明かされる存在
書くのが遅くてすみません
今回から終章に向けて動いていきます
学院の授業終わり、シェリル妃殿下から「話しておきたいことがある」と呼び出され、フェリスティアは王城に来ていた。
城の廊下の大きな窓から見えるのは、一面の銀世界。
深まる冬の中、王城の庭はすべてが雪に覆われ、白くひっそりとしている。
季節は冬。
しかも暦の上では年の瀬が近づいており、町は非常に賑わっているとミリーに聞いていた。
前世で言うところのクリスマスやお正月のようなイベントはないものの、この時期は多くの仕事が休暇に入り、庶民らは皆、家族や友人、恋人達と共に過ごすらしい。
また、町ごとに雪まつりが開かれ、食べ物屋や雑貨屋などの露店が立つのだそうだ。
しかし城の窓から見える風景からその様子を想像することは難しい。
王家や公爵家では、働く人達に順番に休みを出すものの、特別な行事などはなく普段通り過ごすのだとルーベン様から聞いており、少し残念に感じる。
大嵐の脅威が去った後、国の各地を見て回ったものの、それぞれの町でゆっくりと過ごすことはなかったため、フェリスティアは自宅のアーリア家と王城、学院以外の場所に行ったことがあまりない。
できることなら雪まつりを楽しんでみたい。
友人や…あわよくばクロフォード様と。
公務の合間にお話したり、お茶をしたりといった機会はあるものの、2人きりで出かけたり、食事をしたりといったいわゆるデートのようなことはしたことがない。
もちろんクロフォード様はお忙しく、警備の面やこの世界の貴族社会特有の婚姻前の男女を2人きりにしないという風習もよく理解しているつもりだが、あわよくばデートというものを楽しんでみたいという気持ちもある。
景色のいい公園やかわいい雑貨屋さん、カフェなどにも入ってみたい。
先日のお茶会でイリス様がご用意してくださった町で人気だというお菓子はとてもおいしかったし、食べ歩きをするのも楽しいかもしれな…。
ドンっ!!
妄想もとい考え事をしながら歩いていたら曲がり角で、誰かにぶつかってしまい、思わずしりもちをついてしまった。
「ごめんね、余所見してて気が付かなかった。大丈夫?」
「こちらこそ、考え事をしていて申し訳ございません。私は大丈夫です。そちらはお怪我はありませ―」
えっ?一体どうして?
口は「せ」の形のまま、表情筋が固まってしまう。
上から降ってくる声に謝りつつ顔を上げると、かち合った瞳は柔らかなブラウン。同じ色の髪は彼の人より長く、束ねられている。その顔立ちは優しさよりも鋭さが際立っているものの、その姿はあまりに自分の愛しい人に似すぎている。
「おっ、その髪と瞳、君が次の巫女?あれ?ということは上皇后はまさかお亡くなりに?」
「ソフィア様はご健在です!!滅多なことを仰らないでください!!…すみません大きな声をだしてしまいまして」
一瞬、なんという失礼なことを言うのかと声を荒げてしまったが、はしたないまねだった。
「いやいや君は悪くないよ。俺が国を長く留守にして情勢に疎いのが悪いんだから。それにしても…」
そう言いながらクロフォード様のそっくりさんは私の顔をまじまじと覗きこんでくる。
クロフォード様そっくりの瞳に目が離せない。
「本当に空のような湖のような綺麗な天色だね。それに君自身もとても可憐だ」
そう言うなりそっくりさんは未だ床にへたりこんだままの私の膝裏に手を差し入れ、背中を支えると軽々とお姫様抱っこで持ち上げた。
「きゃっ!あっあの!自分で立てますので下ろしてください!!」
「まぁまぁ、怪我してるかもしれないし、宮廷医に見せにいこう。お連れする権利を俺にくれないかい?」
「いえ、本当に大丈夫です!お気遣いだけで充分です!きゃっ!!」
腕の中でジタバタと暴れていると、ヒュッと風を切る音が聞こえ、思わず目をつむる。
恐る恐る目を開けると、そっくりさんの頬の横に剣が突き付けられている。
「その人になにをしているんですか?」
「クロフォード様!!」
怒りに燃える目で、クロフォード様は剣を構え直した。
しかしそっくりさんはそんな様子にも、王族に話しかけられたことにも意をかいさず、口調もそのままに話を続ける。
「いや~余所見しながら歩いてたら、こちらのかわいい彼女にぶつかっちゃって。怪我してたら悪いから医者に見せにいこうかと。というか久しぶりだねクロフォード?元気にしてた?」
「そういうことなら私が連れていきますので、彼女から離れてください。フェリスティアは私の大事な婚約者です。兄上と言えど指一本触れることは許しません」
~・~・~・~・~
クロフォード様はお兄様から私を無理矢理もぎ取ると、「自分で歩けます!」という私の訴えをやんわりとスルーし、そのままお姫様抱っこで医務室まで運んでいく。
「気になるから俺も着いていくよ」と仰るお兄様もそのまま着いてきて、3人で移動する。
が、気まずい。
道すがら、お兄様は何度か話しかけるものの、クロフォード様はそのすべてを無視していたからだ。
突然やって来た異様な空気を纏う3人組に目を丸くしながらも、宮廷医はすぐに足の状態を確認してくれた。
「特に異常はありません。ご自身で歩いていただいて結構ですよ」
宮廷医がにっこりと笑って、ケガ1つないことに太鼓判を押してくれる。
「よかった!よかった!一安心!かわいこちゃんにケガなんかさせたらと思ってハラハラしたよ!」
クロフォード様のお兄様はあっけらかんと笑いながら宮廷医の肩を叩いている。
「まさか神託の巫女様におケガをさせたとなれば、国王様もお妃様もお怒りですよ」
「あぁ、特に母上からは相当なお小言を頂戴する羽目になりそうだ」
お兄様と宮廷医との気さくながらも敬意を含んだやり取りを見ていると、本当にこの方が王家の一員で、クロフォード様の兄上なのだということが伝わってくる。
「じゃ、俺も用事があるからこの辺で。そうだ、巫女様、君、名前は?」
「申し遅れました。フェリスティア・アーリアと申します」
「俺はレナフォード。以後お見知りおきを。…フェリスティア、いい名前だ」
レナフォード様はにっこりと微笑むと、さっと私の手をとり、口づけをする。
私は咄嗟のことに、はしたなくも口をポカンと開けたまま、石のように固まった。
背後ではクロフォード様が冷たい炎を発しているのが、振り返らなくてもわかる。
「じゃあね、フェリスティアちゃん!またお茶でもしようよ!」
そう言うと、レナフォード様は私達の様子など構いもせず、にこやかに手を振って部屋を後にした。
それはまさに、嵐が過ぎ去っていくようだった。
~・~・~・~・~
「も~~~。どうして私が話す前に会っちゃうの!」
本来の用先である妃殿下の部屋に向かうと、そこには、まるで少女のように頬を膨らまして文句を言うシェリル妃殿下が私の到着をお座りになって待っていた。
そして妃殿下の隣には、笑顔でヒラヒラと手を振るレナフォード様がいらっしゃった。
「私からフェリスティアちゃんに貴方のことを説明しようと思ってたのに!話の順序が狂っちゃったじゃない!」
「申し訳ございません。シェリル妃殿下」
「フェリスティアちゃんが悪いんじゃないのよ。レナードが予定より早く帰ってきて、勝手に城内をウロウロしてるのが悪いの」
「いや~以外と馬がここまで頑張ってくれちゃったし、久しぶりの実家だから懐かしくなっちゃって、つい色々見て回りたくなっちゃって」
レナフォード様は悪びれるわけでもなく、ニコニコとしている。
そんな様子にシェリル妃殿下はため息をつくと、居ずまいを正し、王妃の顔で話し始めた。
「さて、レナフォード。貴方、国王陛下に御挨拶とご報告はしたのかしら?」
「いえ、父上もお忙しいでしょうし、まずは母上に御挨拶ついでにお茶でもいただこうかと思いまして」
「貴方の今の立場を考えれば、まず陛下に御挨拶すべきです。すぐに執事に予定を確認して伺いなさい。で、そこで黙って立っているクロフォード」
「…はい」
「貴方も陛下の所へ行きなさい。話があるそうです」
「話ですか?」
「えぇ、恐らくお説教よ。さぁ2人とも下がりなさい。私はフェリスティアちゃんと話があるから」
レナフォード様とクロフォード様は渋々部屋をあとにする。
パタン、と扉が閉まる音を聞くと、シェリル妃殿下はふぅ、と小さく詰めていた息を吐いた。
「さて、何から説明しましょうかね」
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