じ取ろうと精神を集中させた。
(死にたくない!死にたくない!)
ここまで強いエネルギーを発する人間は珍しいな、と寿老人は感心する。
「あ、いたいた。」
神はその人間を見て、ああなるほどと納得した。
声の主は、年若い少年だったのだ。
一般的に、生命エネルギーは若い程強いとされている。
(それじゃ、彼にしてみようか。)
寿老人は目を閉じ、念を唱える。
意識の半分が手元の扇子に流れ込み、残り半分で術式を発する。
するとその瞬間、扇子は神の手から消え、現世へと送られた。
◆◇◆
帝暦1507年。
日本列島は乱世の最中にあった。
武家の棟梁である将軍の権威はもはや衰え、帝都は有力諸侯による権力争いの巣窟と化していた。
地方領主は幕府から実質的に独立し、自らを王とする国家を形成しつつある。
そのような社会の混乱は、この武田王国にも波及していた。
「陛下、夜分遅くに申し訳ございません!」
「大丈夫だ、敵はどれくらいいるか」
従者は息を荒げ、悲壮な面持ちで報告する。
「は、30はいるかと...」
(正面切って戦うのは厳しいか...)
「お前達はここで時間を稼げ。俺は隠し通路から外に出る。厳しいと感じたらお前達も脱出しろ」
「いえ、ここで少しでも陛下が逃げるための時間を稼ぎますので、私共のことは気にせずどうか、お逃げ下され」
「...そうか、任せた」
宮殿から脱出し、深夜の街を駆け抜ける国王がいた。
彼の名は、武田信虎。
父王が先月に崩御されたことで、新たに武田王国の国王として即位していた。
(ヤバいヤバいヤバいヤバい)
(マジで死ぬ)
十字路を曲がると、馬に乗った兵士と鉢合わせる。
「貴様、何者だ」
長槍をこちらに向け、逃がさんとばかりに睨みつけてくる。
(...うわ、こいつは詰んだか)
彼の恰好はどう見ても平民ではない。
言い逃れは不可能だろう。
信虎は必死に辺りを見回す。
(...いや、やるしかねぇ)
信虎は腰に手を当て懐刀を取り出すと、兵士の顔面目掛けて投げる。
「ひっ!」
兵士は間一髪で避けたものの、バランスを崩しよろける。
すかさず信虎は兵士に飛び蹴りをかまし、地面に突き落とす。
「くっ、待て!」
信虎は奪った馬に飛び乗り、街の外へと急ぐ。
(とにかく街にいては危ない)
信虎は行き先を森に定めた。
◆◇◆
初めての投稿です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。