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お支度

グレイソンさんに連行…もとい案内された部屋で待っていたのは、黒髪をしっかりと編み込んで眼鏡を掛けた女性と、金髪を1つに束ねた女性だった。

2人とも手触りの良さそうなくるぶし丈の濃紺のお仕着せに白のエプロンを着けている。


「はじめまして、フェリスティア様。アメリアとミリーと申します。お支度のお手伝いをさせていただきますので、どうぞ宜しくお願い致します。なにかございましたら何なりとお申し付けください」


2人揃ってスカートを摘まんで膝を折って優雅にお辞儀をしてくれた。

私はあわあわとお願い致します、と頭を下げるしかできない。


「それでは早速、お召し替えとお化粧をして参りましょう。お召し替えは私が、お化粧はミリーが担当させていただきます。先にドレスや装飾品を選んでしまいましょう」


黒髪のアメリアさんに連れられ、開け放たれクローゼットの中身に驚いた。


部屋と言っても過言ではないスペースに、赤、オレンジ、ピンク、青、緑、と色とりどりのドレスがグラデーションになって掛けられている。

その下には100近い靴箱が置かれ、恐らくアクセサリーでも入っているのだろう、鍵のかかった戸棚がどっしりと構えていた。


「フェリスティア様、ドレスのご希望はおありでしょうか?お好みの色やデザイン等ございましたら、仰ってください」

「…いっいえ、適当に…あの、お任せします…」

「では、フェリスティア様の瞳のお色に合わせまして、こちらの水色のドレスはいかがでしょうか。やや落ち着いたデザインですが、初めて国王様にお会いになるには失礼のないドレスかと思います。スカートの中のフリルも少なめなっておりますので、足さばきも問題ございません。お疲れでしょうから、お靴はヒールがやや低いものをご用意させていただきます」

「おっ、お願いします…」

「アクセサリーもご希望等ございませんか?宜しければ、こちらのガーネットをあしらったチョーカーはいかがでしょうか。」

「はい。それも、それでお願いします…」


お願いします、しか言えていないが部屋からドレスから何から何まで豪華すぎて、私の頭は再びショート寸前だ。


アメリアさんがドレスを準備してくれる間に、ミリーさんがメイクをしてくれるというので、金縁の大きな鏡のドレッサーの前に腰かけた。


なんとなく厳しいお姉さんという感じのアメリアさんに比べて、ミリーさんは人懐っこい笑顔が似合う同年代の女友達という感じだ。

その雰囲気もあって緊張が少し緩んでしまい、思わずここに、突然連れて来られたことと記憶がないことをつい、口にしてしまった。


「ご記憶がなくなってしまったのですか…それはなんと申し上げたらいいか…」


まるで自分のことのように涙ぐむミリーさんに、思わず若干の嘘が混じっている罪悪感がこみ上げる。

こんなこと初対面で突然言ってしまって迷惑だったかもしれない。


「左様でございましたか、さぞお辛いことと存じます」


ドレスの支度が終わったらしいアメリアさんも聞いていたのか、同情の表情で声をかけてくれた。少し厳しそうな印象だったのだが、話してみたら意外と優しいのかもしれない。


「それではフェリスティア様、もしや王族の皆様方や貴族の方々の礼儀作法などもご存知ではないのでは?」

「はい、存じ上げないです」

「左様でしたか。それでは謁見までに王族の皆様方にお会いする際の作法だけは練習致しましょう。今日は国王様へのご挨拶のみかと思いますので、ご挨拶の仕方さえ覚えれば大丈夫かと思いますので」


前言撤回。


アメリアさんが眼鏡をキラリと光らせなが(鍛えがいがあるわ~という)いい感じの笑顔で、こっちを見ている。

どう見ても私には厳しいレッスンになりそうだ…。


「フェリスティア様!湖からここまでそのまま馬車でお越しになったということでしたら、お腹がすいてらっしゃるのではありませんか!?

宜しければ謁見までに摘まめるように軽食をご用意致しますね!」


アメリアさんの一言に顔を引きつらせる私を元気づけようとミリーさんが苦笑しながら提案してくれた。

完全に気を遣われている…。


「うぅっ、アメリアさん、ミリーさん、お願いします…」


~・~・~・~・~


厳しくなりそうなレッスンの前に、アメリアさんが軽食の手配をし、ミリーさんがメイクをしてくれることとなった。


「フェリスティア様、大丈夫ですよ。ご挨拶の仕方だけできたらそんなに難しくはないはすです」

「うぅっミリーさん、ありがとうございます…」

「まずは、気を取り直してヘアメイクをしていきましょう!お嬢様はお肌もキメ細やかでらっしゃいますのでナチュラルな感じに、瞳の空色がよくわかるよう、アイメイクだけはキチンと整えさせていただきますね。髪型はお辞儀の際に気にならないようにまとめさせていただきます」


もうなにがなんだかわからないので、完全にお任せだ。


「何度見ても巫女の皆様の髪と瞳の色はお美しいです。お嬢様の天色は、私共の伝承で、天空に愛されたが故の証明と言われおります。巫女の皆様それぞれ、多少お色に個性はありますが、皆様天色でらっしゃいます。先代の神託の巫女でらっしゃった上皇后様はお嬢様の瞳より淡いお色味でした」


全く見慣れない髪と瞳の色になってしまった(残念ながら前世からの地味顔はほぼそのままだった…)鏡の中の自分を見ている間に、ミリーさんが手際よくヘアメイクを済まし、戻ったアメリアさんが慣れた手つきでドレスの着替えを手伝ってくれた。


「…うわ~!!」


アメリアさんにどうぞ、と言われ姿見(これも金で縁取られた豪華で巨大な姿見だった)で整えられた自分を見るとまさに馬子にも衣装、似合っているかは微妙だが、前世では考えられないくらい豪華に着飾った自分がいた。


「お似合いです、フェリスティア様」

「本当にお綺麗です!お嬢様」


私の後ろでは2人がにっこり笑ってこっちを見ている。

私の顔やスタイルのクオリティでがっかりさせるのでは、と思ったがなんとか満足してもらえる出来栄えになったらしい。

いえ、何とかしていただき本当にありがとうございます。


やっと準備が済んで一安心、と思っていると、背後のアメリアさんの眼鏡が怪しく光った、…気がした。


「それではお嬢様、さっそくマナー講習会へと参りましょう」


ドレスへの感動も束の間、奈落の底へと突き落とされた気分だった…。


お読みいただきありがとうございます!

つづきは明日の夜9時頃を予定しています!

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