ぺぺぺぺぱ
俺には能力が無かった。父は物を破壊する力、母は治す力。産まれてくる子供は、二つの力が互いに打ち消しあい、消えてなくなった。無能症。小学校の時は常にナイフを持っていた。いじめられるとすぐ泣くので、着いたあだ名が泣き虫ジャック。俺は家を出た。
この世には様々なお宝があるらしい。一振で地形を変える剣や、相手を意のままに操れる宝玉。そして、無限の命を持つという不死の心臓。その心臓の持ち主が現れたと言う噂は、俺の住む貧民街にも広がっていた。
「心臓の持ち主は泣き虫ジャックだ。」
バーデンは部下に自身ありげに言った。
「あいつの殺しを見たことがある。ナイフ一本で50人。しかも中には能力者までいた。人間じゃねえ。朝までやってたんだぜ?」
部下は半信半疑の様子だった。
「確かにあいつのスタミナは能力者並ですけどね、現れたのは東京だって言うじゃないですか?あいつ、ずっとこの街にいましたよ。拳正会とバチバチだし、とても旅行する時間何て無いと思いますがね。」
「いや、不死の心臓なら何があっても不思議じゃない。思えば不吉な予感がしてたんだ。中坊位のくせしてナイフなんか握ってやがって。あん時殺しとくべきだったんだ。」
「今はもうあいつを殺せるのはダディ位ですからね。それもどっか行っちまったって言うし。」
「そう、奴しかいない。だから頼んでおいた。」
「何の事です?」
「殺しの依頼さ。やつは今拳正会にいる。」
道の真ん中で、俺は動けないでいた。後頭部に突きつけられた銃。こんなことが、確か前にもあったな。
「久しぶりだな。ダディ。」
「いや、サヨナラだぜ。相棒。二回目だな」
「撃ってみろよ。どっちがサヨナラか、すぐ分かる。」
「そう急かすなよ。今日は一言忠告しに来ただけだ。」
「忠告だと?」
ダディは銃を降ろした。
「お前も知っているだろう?不死の心臓の話。それがお前なんじゃ無いかって噂が広まってる。」
「何でだ?俺な訳が無いだろ。」
「東京で現れた心臓の男。能力を使わなかったそうだ。それで学者が仮説を立て発表した。心臓の男は無能力者。てな。」
「とんだとばっちりだな。」
「バニーズの奴らがお前を狙ってる。せいぜいきおつけるんだな。」
バーデンは苛ついていた。
「ダディの奴、はめやがった。あいつが渡して来た心臓、豚の心臓なんか渡しやがって。お陰でボコられるわ金はもらい損ねるわ散々だぜ、ちくしょう。」
「それは馬鹿すぎますよ兄貴。ちゃんと確認しないと。」
「うるせー!豚の心臓何か見たことあるか!」
「金って、何の事です?」
「東京の奴らが取引を持ち掛けて来たんだ。心臓の持ち主は無能力者だ。もし心臓を持ってきたら5億やるって。だから有り金はたいてダディを雇ったのによ。」
「そういえば最近知らない顔増えましたよね。何て言うか、小綺麗な顔が。」
「ふんっ。そんなことはどうでもいい。そんなことより金がない。お前の明日の飯もな。」
「そんな。昨日だって何も食べてないのに!」
目が覚めた。何か悪夢をみてた気がする。貧民街から100キロ離れた村、新潟に来てから一週間がたっていた。ここは夜は明かりも無く、住民も少ない。隠れるのには最適だ。ダディは何かを隠してる。確かに追われているのは確かなようだ。ウサギの刺青をいれた奴らも何人かみた。でもあの時、ダディは俺の目を合わせなかった。何かある。妹を助けるために極楽組とやりあったときだって、あいつは何も言わず一人で。 妹? 俺は急いで出掛ける準備を始めた。