12 お役に立てて光栄です
レイナの頬が少し赤くなっていることに気がつかず、魔王は一生懸命に説明を続けている。
「もちろん、レイナさんに婚約者がいることは知っていました。だから、遠くから見つめていただけなんですが、そのたびにレイナさんの素敵なところを発見してしまいまして……」
魔王が言うにはレイナの「はっきりと意見を言うところ」や「自分の意思をしっかりと持っているところ」も憧れてやまないそうだ。
(魔王様は、私の内面も知った上で、好意を寄せてくださっていたのね……)
拳を握りしめた魔王は「レイナさんって、すごくないですか!?」と、とつぜん周囲に同意を求めた。
その同意には、なぜか兄の婚約者マリアンが熱く答えた。
「分かります! レイナの素晴らしさは、まるでこんこんと湧く泉のごとく!! 簡単に語りつくせるものでありませんわ!」
「そうですよね!? その通りです! そんな素晴らしいレイナさんが、なぜか婚約破棄されたと聞いて、告白するなら今しかない! ああっ、でもそもそも僕は知り合いですらない! どうしよう、どうしよう、ああっ!! ……となった末の『太古に交わした盟約が~』という生贄を寄越せ的な発言になってしまいまして……」
魔王の説明を聞いたキースの顔からは、先ほどまでの不機嫌さが消えていた。
「魔王様、貴方のレイナへのお気持ちは分かりました。求婚の仕方に多少の問題はありましたが、そこは水に流しましょう」
「あ、ありがとうございます!」
「お二人が結婚するかは、レイナの気持ち次第と聞いています」
「はい、レイナさんが僕を好きになってくれたら結婚します。なってくれなかったら……」
魔王が暗い顔でレイナを見たので、レイナは輝くような笑みを浮かべた。
「魔王様に雇っていただきます」
魔王は「ううっ」と言いながら泣きそうな顔をしている。
キースとマリアンは顔を見合わせた。
「マリアン、どう思う?」
「私はすごく良いと思うわ。魔王さんはレイナの良いところがちゃんと分かっているもの。結婚するにしろ、就職するにしろ、二人はお似合いよ」
「そうだね」
キースは改めて魔王に向きなおった。
「魔王様、私の妹をどうぞよろしくお願いいたします」
「へ?」
レイナは、驚いている魔王の手を両手で握りしめた。
「やりましたわ! 魔王様の素敵さが伝わりました!」
「ありがとうございます。レイナさんが応援してくれたおかげです」
「お役にたてて光栄ですわ」
魔王は、赤い瞳を細めて子どものように顔をクシャっとさせながら笑った。その笑顔がとても可愛い。
(あら、私ったら男性に可愛いだなんて失礼なことを思ってしまったわ)
そのあとは、和やかな空気の中、お茶を飲んでおしゃべりをしたあと魔王は帰っていった。魔王が詠唱なしの魔法で一瞬にして消える様子をみて、キースとマリアンは驚いている。
レイナが「魔王様、素敵でしたでしょう?」と、二人に自慢すると、キースが「レイナの言う通りだったね」と優しく微笑んだ。
「ほら、レイナが言っていただろう? 『きっと、お兄様も魔王様のことを気に入りますわ』って」
「ということは、お兄様は魔王様のことを……?」
「うん、とても好感が持てたよ。今まで魔王領との交流はなかったけど、これを機に何か関りを持っても良いかもしれないね」
キースにそっと寄り添いながらマリアンも「私も魔王さんのこと、気に入っちゃった」と微笑んでいる。
こうしてレイナは、家族の許しを得て、正式に魔王の嫁候補(仮)になり、国内的には魔王と唯一交渉できる外交官という立場を手に入れたのだった。




