夏季休暇 8
サロンへとバスケットを片手に向かう途中、グレイス率いるサロンメンバーとすれ違う。
どうやらものを運び出している最中で書類や陶器などが箱に入れられていたが、先頭のグレイスは何も手にしていなかった。彼女は嘲笑を浮かべながらラスティークのバスケットへと視線を移して声を出した。
「あら、誰かと思えばラスティーク様ではありませんこと?なんてお可哀想なの、そのような愚かな者や下賎の者と共に食事を摂ろうなんて。器が知れますわ」
「まぁ、そのように心配して頂けるなんて……けれども安心なさって。私は借り物の器を奪って満足するような人ではありませんもの。新たに作ればいい話でしょう?グレイス嬢も一度、そうしてみたらいかがかしら?」
「あら、それは失礼したわ。……それでは私は少しゴミの処理があるので失礼させていただきますわね」
穏やかに、平静を保ってそうラスティークが返すとグレイスはそっと引き下がり、一礼するとゴミを処理するために足早に去っていった。その途中、ラスティークの目に入ったのは嘗て自身がサロンで使用していたカップとソーサーの一式だったり、布地であったりしたことに気がついたが、止めることはしなかった。
そして、少し心配そうにラスティークを見ていた3人に声をかけてサロンへと、持ち運び用のテーブルと椅子を手にしたリャイナ達をおいてけぼりにするかのようなスピードで向かった。
サロンに着き、テーブルと椅子の準備も終えるとバスケットからサンドイッチを取り出し、ティーセットを用意する。リャイナが初級魔法で湯を沸かし、ティーポットに用意した茶葉と共に入れ、蒸らす。その間にフィオラ──ラスティークの唯一の味方のメイド──が花の刺繍が施されたテーブルクロスを敷きながら簡易的に昼食のセットをする。そのうちにファストレイサムも香り高く淹れられ、用意ができたテーブルの上に並べられていった。
全ての準備が終わると、ラスティークがそっと手を合わせ、祈りの仕草をする。食事前の祈りだが、今ではあまりされない作法でもあった。しかし、サロンの主がするのであれば、ということでクリュッセル達も共に祈りの仕草を真似する。そして、ラスティークがそっと言葉を紡いだ。
「天なる恵と地の息吹、今我らを生かすものは非生物であり生物である。彼らの犠牲に感謝しこの身を生かす糧とします」
全ての言葉を言い終えると、ラスティークがそっと顔を上げると笑顔で言った。
「それでは、早速いただきましょう?せっかくの紅茶が冷めてしまいますわ」
そして、4人はこれからどのペースでこのサロンを開くのか、具体的にどのように活動するのかを決めながら食事を摂り、決まったところでゆっくりと時間を過ごした。
そして、あっという間に三刻が過ぎて解散という流れになった。また明日以降はそれぞれ過ごしながらサロンに持ってくる本や小道具を用意したり起き始めるからという事もあったが、何より課題が一向に進んでいないクリュッセルとロゼールがきちんと終わらせられるようにとの配慮もあったからだった。
順繰りに帰る頃、ラスティークはフィリオスと共に帰る事になり少し学園に残り、3人は別れを惜しみながらウィーナ、ロゼールの順で帰った。そして、最後に残ったクリュッセルは見送りをするラスティークに去り際にそっと耳打ちした。
「休み明けにサロンで待っていて下さいませ。少し贈りたいものがありますの」
「何をするつもりかは分からないけれど要らないわよ」
そう言ったラスティークの言葉を聞いてもなお気にせずにクリュッセルは続けた。
「それでは、よろしくお願い致しますわね!」
「ちょっと、話を聞いてましたの!?」
その言葉に返事をすることなくクリュッセルは笑顔で手を振りながらラスティークの見送りが終わるまで見つめていた。
クリュッセルが去った後、少し学園で待機しているとフィリオスが急ぎ足でラスティークの元へと来るとラスティークは立ち上がる。コツコツと靴音を立てながら歩くラスティークにフィリオスが声をかけた。
「姉様!先に帰っていても良いと言ったじゃないですか!」
「別にいいでしょう?屋敷だとできない話も馬車の中ならできるのだから。……あぁ、フィオラには先に帰ってもらっているから安心なさい」
「そういう事では無いのですが……まぁいいです。僕も話したいことがあるので」
そう言うと、迎えの馬車へと乗り込む。少しの沈黙の後、フィリオスが口を開いた。
「姉様、お母様がまた機会があればお茶会をしましょう?だそうですよ。あの父親が居ない時期を見計らって準備しておきますね」
「……そう。お義母様が望むなら参加しない訳にはいかないわね」
少し嬉しそうに口角を上げてラスティークが言う。そして、ラスティークは喜ぶフィリオスに問いかけた
「ねぇ、フィリオス。私、またあの方の婚約者最有力候補になれるかしら?」
「それは……少し難しいかと。会長は現在気になる相手もおらず、候補者の令嬢達にもあまり興味が向いていないようで……」
「ふふっ……それもそうよね。……もしも、もしもよ。私が国を出てまで結ばれたい相手ができたとしたら、祝福をしてくれる?」
「もちろんです、姉様。けれど、姉様、その質問をしたということはそれ程までに好いている方が……?」
「なっ、何を言っているの!私はもしもの話をしただけですわ!変な誤解はやめていただけるかしら!?」
必死に否定するその姿があまりにも本当にいるかのように見えたフィリオスは少し面白がりながら『分かりましたよ』と納得したように見せかけた。
こんばんは。生徒会の話を書けなかったけどグレイス嬢を書けて良かったです。ちなみにフィリオスくんは読んでわかる通りに親愛度が高い家族にはデレデレです。可愛いです。そんな属性のキャラが好きな私は書けて嬉しいです。
↓↓↓作者の近況
推しのイメージ香水(公式)を買いました。いい匂いすぎて狂った実況をしたら友人に落ち着け。と言われました。毎日が楽しくなりつつありますがまだ咳は治りません。皆さんも健康に気をつけつつ楽しい推し活等が送れますように。




