04 それで、私は何番目ですか?
魔王は、レイナの手を握りしめながら嬉しそうに微笑んだ。
「ウソみたいだ……」
そう呟く魔王にレイナも微笑みかける。
「それで、魔王様と結婚を前提にお付き合いしたあとは、私は魔王様の何番目の夫人になるのでしょうか?」
魔王といえば、広大な魔王領の絶対的な権力者だ。妻が二桁いても不思議ではないとレイナは思った。そして、レイナが魔王の妻になれば、レイナの家族や友人など、レイナの大切な人達を守ることに繋がる。王族や貴族の結婚とはそういうものだ。
魔王は「え? 何番目?」と呟きながら、ポカンと口を開ける。レイナはハッと気がついた。
「もしかして、私は夫人ではなく側室ですか?」
「そくしつ?」
「もちろん、かまいません。私はこれでも6年の間、王妃教育を受けてきましたので、他のご夫人方と問題を起こさぬように静かに暮らします」
レイナは『なんとなくだけど、この穏やかな魔王様なら、正室も側室も大切にしてくれそうな気がするわ』と思った。
魔王がレイナを見つめたまま小さく首をかしげる。
「レイナさん、そくしつってなんですか?」
驚くレイナの代わりに、これまでの二人のやりとりを黙って見ていたココが口を開いた。
――我が主、側室とは妻以外に側に置いて愛する女のことです。権力を持った人の男は、複数の女をめとることが多いのです。
魔王の赤い瞳が大きく見開く。
「なっ!? なんて命知らずな……。そんな恐ろしいことをしたら、奥さんに生きたまま全身の骨を砕かれたあとにコマ切れにされて、ドブ川に捨てられても文句が言えないじゃないですか……」
魔王はひどく怯えている。わけが分からないレイナに、またココが説明してくれた。
――レイナ、魔族は男女共に強く、人のように男女での体格差や腕力差はほとんどない。そして、人よりも遥かに長く生きるゆえに、恋愛はしても結婚はしない者が多い。一人でも十分に生きていけるからな。もし結婚するならば、必ず一夫一妻だ。そして、結婚の際に『決して相手を裏切らない。もし裏切れば、裏切った相手に殺されても仕方がない』という契約を交わす。
「まぁ、そうなのですか? 国や種族が違えば、文化も違うのですね」
レイナが感心していると、魔王が「僕は、レイナさんに『妻を複数持っているような男』と思われていたのか……」と落ち込んでいた。
「魔王様、申し訳ありません」
レイナが謝罪すると、魔王はゆるゆると首を振り「レイナさんが謝ることではありません」と許してくれる。優しい魔王を見て、レイナはふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「魔族はほとんど結婚しないのでしたら、どうして魔王様は私に結婚を前提のお付き合いを申し込んだのですか?」
魔王の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「魔王様は特別だから、必ず結婚しないといけないのですか?」
「い、いえ……そういうわけでは……」
「あ、魔王様には、後継ぎが必要だからですか?」
「うえっ!? あ、その……」
魔王は頬を真っ赤に染めて涙目になってしまった。
「魔王様?」
不思議そうなレイナをココが止める。
――レイナ、質問するのはそれくらいにしておけ。そういうことは、これからゆっくりと知っていけばいい。
「そうですわね。私ったら失礼いたしました。どうかお許しください、魔王様」
「い、いえ、ちゃんといろいろと説明しなかった僕が悪いです。これからは、レイナさんに僕のことを少しずつ知ってもらって、いつかは好きになってもらえるように頑張ります!」
(私がいつか魔王様を好きに……?)
レイナは、確かに目の前の魔王にとても興味はあるが、これが恋愛なのかは分からない。それは、レイナが十歳の頃から婚約していて、これまでの人生で恋愛の自由が一切なかったからだ。
家同士の利益のために結ばれた政略結婚に愛は必要ない。唯一レイナが『愛し合っている』と思っていたアルベルト王子は、レイナの外見だけしか見ていなかった。そしてレイナ自身もアルベルトのことを知ろうともしなかったし、レイナのことを知ってほしいとも思っていなかった。
今思えば、ただただレイナの外見の美しさだけを褒めるアルベルトに、人として興味が持てなかったのだと分かる。
(私が魔王様をたくさん知ったら、物語のような素敵な恋愛ができるのかしら?)
もしそうなら、それはとても素敵なことだとレイナは思った。




