↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/105

ドレスとコーネリア嬢の悩み

1年近く投稿が滞っており誠に申し訳ございません。

ようやく気力と体力が戻ったので再スタートです。

改めてお付き合いいただけますとうれしいです。

外の景色が柔らかい光を帯びている。

グリンフィールド王国もようやく長かった冬が終わり、春の足音が聞こえ始めている。

フェリスティアは部屋の書見台から顔を上げ、自分の部屋の窓から外の風景を見やった。

学院の試験もすべて無事に終わり、あとの行事は卒業式典を残すばかりとなっている。


試験はアメリアの言うところの最低ラインをなんとか突破し、王太子妃教育も詰め込み型座学が一段落し(大量の自主学習課題という名の宿題はでているが)、しばしの自由な時間をいただいている。


「薄桃色と薄紫色の生地、どちらか迷いますね」

「こちらの緑色もお嬢様の色白の肌に映えて非常にお似合いかと思いますよ」

「今年の流行色などはあるんですか?」

「今年はフェリスティア様ご婚約という素晴らしい報せもあってそれを意識してか青系統のお色味の生地が人気ですね。あとは赤…とりわけ深紅を避けられる方は多いかと」

「なるほど、深紅はロザリア様がご使用になると皆様予測してらっしゃるわけですね」

「左様でございます。フェリスティア様のお生地のお色が決まりましたら、こちらでもそれとなく界隈に噂を流しますので、お嬢様はどうぞ他の方のお色などお気になさらず」

「お心遣い感謝しますわ。あら、こちらのミントグリーンもキレイですね。殿下の瞳の色とも合っていていいかもしれません」

「瞳の色ということでしたら、当店の方で各色宝飾品類も取り揃えております。こちら、よろしければ今年の台帳をご覧ください」

「う〜ん、ますます迷いますね〜」


私の部屋には今、ミリー曰く王都で1番の人気という仕立て屋と宝飾屋が来ていて色とりどりの生地見本や宝石類のカタログを机いっぱいに広げて見ている。

主にミリーが。

結婚式のドレスの件以降、私のセンスや知識はてんで信用されておらず、ドレスや宝石類の話において私は完全に蚊帳の外だ。

結婚式のドレスについては結局クロフォード殿下の案を下地に他の皆の要望を取り入れるという形になんとか落ち着いたらしく、絶賛製作中らしい。


「フェリスティアは当日を楽しみに待っていて」


と、鼻歌まじりのクロフォード殿下に言われている。

ドレス戦争に破れたことが余程悔しかったのか、それでは、とミリーから提案されたのがこの卒業式典のドレス製作についてだ。

結婚式のドレスは譲るから式典のドレスはアーリア家で作りたいというわけである。


「見ていてくださいフェリスティア様!アーリア家の威信にかけて、必ずや式典の華にふさわしい、素晴らしいドレスをご用意してみますので!!」


ミリーは燃えに燃えていた。

ルーベン様からは「金額に上限は設けない」という言質まで勝ち取ってきて日夜他の侍女達や業者達と綿密な打ち合わせを重ねている。


「(ドレスの装飾とか金額とか)色々お手柔にね」とは伝えているのだが果たして聞き入れてもらえるのか、今から頭が痛い。


「失礼致します。フェリスティア様、イリス様とコーネリア様の馬車が到着なさいました。お迎えのご用意をお願い致します」

「ありがとうアメリア、今行きます。温室のお茶のご用意は大丈夫かしら?」

「はい、お嬢様のご予定通り、始めは妃殿下からいただきました茶葉をストレートで、次はハーバー家の新商品の茶葉をミルクでお出し致します。お菓子や軽食も紅茶に合うものをご用意致しました。ご招待のお嬢様方がなにかお持ちくだいましたら、そちらもお出し致します」

「ありがとうアメリア、万端ね」


今日は学院で親しくしていただいてるイリス様とコーネリア様をお招きしてのお茶会だ。

私がお茶会を主催するは初めてのことなので、正直緊張している。

以前、シェリル妃殿下にお茶会にでた経験があまりないと話したところ、「積極的に主催して積極的に参加しなさい」と「宿題」を出されたのだ。


シェリル様曰く、晩餐会や舞踏会などは王室主催となることが多く、皆、公式な行事であるという認識が強いため格式ばったものになることが多い。

しかしお茶会ならば王妃、王太子妃が主催することができ、ある程度自由に開催することができるため、招待客も肩肘張らずに参加できて話が弾むことが多いのだそうだ。


そしてアメリアとジェラルド曰く、妃殿下のあだ名は「外交妃」。

お茶会を通じて他国の王族や貴族の内情を聞き出し、時にはうまい具合に調整までこなしてしまう。

それもグリンフィールド王国の利となるように。

その社交性と外交力の高さは国の外交官が舌を巻くほどだという。

「たまに我が国の情報が漏れていないか、心配ではありますが」とは、ジェラルド談。

「妃殿下のそういった長所については、国王陛下も頼りになさっておりますので」とはアメリア談。


お互いの長所を生かし、国に尽くしているお二人の様子は本当に尊敬する。

私もお二人のように、クロフォード様と支え合いながら王太子と王太子妃として頑張らねばと身が引き締まる思いだ。

まぁ、クロフォード様の足りないところも思い当たらなければ、私自身がフォローできそうなところも思い至らないのではあるが。


「…お嬢様の長所につきましては、これからの妃教育や王太子妃としてのご活躍の中で、ご自身で見つけていかれるべきことかと思いますので」

悩み顔の私に対して、顔を見合わせたジェラルドとアメリアはやれやれといった表情でそう締めくくっていった。


〜・〜・〜・〜・〜


「ご機嫌よう、フェリスティア様」

「本日はお招きいただきありがとうございます。楽しみにしておりましたわ」

「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます。本日は宜しくお願い致します。あら、フェリスティア様、今日のお召し物、とてもお似合いで素敵ですわ。どちらのお品ですの?」


お見えになったイリスとコーネリアはあちこちのお家のお茶会に参加なさっているそうで、対応に慣れがある。

案内されて着席されるまでの流れも、そこに至るまでにそこここのポイントで主催者自身や家などを褒めそやす会話術など自然で全く嫌味も感じさせない。

やはり見習うべきポイントは多い。

そんなことを考えていると、クスクスと2人の笑い声が聞こえた。


「フェリスティア様、難しいお顔になってますわよ?」

「まずはお茶会を楽しみましょう?親しくしている学友同士でお茶を楽しむせっかくの機会なのですから」

「すっすみません!」


私に聞こえるようにだけ小さく咳払いをしたアメリアが最初のお茶をカップに注いでくれる。


「イリス様とコーネリア様は卒業式典のご準備は進んでらっしゃいますか?」

「えぇ、すでに装飾品とドレスのデザインは決まりましてあとは生地を決めるのみですわ」

「やはりロザリア様は深紅をお召しになるかしら、今年の流行色は水色と聞きますし、それを避けた方が目立つかしら。フェリスティア様はもうお決めになりまして?」

「いえ、まだ決まってなくて」

「あら、皆さんフェリスティア様のドレスの色が決まるのを首を長くして待っているんですのよ」

「えっ、そうなんですか?」

「だってこの式典、やはり主役はクロフォード殿下とフェリスティア様ですもの!お二方と同じお色のドレスなんて着られませんわ」


まさか私の丸投げとミリーの熟考によってそんな弊害がうまれていたとは。

これは一刻も速くドレスを決めなくてはならない。


「でも迷われるのもわかりますわ〜。今年は生地のお色も素材も、どれもとても素敵ですもの。なんでもフェリスティア様たちの婚礼でドレスの受注が増えることを見越して、世界中から色々な生地が国内の仕立て屋や生地屋に集まってると聞きましたわ。私も目星はつけているんですけど、なかなか決められなくて」

「イリス様はどのようなお色が候補なんですか?」

「私は柔らかな黄色か濃いピンクが気になっております。コーネリアは決まっているの?」

「私は緑の系統で濃い色にするか薄い色にするか迷っていますの」


ピンクも黄色もイリス様の可憐で明るい雰囲気に似合っているし、緑はコーネリア様の落ち着いた大人っぽい顔立ちに似合っている。

さすが貴族ご令嬢ともなるとご自分に似合うものを熟知していらっしゃる。


「まぁ最終決定はフェリスティア様のドレス次第ということになりますが」

「うっ…あの、参考までにお聞きしたいのですが、皆さんどのようにドレスの色味や装飾を決めてらっしゃるんですか?」

「そうですね、やはり自身に似合う色、似合わない色というのは、念頭に置きますわね」

「あら、でも自分の好きな色というのも大切よ?せっかくの晴れの舞台、気に入ったのものを身に着けたいじゃない?」

「まぁそれもそうね。あとは周囲のご令嬢と被らないお色を下調べすることも大事ですわ」

「すでにご婚約者がいる方は、その殿方とお色を合わせるというのもありますわね?」

「そうね、互いの瞳の色や家にまつわる色があるとそのお色でドレスを仕立てたりとか、あとは想い人同士であれば、互いに思い出深い色や意匠をドレスに取り入れる方もいらっしゃいます」


なるほど、思い出深い色。

その選び方は考えてもみなかった。

とにかく他の方のご迷惑にならないよう早めにドレスの生地を決めなくては。


イリスがまだまだドレスについて熱く語る中、アメリアが紅茶のおかわりを注いでくれる。

視線だけで礼を言い、ふとコーネリアを見るとどこか浮かない表情だった。


「コーネリア様?宜しければ他のお飲み物をお持ちしましょうか?」


声をかけられたコーネリアははっとした顔で、ようやくテーブルに落ちた視線をこちらに戻した。


「いえ!とても美味しい紅茶でしたわ!せっかくのお茶会なのにぼうっとしてしまって大変失礼致しました」

「私は気にしてませんから大丈夫です。コーネリア様、もしかしてなにか気にかかることでもございましたか?」

「そう言えばコーネリア、少し元気がないように見えるわね。よければ話を聞くけど」


2人の心配そうな視線を注がれ、コーネリアは少し迷った後、ため息を1つついた。

私はアメリアに目配せし、コーネリアが話しやすいよう、少し離れて待機するよう促した。


「実はお見合いの話をいただいておりまして…」

「やだ!!素敵じゃない!!お相手はどなたですの!?」


イリスは頬を赤らめ興奮している。

だがコーネリアは変わらず浮かない顔だ。


「あまり気の進むお話ではないのでしょうか?」

「…えぇ、お相手はフォルスタ家の五男の方でして」

「フォルスタ家、武功のある子爵家の方ですね」


コーネリアはこくりと1つ頷く。

私は無理矢理たたき込んだ脳内の貴族辞典を紐解いていく。

たしかフォルスタ家は武功を立てて先々代の国王陛下から爵位を与えられた家だ。

今も武を生業とし、その家の男性らは騎士として国に仕えているはずである。

このまま武功を積み重ねていけば、爵位が上がる可能性もある家だ。


「五男…ということはランド・フォルスタ様かしら?」

「えぇ…」


それを聞いた途端、先程とはうってかわってイリスの表情が渋いものなる。


「ですが、珍しいですね?たしかフォルスタ家の方々は同じ武家のお家と縁談が多いという印象でしたが、コーネリア様のお家は商いを主になさっているのに」

「そうなんですが、今回はあちらのお家が今後は武家以外とも結びつきを強めたいということで打診がありましたの。我が家もちょうど、今後の販路拡大のために商家以外とご縁を持つのもいいかと考えていたところで」

「…なるほど、それでランド様がお相手、ということですのね」

「えぇ、おそらくは…」


私は思わずキョトンとしてしまう。

なぜそれで、相手がランドだと納得できるのか。

私の気配を察したイリスがなんとも言えない表情で語り始めた。


「あくまで学友同士の噂話として聞いてほしいのですが、ランド様はあまり騎士として評判が良くないんですのよ。先輩にあたる御学友の方に聞いたところでは、運動神経が少々アレということに加えて精神面でも気が弱いところがあるようで、まぁ正直、騎士に向いている方ではないというのが、巷での評価ですわ」

「騎士としての実力が評価されないと、武家同士での婚姻の際に相手のお家にあまりよく思われないでしょう。特に子爵家は貴族の階級で1番下。家格も個としての評価も低いとなるとなかなかお見合い相手も見つからないようで」

「武家は商家をやや下に見るきらいがあります。加えて商家ならば騎士としての評判はそれほど気にしないから同じ商家以外で結婚相手を探しているコーネリアの家に白羽の矢がたったのね」


コーネリアも頬に手を当てこくりと頷く。


「まぁ、なんとなくわかる気はするけどコーネリアが乗り気でない理由は?」

「ここだけの話にしていただきたいのですが、まぁランド様とうまくやっていけない気がするのと、私、商いのお仕事にできるだけ携わっていくのが夢ですの。嫁入りとなると実家でのお仕事をするのはかなり難しくなってしまうわ」


そういえば、学院でもコーネリアは経済だとか経営に関する講義を受けていた。

商家であっても女性であれば、生業に携わっていくというのは珍しい世界なので、印象に残っていたのだが、自身の目標に向けての努力だったのだ。


「とても素敵な夢ですわ、コーネリア様!」

「巫女としてご活躍なさっているフェリスティア様にそう言っていただけると光栄ですわ。ただこの婚約が成立してしまえば、難しい目標になってしまいますけど」

「今、どのあたりまでお話は進んでいますの?」

「まだ先方から打診があった段階、うちで検討中というところですわ」

「こう言ってはなんですが、コーネリアのお父様も生粋の商人の方ですからね…」

「えぇ、お相手のお家とご本人に特段の問題がなければ婚姻が結ばれると思います」


この世界では女性が働くのと同じように、貴族が自由な恋愛結婚も難しい。

クロフォード様と私のような例がまれで、貴族のほとんどは家同士の結びつきによる結婚だ。

ただ、前世の私も家同士で決められた結婚だったので、コーネリアの困惑や悩みはなんとなくだが理解できる気がする。


「せっかくのお茶会を暗い雰囲気にしてしまいましたわね。ごめんなさい、とりあえず悩んでも仕方のないことですので、今自分ができることとやるべきことに集中することにしますわ」

「暗い雰囲気なんて、そんな。あまりコーネリア様の力になれずに申し訳ないです」

「謝らないでください。明日の王太子妃たるフェリスティア様に話を聞いていただいて、ご心配していただけるだけで心強いですわ」

「コーネリア、できることとやるべきことって?」


コーネリア様は薄めの形のいい唇で、これまたにっこりと形良く微笑んで仰った。


「卒業式典のドレスを決めて、私と家にとってよりよい男性にアピールすることです。そのためにはフェリスティア様、どうぞお早めにドレスをお決めくださいませ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。